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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
ナティア防衛戦編

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第七十七話 「アイザック VS 騎士団――三連撃の応酬」

シルファは、アイザックの猛攻を受け流しながらも、頭の中に浮かぶ疑問符をどうしても消せなかった。


(この少年が……あの、本当に純粋で素直で、いい子だったアイザックくんなの……?)


顔立ちだけを見れば、確かにアイザックに見える。

けれど、全身を駆け巡る魔素と魔力の気配は、どう考えても“魔族”そのものだ。


それに――身体中に刻みつくされた、禍々しい紋章と模様。


(この紋章……この模様は一体……何なのよ!!)


一太刀ごとに剣圧が重くなる。

だが、それでもなお、シルファはアイザックを攻撃することを選ばなかった。


(とりあえず今は、時間を稼ぐ……!)


そう決めていた。


自分ひとりでは、この少年を“傷つけないように”止めることも、無力化して“捕える”こともできない。

本気でやろうと思えばできるかもしれないが、それは最終手段だ。

今はまだ時間稼ぎだ――


(あの二人が、そろそろおかしいって気づいてくれるはず……!

 ナティアに向かう途中、私が馬から飛び降りて、

 エンフォルス全開で猛ダッシュしたの、絶対見てたでしょ!!)


そう算段していた矢先――


「もーーーう!! いきなりエンフォルス全開で走って行かないでくださいって言いましたよね!?

 そんな速度、追いつけるわけないじゃないですか! シルファさんの、ばか!!」


森の方から、元気いっぱいの声が飛び込んできた。


オーラと魔素を巧みに扱い、必死でその高速に食らいついてきたのは、

ファズラエル騎士団・第三隊副隊長ミレナだった。


その少し後ろ――息を切らしながら、もう一人の男の声が続く。


「ちょ、ちょっと待てって、ミレナ!

 俺はな、長距離移動をお前やシルファみたいにエネルギーを使ってやるのは苦手なんだよ!

 それにナティア方面を感知したときだって、別に大勢の反応はしなかったし、

 戦場みたいな音も声も聞こえなかっただろ……!

 変な反応は、たしかに一つあったが……!」


真面目で、堅物で、なのに妙におしゃべりで部下思い。

ファズラエル騎士団・第二隊隊長レオニス。


ミレナが肩をすくめながら言う。


「その“変な反応”が、今シルファさんと戯れてますよ……」


「は?」


レオニスは、戦場――いや、すでに魔物がほとんどいなくなったナティアの外縁部を見渡した。


そこには、黒髪の少年とシルファが激しく斬り結ぶ姿。

その外側をぐるりと取り囲むように、冒険者や兵士たちが立ち尽くしている。


一見すると――


「……なんだあれは。

 戦争が終わったあとに、シルファに憧れてる少年が“稽古つけてください”ってお願いしてる、

 って光景にしか見えないんだが」


「ですよね?」


ミレナも苦笑交じりに頷く。


だが次の瞬間、レオニスは目を細めた。


「……いや、待て。あの黒髪の少年……もう戦いは終わったようには見えないぞ。

 それに、今回の防衛戦に参加してる少年って……

 移動中に聞いた“赤茶の髪の中性的な顔立ちの子”じゃなかったか?」


「ですね。どう見ても黒髪です。それに――あの紋章と模様。

 あれ、人間に刻まれてていいもんじゃないですよ」


レオニスは、ふとシルファの顔を見る。


シルファは、アイザックの攻撃を捌きながら、

「早く気づけー!」「助けろー!」とでも言いたげな全力の目配せを送っていた。


「……なぁ、ミレナ。あれ、“助けろ”って意味でいいんだよな」


「その解釈で問題ないと思います。行きますよ、レオニス隊長!」


二人が目の前の異様な光景を観察して、

会話から、実際に駆け出すまでにかかった時間は四十秒にも満たない。

だが、シルファにとっては、永遠にも思えるほど長い時間だった。


(なんでもっと早く来てくれないのよ、二人とも!! もう!!)


そう毒づきながらも、視界の端で二つの気配が弾けるのを捉え、

シルファはようやく胸の奥でひとつ息を吐いた。


移動中、


「魔物が六千体はいる」「その裏に黒幕がいるかもしれない」


と説明したはずの戦場。


その森を抜けてみれば――

一閃の剣シルファと、そのシルファよりも少し小柄な黒髪の少年が激しく切り結び、

その外縁で冒険者と兵士たちが観戦しているように立ち尽くしている。


事情を知らない者からすれば、


(……シルファと、彼女に憧れてる新米の模擬戦)


にしか見えないのも、無理はなかった。


だが――


「間に合った」


シルファは、二人の気配を背中越しに感じて、そう確信した。


レオニスとミレナは、アイザックの背後を正確に捉え、

そのまま猛スピードで距離を詰める。


シルファは、アイザックの視線が自分から逸れないよう、あえて一歩踏み込み――


直後。


「――っ!」


レオニスとミレナの二本の剣が、アイザックの背中に向けて交差するように走った。


ザシュン!!


