表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/275

第八十三話 「聖女の来訪と、英雄を測るまなざし」

冬の風が城壁の上を滑るように流れた。

ほんのわずか――それだけなのに、空気の質が変わる。


(……なんだろう。この空気の張りつき方)


ただ静かになったわけじゃない。

まるで“特別な存在が空間そのものを触れた”ような、そんな感覚だった。


僕だけじゃない。

ガルドさんも、ロッカさんも、シルファさんも――

その気配に気づいたのか、自然と背筋を正している。


そのとき。


ハルドさんの後ろから、複数の影が現れた。

出入口に立った人物を見た瞬間、息が自然と止まる。


そこには――


光をまとうような女性がいた。


淡い雪光を吸い込むように揺れる白の薄布ワンピース。

一歩踏み出すだけで、布の端がひらりと風を色づける。


顔には薄いベールがかかっている。

だが、その奥の輪郭が美しいことは隠しきれない。


後ろに続く二人の騎士は聖なる鎧をまとい、

ただの護衛とは明らかに格が違った。


その二人の前にいる人は、

――“命を賭して守る価値のある人物”。

そういう存在だ。


女性は柔らかい声音で問いかけた。


「ハルドさん。騒ぎのあった場所はここでしょうか?

 何かあったのですか?」


穏やかさの中に揺るぎない“格”がある声だった。

彼女が歩みを進めるたび、

少し遠くにいる周囲の冒険者や兵士たちも自然と姿勢を正し、

軽く頭を下げる。


だが女性は首を振って、少し照れたように笑った。


「やめてください。ここは聖国ではありません。

 そんなふうにお辞儀をされると……恥ずかしいですよ」


その仕草は驚くほど普通の女性らしくて、

けれど彼女がまとう絶対的な神聖さと相反していて――

余計に目が離せなかった。


(なんだ……この人。優しいのに、近づくのが怖いくらい綺麗だ……)


僕はどうにか上体を起こし、身体を右へひねってその女性を見る。


ベール越しに目が合ったかどうかは分からない。

それでも――“確かに見られた”気がした。


胸が跳ねる。


挨拶をしようとしたそのとき、


「やっと……起きてくれたのですね!」


女性の声が先に降ってきた。


「無事で、本当に良かった……!

 英雄が二日も目を覚まさなかったので、心配で……」


「えっ……英雄って……

 というか――二日も!?」


思わず全力でツッコミを入れてしまう。


その瞬間、背後からシルファさんの鋭い声。


「アイザックくん」


完全に言っている。“口調、丁寧にしなさい”と。


(うわ、やばいって……!)


慌てて言い直そうとする。


「あ、申し訳ございませ――」


「いいのです」


すべてを遮るように、しかし優しく女性は言った。


「この国では、私はただの女性ですから」


その微笑みに、胸が少し熱くなる。


――だがすぐ後ろから慌てた護衛の二人の声が響いた。


「いけません! ラフラシアン様!」

「あなたは――聖国オイシ=ラ=ハレスの聖女様なのです!」


(……本当に聖女!? ガチのやつ!?)


その事実を理解した瞬間――

僕は反射で土下座に入っていた。


「ラフラシアン聖女様!!

 と、とんでもない無礼を!!」


痛む身体?

知らない。聖女が相手ならそんなのどうでもいい。


しかし聖女様は僕の肩にそっと触れ、困ったように言う。


「本当に……やめてください。

 あなたはこの街……いえ、この国で英雄と言われてもおかしくありません。

 そんな方が軽く頭を下げてはいけません」


(いやいやいや!! “国の英雄”は絶対言いすぎ!!)


僕の心の声を代弁するように、護衛の騎士が言う。


「ラフラシアン様……さすがに“国の英雄”は言いすぎかと」


(よし!!ナイス!!ほんと感謝!!)


だが聖女様は逆に小首をかしげた。


「あら、そうなのでしょうか?

 私はこの国の事情に詳しくありませんが――」


そして、淡々と、しかし衝撃的に言い放つ。


「アイザックさんは魔族、それも《魔界本土の伯爵級》を圧倒し――」


(え!? そんな戦い方した記憶ないんだけど!?)


「その魔族よりも強い存在すら退け――」


(誰!? ほんとに誰の話!?)


「さらに――

 ファズラエル騎士団の第二隊隊長レオニスさん、

 第三隊副隊長ミレナさん、

 この大陸でも十に満たぬSSランク冒険者シルファさん。

 本気ではなかったにせよ――

 その三人を一人で相手取れる者が、どれほどいるのでしょうね?」


三人は一斉に目をそらし、沈黙する。


(いやいやいや……これ僕の話……!?)


心が混乱し始めたとき、


「ラフラシアン様、その話は……!」


シルファさんが焦った声で制した。


ラフラシアン様は「あっ」と声を上げる。


「そうでしたわね。失礼!」


(……絶対なんか隠してる。マジで何があったんだ僕……)


しかし次の瞬間、聖女様は澄んだ声で告げる。


「それより――アイザックさんですね?」


一歩近づく。

その足取りはまるで“奇跡そのもの”が歩んでくるようだった。


「あなたの右脚と……

 ハルドさんの右腕。

 今から私が治癒いたします」


それは、神の使いが告げる“約束”のような言葉だった。


胸が一気に熱くなる。


(……僕の脚、戻るんだ……?

 本当に……?)


涙が込み上げる。


城壁をなぞる冬の風は、

まるで神の息吹のように僕の頬を撫でていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