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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

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第八十四話 「黒い右脚の謎と、英雄を囲む笑い声」

ラフラシアン聖女様が、まるで日常会話の続きのように

「あなたの右脚と、ハルドさんの右腕を治しますね」

と言った瞬間。


胸の奥で、何かがふっと溶けるように軽くなった。


(……治るんだ……本当に……)


あまりにも自然に告げられた“奇跡”に、思考が追いつかない。

嬉しさと安堵と信じられなさが入り混じって、数秒間、ただ余韻に浸っていた。


だが——ふと視線を落としたとき。


僕は気づいてしまった。


自分の膝の先から、不自然に黒い右脚が伸びていることに。


(……え? ちょっと待って……そもそもなんで僕の脚、黒いの?

 まるで墨を垂らして染み込んだようだ)


ハルドさんの右腕は“無い”。

普通に考えたら考えられないことだが、

百歩譲って、治すと聞いて理解できる状態だ。


だが僕は、“ある”。


右膝から先は、ちゃんと“形”がある。

なのに真っ黒で、どう見ても元々の僕の脚じゃない。


(もしかして……なんか戦場で落ちない汚れがついただけ?

 いや、そんなわけないと思うけど……)


試しに右足の指を動かしてみる。


——ぴく。


ちゃんと動く。


触ってみても、冷たくない。

痛みもない。

指先には、確かに“感覚”がある。


(……なんだこれ……? 汚れ? いや、でも……本物みたいに動く……)


混乱がじわじわと胸に広がる。


気づくと僕は、黒い部分を両手でこすったり、

靴下を脱ぐみたいに“はがせるんじゃないか”と試してみたり……

完全に挙動不審だった。


そこに、


「アイザックくん、どうしたの? かゆいの?」


シルファさんが、少し心配そうに声をかけてきた。


僕は正直に思ったままを伝える。


「あ、いえ、その……

 この黒い右脚……感覚があるんですけど、もしかしたら戦場で落ちにくい汚れがついて、

 こんなに黒くなったのかなと思って……」


——瞬間。


「ぶふっ!!!」


空気が破裂したように、周りの全員が吹き出した。


ラフラシアン聖女様まで口元を押さえて笑っていて、

護衛の二人は兜で顔こそ見えないが、肩が震えている。

絶対に笑ってる。


(え、そんなにおかしいこと言った……!?)


思わず黒い脚を掲げて、指をぴこぴこ動かしてみせる。


「ほ、ほら!ちゃんと動くんです!

 だから本当の脚みたいで……!」


「えっ……弟弟子、それ本物の脚じゃん……!」


カールアさんが目を丸くする。


「本当だ……寝ていて詳しく分からなかったが、これは驚いたな……」


ハルドさんも感心している。


「こんなの初めて見るぞ……」


レオニスさんも腕を組んで唸り、


「たしかに本当の脚みたいに使ってたけど、

 本人が言うほどに動くとなると……もう分からないですね……」


ミレナさんまで困惑している。


そしてシルファさんがラフラシアン様へ向き直り、真面目な声で尋ねた。


「聖女様。こんなケースって、見たことありますか?私は初めてです」


「ええ……私も困惑しています。

 もちろん、私もこんな事例は初めてで……どう解析すべきか……」


聖女様も眉を寄せ、黒い脚をじっと見つめている。


その場にいた皆が、ざわざわと混乱の空気をまとった。


僕は気になって仕方なく、つい質問してしまう。


「あ、あの……ひとつ聞いてもいいですか?」


みんなの視線が僕に向く。


僕はまず、聖女様に軽く頭を下げ、

それからミレナさんへ視線を向ける。


「実は僕……ここで目を覚ましてからの記憶がなくて。

 鮮明なのは……ゼールさん? あの灰色の魔族に右脚を斬られたところまでで。

 だから“本当の脚みたいに使ってた”って聞いて……どういうことなのかなって」


その瞬間——


空気がふっと変わった。


全員が「やっぱりそうだったか」と言わんばかりの顔をする。

カールアさんとシルファさんが目を合わせ、

シルファさんは泣きそうなくらい嬉しそうな表情を浮かべている。


僕は気になって声をかける。


「カールアさん……僕、何か変なこと言ってました?何かありましたか?」


するとカールアさんは、即座に僕の肩を掴み、


「弟弟子!! ——そのことはまた今度話そう!!

 今は弟弟子とハルドさんの怪我を治すのが先決だよ!

 ですよね!? ラフラシアン様!!」


あまりに速い返答に、むしろ怪しい。


だが聖女様はやわらかな笑みでうなずく。


「ええ。まずは脚と腕を治しましょう」


そして僕を支えるように立たせ、一同は城壁の階段を降り始めた。


(……なんでこんなにカールアさん張り切ってるんだろ……

 それに……前より距離感が近い……

 お姉ちゃんって、こんな感じ……?)


前世は一人っ子だった僕には分からない感覚。

でも妙に胸があたたかい。


(脚が治ったら……聞いてみよう。

 うん、今は治してもらうことに集中しよう……)


僕は身体がまだ悲鳴を上げるように酷く痛むため、

シルファさんとカールアさんに支えられながらも僕は階段を下りていた。


(なんか……この狭い空間で静かなの、少し重苦しいな……)


(よし!ここはなんか聖女様に聞いてみよう!!)


そう思っていたら、階段を降りる聖女様の背へ自然と声をかけていた。


「ラフラシアン様、よろしいでしょうか?」


振り返った聖女様は、やさしく微笑んだ。


「ええ。なんでしょうか?」


その声は柔らかく澄んでいて、

奇跡の気配をまとったまま僕の胸に染み込んでいった。


——ここから始まる“治癒”と“真相”の時間を予感させるように。

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