背中に、斜めに交差する大きな×字の傷跡。

衝撃でバランスを崩したアイザックの身体は、そのまま前方へと倒れ込む。


砂を巻き上げて顔から地面に崩れ落ちたアイザックを見て、レオニスがひとつ息を吐いた。


「よし。これでいいんだよな、シルファ。

 お前がずっとこの子に攻撃をしかけず、足止めだけしてたから殺しはしなかったが……」


そこで言葉を切り、改めて戦場を見渡す。


「……なんだこれは? 聞いてた話と、まるで違うんだが?」


ミレナも、周囲を見回して顔をしかめた。


「そうですよ。

 この子は一体なんなんですか? それに――周りの冒険者も兵士たちも、

 まるで“剣聖と弟子の稽古”を観戦してるみたいな顔で、食い入るように見てましたよ?」


「いや、それが――私もよく分からなくてね……」


シルファは苦笑しながら剣を肩に担ぐ。


「……あ、そうだ。

 私の弟子、カールアがあそこにいるから、ひとまず彼女から話を聞こう」


レオニスの目が、ぱっと輝いた。


「お、出たな。“一閃の後継者”。

 前から一度じっくり話してみたかったんだよな」


「はいはい、その話は後でね」


シルファはレオニスを軽くあしらい、

三人そろってカールアの方へと体を向け――


その瞬間だった。


うつ伏せで地に伏していたアイザックの全身に刻まれた紋章と模様が、ぞわり、と蠢いた。


黒い線が盛り上がり、うねり、形を変える。

それは、まるで液体がそのまま固まり、鎧へ姿を変えていくかのようだった。


右半身を覆う黒い鎧。

顔の右半分を覆う、歪な黒い兜。


握られた黒い折れかけの剣に、再び禍々しい魔力が凝縮されていく。


「師匠!! 後ろ!!」


カールアの悲鳴に近い叫びが響いた。


ほぼ同時に、レオニスは反射的に後ろを振り返る。


そこには――


「なんで邪魔するんだ!!」


憎悪と殺意に染まった顔で剣を振り上げ、

レオニスめがけて叩きつけてくるアイザックの姿があった。


上下に大きく振りかぶられた一撃。

そのまま地面ごと叩き割らんとする勢いで、レオニスに押し付けられる。


「っ……!」


レオニスは剣を横に構え、その斬撃を受け止める。


刃と刃が噛み合った瞬間、足元の地面が抉れた。

膝がきしみ、靴底ごと地面を滑らせながら、それでもレオニスは踏みとどまる。


「シルファ! こいつ、半殺し以上――絶命未満でいいな!?」


「はぁ……しょうがない! すぐ終わらせよう!!」


シルファが短く答えると、すぐ後ろからミレナの声が飛ぶ。


「三人で一気に行きますよ!!」


掛け声と同時に、レオニスが剣をぐっと押し上げた。


ガキィン!!


力任せに弾かれたアイザックの剣が軌道を外れ、その身体ごと横へと吹き飛ぶ。


着地と同時に体勢を立て直そうとするアイザック――その一瞬を、三人は見逃さなかった。


エンフォルスを脚に集中させたシルファが、地面を抉る勢いで踏み込み、瞬きする間もなくアイザックの右側から懐へ飛び込む。


狙うは――右の手首。


(まずは、剣を持つ手から!)


続けざまに、ミレナがわずかに遅れて突っ込む。

狙いは、アイザックの左の脛。


この二人の狙いは急所ではない。

“殺す”ためではなく、“次の一撃につなげる”ための布石。


そして、その二人のさらに後方では――


「……終わらせてやるよ」


レオニスが大きく剣を振りかぶり、一撃必殺の斬り下ろしの構えを取っていた。

その刀身には濃密なオーラが渦を巻き、斬撃の軌道を先に見せつけるように空気を裂いていく。


普段、三人で連携攻撃をすることはほとんどない。

だが、その経験は膨大だった。


一瞬で状況を把握し、互いの動きとタイミングを“阿吽の呼吸”で合わせる。

その結果として生まれたのが、この即興とは思えないほど完成された三連撃だった。


だが――


その瞬間、底なしの憎悪の闇に飲まれていたアイザックの思考も、同じだけ高速で回転していた。


(勝てない……。絶対に、今の僕じゃ勝てない……。

 でも――僕がやらなきゃ、ダメなんだ!!)


