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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

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第八十五話 「蘇る温もりと、姉弟子の気まずい背中とファスレッタ談義!」

聖女様に質問する直前、僕の頭の中は言い訳と不安でぐちゃぐちゃだった。


階段を無言で降りるのが気まずいと思ったからでは決してない!


……うん、そうだ。

僕はそんな失礼なこと、しない。たぶん。


そう自分に言い訳してから、口を開いた。


「ラフラシアン様、よろしいでしょうか?」


僕の問いに、聖女様は足を止め、振り返って微笑む。


「はい。なんでしょうか?」


その声は、城壁の石段に柔らかく響いた。


「えっと、その……さっきからお話していて思ったのですが、

 アイザックさん、とてもお若いのに言葉遣いが丁寧ですし、礼儀正しいですね?」


(やばい!僕が早く質問しないから気遣われてないか?)


聖女様は、少し嬉しそうに目を細めて言う。


「親御さんの教育が良いのか……それとも、アイザックさん本人の人柄なのでしょうか」


(あ、褒められた……!?)


顔が少し熱くなる。

そこへ、聖女様の後ろの護衛の一人が豪快に笑った。


「ああ、確かにだな、少年――アイザックくん。

 君はすごく礼儀正しいな、素晴らしいぞ。しかもその年で!」


続けざまに、ちょっとしたダメ出しも飛んでくる。


「でもまあ、言葉遣いが少しだけぎこちないな。

 その年にしてはよくできてるけどね! がははは!」


「フェイン。静かに」


ラフラシアン様が、くすりと笑いながらも軽くたしなめる。


「し、失礼いたしました……!」


(なるほど、この愉快な護衛の人がフェインさんか……)


ふむふむ、と心の中で名前をメモしてから、周りをちらりと見渡す。


カールアさんとシルファさんが、なぜかやけに誇らしげな顔をしていた。


(あ、そっか。僕、シルファさんの弟子だった……)


妙に納得したが、そこで新たな疑問が浮かぶ。


(でもカールアさん。あなたは僕の師匠じゃないのに、なんでそんなに誇らしそうなんですか……?

 ……まあ、剣も教えてもらったし、実質師匠みたいなものか)


そんなふうに考えていたら、本題を忘れかけていたことに気づいた。


(あ、危ない危ない。聞きたかったことがあったんだ)


「聖女様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「はい、どうぞ」


「今、僕たちはどこに向かっているのでしょうか?

 それと……この右脚はこの通りちゃんと動いているのですが――

 どのように“治して”いただけるのでしょうか?」


僕は、黒い右脚のつま先を少し動かしてみせる。


ラフラシアン様は一度頷き、階段を下りながら丁寧に答えてくれた。


「私たちは今、この街ナティアの領主様の邸宅に向かっています。

 そちらのほうが、アイザックさんも右脚を治したあと安静にできますから」


(領主様の……邸宅……? そんな場所に僕が行っていいのか……?)


「そして右脚のことですが――」


聖女様の視線が、僕の黒い脚に向く。


「今のあなたの右脚は、本当の右脚ではありません。

 ちょうどその黒い部分にあたる右脚は、現在こちらで保管しております。

 それは、ハルドさんの右腕も同様です」


「ええええええっ!!?」


僕の叫びが、狭い階段の空間に見事な反響音を生み出した。


あまりの驚きに、思わず左足を踏み外しそうになる。


「わっ――!」


バランスを崩しかけた僕の身体を、左右から支えてくれていた二人がぐっと持ち上げる。


「ちょっと、弟弟子! 落ち着いて!」


「アイザックくん、驚くのもわかるけど危ないよ」


カールアさんとシルファさんの声が重なった。


「す、すみませんでした……!」


僕が謝ると、前後にいたメンバーはそれぞれ耳を押さえていた。


(……そんなに大きな声出てた? たぶん出てたな……)


耳鳴りが少し残る中、再び一行は階段を下り始める。


ラフラシアン様は、振り返りながら穏やかに言葉を添えた。


「先ほど城壁の上で、みなさんがお話しされていたことが本当だとしたら……

 驚くのも無理はありません。お気になさらないでください」


「ありがとうございます……」


聖女様の言葉に、胸のざわつきが少し和らぐ。


(聖女様って、もっとこう……高慢で、近寄りがたくて、

 “神の代弁者だから当然よ”みたいなタイプかと思ってたけど……)


目の前を歩くラフラシアン様は、肩の力が抜けるような優しい雰囲気をまとっている。


(すごい優しいし、話しやすい。

 みんなこういう人なのかな……いや、ラフラシアン様が特別なんだろうな)


そんなことを考えている間に――


気づけば、階段はもう終わりを迎えていた。




階段を下り切ったところで、カールアさんが僕を背負ってくれた。


理由は単純だ。

……まだ、足取りがかなり危なっかしいからだ。


「よいしょっと。ほら、しっかり掴まってな、弟弟子」


「す、すみません……」


城壁内側の扉が開く。


キイ――と金属の軋む音とともに、

冷たい冬の風と、懐かしい匂いが一気に押し寄せてきた。


鼻の奥に残る灰の匂い。

見慣れた石畳。

遠くから聞こえてくる人々のざわめき。


――ナティアの街だ。


(……戻ってきたんだ)


