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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

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第八十二話 「英雄を囲む温もりと、城壁に訪れる聖女」

人を笑わせるって、こんなに胸が温かくなるものだっただろうか。


戦いが終わった安堵なのか、仲間がそばにいる安心感なのか――

ついさっきまで死線を彷徨っていたとは思えないほど、心がふわりと軽かった。


でもその余韻は、一瞬で吹き飛ぶ。


「ちょ、ちょっと待ってください!!

 右脚と右腕がないのに笑うなんて、みんなひどいよ!!」


叫んだ声は、どこか情けなくて、でも本気だった。


そんな僕に、シルファさんは落ち着いた声で言う。


「それがね、アイザックくん。王都からの援軍で“聖女様”が来てくださってるの。

 だから腕も脚も治るよ。安心して」


「なお、ご機嫌次第だけどねえ〜」


後半の意味深な“ひとこと”を付け足しながら、

わざわざレオニスさんの方を見る。


「おいシルファ!! お前な、そういうこと言うな! 聞かれたらシャレにならん!!」


「はいはい。お布施ちゃんと払いますって〜。ね、レオニス“おじさん”?」


「………シルファァァァ!!」


二人のやり取りは、周囲の空気を一気に柔らかくする。


(右脚と右腕……治るのか。

 ……よかった。本当に、よかった……)


胸の奥の緊張が、ゆっくり解けていく。




改めて周囲を見渡す。


冬のナティアの城壁上。

風は冷たいのに、僕は汗で全身ぐっしょり。

敷布団に枕、掛け布団三重の豪華セットで寝かされている。


(なんで僕、こんな外で寝てたんだろう……?)


体は全身包帯でぐるぐる巻き。

それでも起き上がる余力はほとんどない。


――と。


「あ、そうだミーナさんにミリエルちゃん!!」


視界に懐かしい姿が映った瞬間、胸が熱くなる。


「ひ、久しぶり。避難してたんですよね? 元気でした? っていうのも変か……」


言いかけたところで。


ぎゅうううぅ……!!


「アイザックくん!!」

「もう……もう、ほんとに……!!」


左からミリエルちゃん、正面からミーナさん。

二人が泣きながら抱きついてきた。


「うぐっ……!! く、苦しい……!」


でも、振りほどけない。

抱きついてくれる温もりが、どこか泣きたくなるほど嬉しかった。


「だって……アイザックくんが……みんなのために……!」

「死に物狂いで戦って……右脚まで失って……!」


二人の声は震えていた。


(……そんなふうに思ってくれてたんだ)


胸がじんわり熱くなる。




そのとき――


「はあ……弟弟子さぁ」


カールアさんが呆れたようにため息をつく。


「守るために剣を振るうのは、悪いことじゃないよ。

 ただね――自分がダメになったら、誰も守れないんだ」


言葉は厳しい。でも、優しかった。


続いてガルドさんが、腕を組んでうなずく。


「防衛戦が始まってから、根性はあるが頼りないところもあった。

 だが……半日足らずで“あんな戦い方”ができるようになるとはな。

 俺は、お前を尊敬する」


ロッカさんも笑って背中を叩く。


「ああ、アイザック。本当にすごいよ」


照れくさくて、思わず突っ込んでしまう。


「え、ガルドさんってそんなキャラでしたっけ?」


「おい! 今はそういう空気じゃないだろ!!」


周囲がドッと笑う。


その空気を切るように、カールアさんが口を開こうとする。


「弟弟子、一昨日なんて私に斬りかか――」


「カールア!!」


シルファさんが肩をがしっと掴んで止めた。


「アイザックくんは本当にすごい弟子だよね!!

 昨日、修行の時とは大違いだったって言ってたもんねぇ〜?」


……いや、今の言い方、絶対何か隠してる。


“あとで話そうね?”みたいなカールアさんの目が怖い。


(よし、深掘りはやめておこう。命は大切)


そのシルファさんが、僕の頭をわしゃわしゃ撫でる。


「防衛戦の前みたいに元気になって、本当に良かったよ」


(あれ……なんか僕、弟ポジションになってる気がする……

 でもまあ……いいか。悪い気分じゃないし)




気になっていたことを聞いてみた。


「ララさん……なんで僕、外で寝てたんですか?

 それに、治療も本当にありがとうございます」


ララさんは僕の額の汗を拭いながら答える。


「えっとね、アイザックくん。汗、すごかったよね?

 たぶん体に混ざった色んなエネルギーが“オーバーヒート”していたんだと思うの」


(オーバーヒート……僕、機械だった?)


「それにナティアの建物って冬のために密閉性が高いから、

 熱がこもって余計危なかったの。

 だから外のほうが血行が良くなって、代謝も上がって、

 疲労回復にも睡眠にも最適なんだよ」


「なるほど……?」


「それに――アイザックくんはもう、この街の“英雄”だからね。

 そんな功労者を治療できるなんて、回復術師の冥利に尽きるよ!」


英雄。


そう言われるたびに、胸がほんの少しだけ熱くなる。


(……悪くないな、この響き)




そんな会話をしていたときだ。


城壁の出入口から、複数の足音。


風向きが変わったような、空気が澄んだような――

そんな気配が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


ハルドさんの後方に微かだが、

その姿が視界に入った瞬間、思わず息を呑んだ。


白く清らかな薄布のワンピース。

光に溶けるような透明度の高いベール。

ゆっくりと歩むたびに、衣の縁が雪のように揺れる。


まるで“聖典の挿絵から抜け出した”かのような女性だった。


周囲の空気が自然と静まり返る。


(……あれが、聖女様……?)


いよいよ、物語がまた動き出す気配がした。

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