鎧が展開されていない左脚を、ここで斬られるわけにはいかない。


(まずいのは左脚だ。あれを斬られたら、動けなくなる……!

 その前に――このとんでもない速さで来る女の攻撃をなんとかしないと!!)


連戦に次ぐ連戦。

常人なら、とっくに意識を失っていてもおかしくない消耗。


“限界”という言葉は、とうに意味を失っていた。


(弱い僕のままじゃ、何も守れない……!)


(だから、立て――動け、俺……!!)


今のアイザックの目には、目の前の存在が“敵”にしか映っていなかった。


自分が弱かったせいで、皆が死んだ。

そう思い込んだ罪悪感は、憎しみに形を変え、その憎しみが――

アイザックの成長の限界という枷を外していく。


(全部……敵だ。全部、斬らなきゃ……!)


シルファの斬撃が、右手首めがけて迫る。


その寸前――


アイザックは右手に構えていた剣を、くるりと内側へ回し、逆手へと持ち替えた。


ほとんど見えないほど僅かな外側への手首の返しと同時に、右足を一歩前に踏み込む。


シルファの剣が迫るその軌道を――

その勢いごと利用し、内側へとそらす。


「――っ!?」


殺到していたシルファの剣が、あっさりと横へ逸らされ、

そのままアイザックの左側へと流される。


「なにそれ……」


シルファがぽつりと零す。


皮肉なことに、それは――

自分とカールアが一か月近く叩き込んだ、“受け流し”の応用だった。


二撃目。


ミレナは、目の前でシルファが突然自分の方へと倒れ込んでくるのを見て、思わず声を上げる。


「えぇっ!?」


その一瞬の驚きが、剣筋にほんの僅かな乱れを生んだ。


アイザックは、左側へと倒れ込んできたシルファを“利用する”。


右足で踏み込んでいた勢いをそのまま殺さず、

左脚を一歩後ろに引いて溜めを作る。


球を蹴り飛ばすようなフォーム――そこから、渾身の蹴りが放たれた。


「ちょ、これやばいって……!」


シルファは思わず呟き、即座に防御の姿勢へ移る。


前へ突き出した剣を、左の前腕で支え、刃の腹を抑え込むようにして、

魔素の流れで両腕の防御力を高め、さらにオーラを闘気に変えて上乗せする。


それでも――


ボガアアン!!


鈍く重い衝撃音が響き、

シルファとミレナの身体は、そのまま後方へと吹き飛ばされる。


ミレナが後ろから支えるように備えていたことが功を奏し、

なんとか致命傷だけは避けたものの、それでも衝撃は洒落にならなかった。


アイザックは、その回転の勢いを殺さない。


左脚をそのまま振りぬき、身体を右回転させながら、

右手に握った剣を逆手から元の持ち方に戻す。


そして、自分の身体の左側――地面とほぼ平行に剣を横一文字に構えた。


それは、上から振り下ろされる一撃に対し、

“横薙ぎでぶつける”ための構え。


ちょうどその真上――


「今度は俺の番だな」


少しだけ口元を吊り上げながら、レオニスが空中から降下してくる。


剣には、オーラがこれでもかと纏わりつき、

縦に振り下ろされる斬撃が、空気を裂いて一直線に落ちてくる。


アイザックは必死の表情で、自らの横薙ぎの剣をぶつけにいった。


剣と剣が交差した瞬間――


ブギイイン!!


耳をつんざく金属音とともに、

衝撃波にも似た風圧がアイザックの身体を叩き、砂埃が一気に巻き上がる。


押し合いは――まだ終わらない。


二本の剣には、まるで独自の重力が生まれたかのような重圧がのしかかり、

アイザックの足は地面へと縫い付けられたように、

レオニスはアイザックに伸し掛かり互いに微動だにしなかった。


その光景を、外縁にいた人々はただ黙って見つめていた。


歓声も、悲鳴もない。


カールア、ハルド、ララ。

パトロール・ファング。

ガルド、ダイナス、ディノ、ガナン――。


誰もが、目の前で繰り広げられる異常な三対一の攻防を、

この戦争の結末を見届けるかのように、ただ無言で見守っていた。


まるで、時間そのものが息を潜めたかのようだった。

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