胸の奥から、自然と一言がこぼれた。


「……ただいま」


誰にも聞こえないくらいの小さな声だったと思う。

けれど、そのすぐ近くで――


「……おかえり」


カールアさんが、微笑みながら、けれど少し涙ぐんだ顔でそう言った。


その声は、四日間とは思えないほど長く感じた戦いから、

僕の身も心もそっと抱きしめてくれたように思えた。




領主邸へ向かって歩く間、

一行は自然と三つの“塊”に分かれていた。


一番前には、ラフラシアン様と二人の護衛。

何やら小声で話しているが、内容までは聞き取れない。


(でも、ときどき“アイザック”って聞こえるんだよな……

 右脚を治す話をしてるんだろうけど……にしては頻度が多くない?)


少し後ろには――


ハルドさん、レオニスさん、ミレナさん、ガルドさん、ティーネさん、ロッカさん、

シルファさん、ララさん、ミリエルちゃん、ミーナさん。


戦いを振り返ったり、どうでもいい雑談をしたり、

ところどころに笑い声が混じる、にぎやかなグループだ。


そしてその中間。


前方の聖女様御一行と、後方のワイワイ組のあいだに――


カールアさんの背中に乗った僕という、“静かな塊”がひとつ。


(これ……なんか、オセロの黒一個だけ取り残されてるみたいなんだけど……)


前世の記憶がふいに浮かぶ。


白と黒の石を交互に置いて、

相手の色を自分の色で挟んでひっくり返す、あのゲーム。


(前が白、後ろも白。

 で、そのあいだに挟まれてる僕だけ“しーん”って……

 オセロ理論でいったら、そろそろ僕も“ワイワイ側”にひっくり返してほしいんだけど!?)


身体が触れあっているせいか、変に意識してしまって余計に恥ずかしい。


(いや、これは仕方ない。おんぶしてもらってるだけ。

 変な意味じゃないからね僕!! 落ち着け僕!!)


年齢だって、そんなに離れているわけじゃないはずだ。

それなのに、なぜか距離の取り方が難しい。


(でも、修行とかも一緒にしてくれたし、

 色々気にかけてくれたし……僕のこと、気まずいなんて思ってるわけないよね。

 “弟弟子”だし……うん)


そう自分に言い聞かせながら、

何か話題を振ろうと、前のカールアさんの横顔をそっと覗き込んだ――


(やべえええええ!! 僕より気まずそうな顔してる!!!)


めちゃくちゃ無言で歩いてる。

肩もちょっとだけ固い。


(え、僕のこと弟みたいに思ってくれてるんじゃないの……?

 兄弟姉妹って、こんなに気まずくなるの!?

 だめだ、僕一人っ子だったから分からない!!)


このままだと、

「オセロの真ん中に一個だけ取り残された黒石」のまま終わってしまう。


(でもなんか、声かけないと逆に失礼な気がしてきた……)


よし、こういうときは――


(ご飯の話だ!!)


前世の自分は、わりと食べるのが大好きだった。

……気がする。記憶の中の僕はだいたい何か食べていた。


この世界に来てからは、

生きることで精一杯でグルメ脳が眠っていたけれど――


(今なら、ちょっとくらい顔を出してもバチ当たらないよね……!)


「カールアさん」


おそるおそる呼びかけると、

カールアさんの肩がびくっと揺れた。


「な、なに、弟弟子?」


「そういえば修行のとき、携帯食に飽きたって言ってましたよね?

 あの、ファスレッタ? でしたっけ。

 あれ食べたいって言ってたの、僕、気になってたんです」


さっきまでどこか気まずそうだった横顔が、

ぱっと明るくなるのが、背中越しでも分かった。


振り返った片目で、僕をちらりと見ながら言う。


「そうそう! ファスレッタ! 食べたくなってきた!!」


(顔が“思い出した! 食べたい!”って完全に言ってる……!)


「弟弟子、この街に飲食店が並んでる通りがあるの知ってる?」


その問いかけは、

食欲に侵食されつつあった僕の理性をあっさり釣り上げるには充分すぎる餌だった。


「いえ! 知りません!

 それにファスレッタのこと、もっと教えてください! 気になります!」


がっつり食いついた。


僕の好奇心全開の顔に、

カールアさんは満足そうに、ファスレッタの魅力を語り始める。


「ファスレッタっていうのはね、小麦を使った麺料理のことで――

 お肉とお野菜を使った濃厚で食欲をそそるソースに、

 香りのいい香草を混ぜて、

 それをあの、もちもちのファスレッタと絡めて食べるんだよ」


「ああ……絶対おいしいやつだ……」


頭の中で、想像上のファスレッタが湯気を立て始める。


「弟弟子も、落ち着いたら食べに――」


「はい! もちろんお願いします!!!」


言い終わる前に、反射で返事が飛び出していた。


その勢いに、カールアさんだけでなく、

後ろを歩いていた皆、

さらには前方の聖女様御一行までもが、

一瞬きょとんとした顔になる。


(え……そんなに気合い入ってた? 僕の声)


でもまあ、食べ物は大事だ。命と同じくらい。




そこで、ミーナさんが口を開いた。


「私はギルドで後処理があるから、ここで失礼するね。

 脚、ちゃんと良くなったら顔くらい出してよ?」


「はい、もちろんです!」


続いてミリエルちゃんも、くるりと振り返りながら笑った。


「わたしもミーナお姉ちゃんのお手伝いしてくる!

 早く良くなってね、アイザックくん!」


「うん、ありがとう!」


「俺たちもギルドに行かなきゃですよね?」


ガルドさんがロッカさん、ミゼスさん、ティーネさんを見ながら言う。


「そうだな」


その流れの中で、ふと疑問が浮かんだ。


(あれ……パトロール・ファングって、もう一人いたよな……)


「あ、レントさん!」


思った瞬間、口に出ていた。


その名を聞いた途端、

パトロール・ファングの三人が同時に「ひえっ!」と声を上げて振り返る。


もちろん、そこにレントさんの姿はない。


「おい、アイザック。悪ふざけはよしてくれよ……」


ロッカさんがひきつった顔で言う。


「え? なんのことですか?

 レントさん、そういえばいないなって思ったら、そのまま口に出ちゃって」


「……なんだ、そうなのか」


ロッカさんが胸をなでおろし、

ミゼスさんとティーネさんもほっとしたように息をついた。


「任せっきりなんだよな、レントに……」


ハルドさんが、三人を見ながらぼそっと刺すように言う。


「す、すみません!!」


三人の声が、見事なハーモニーで重なった。


「それは、レントさんに言いましょう。ってことで――俺たちもここで分かれます」


ガルドさんがそうまとめると、

分かれるメンバーは、改めてラフラシアン様たちへ畏まった挨拶を送った。


「アイザック、じゃあな! 早く良くなれよおお!!

 “英雄の凱旋と宴”もしなきゃいけないからな!!」


「え、英雄の……なに?」


手を振りながら見送りつつ、頭の片隅で引っかかる。


(英雄の凱旋と宴って、なんだそれ……

 でもまあ、脚が戻ってからでいいか)


そういえば、とふと思う。


(風灯り亭のみんなにも、顔を出したかったな……)


今は聖女様も一緒にいるし、

中途半端に途中抜けするわけにもいかない。


(うん、脚がちゃんと戻ったら、改めて挨拶に行こう)


そう自分に言い聞かせる。


残ったのは、

ラフラシアン様と護衛二人。

ハルドさん、レオニスさん、ミレナさん。

シルファさん、カールアさん、ララさん。

そして、僕。


一行は再び歩き出す。



「では、私たちは――ここのナティアの領主様の邸宅がある、あそこですね」


ラフラシアン様が前方を指さす。


「この区画から先が、領主様の邸宅となります。

 確か、そうですよね? ハルドさん」


「はい、聖女様。あそこがこの街の領主、ガエル・ド・ナティアの邸宅になります」


視線の先には――


高くそびえる大きな門。

その奥には、五つの大きな建物が並んでいた。


真ん中にあるのは、ひときわ存在感のある建物だ。

おそらく本館なのだろう。


(五つとも立派だけど……真ん中のやつ、でかすぎない?)


他の四つも十分大きいのに、

本館がそれを上回るせいで、

余計に“中心”としての格を主張している。


さらに、その一帯をぐるりと囲むように高い壁がそびえていた。

二メートルどころか、三メートルはあるだろうか。


(僕の生まれた村ぐらい……は言い過ぎか。

 でも、そのくらいの“領域をまとめて囲ってます!”って感じだ……)


まさに「防犯対策はバッチリですよ!」とでも言いたげな壁だ。


門の前には、左右に門兵が立っている。

おそらく、ここの領主ガエル様に雇われている兵士さんたちだろう。


その門兵の横には――門兵とは違う意匠の鎧を身に着けた人たちが数人、談笑している。


(あの人たちは……)


肩章やマントの雰囲気、鎧の質。

どこか“聖女様の後ろにいた護衛たち”と似た空気をまとっている。


(あ、王都からの騎士さんたちかな……?)


そう思ったところで、僕たちは領主邸の門の前まで辿り着いた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


今更ではありますが、この後書きを使って、

その話ごとの思いや、ちょっとした裏話などを

みなさんと共有できたらと思い、書かせていただいています。


今回の話は、長かった戦いから少しだけ日常へ戻る回で、

みんなの距離感や空気感が見える内容になりました。


もし少しでも「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


次回も、アイザックたちの物語を楽しんでいただけるよう頑張ります!

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