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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
ナティア防衛戦編

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第六十七話 「ナティア防衛戦 第十三撃 災禍と英雄――極氷の業火」

昼過ぎの陽光が傾き始め、夕暮れの色が森の縁を染めていく。

だが、この静けさは戦場の中心には一欠片も届かなかった。


森の奥から吹き上がる魔素の奔流が、まるで生き物のように空気を震わせる。

世界そのものがきしむ音が、大地の下から響いてくる。


その中心で――

僕とゼールがぶつかっていた。


もはや戦いではない。

災害だ。


魔術と魔法が地面を抉り、何度も隆起を生む。

剣戟の余波だけで周囲の屑物が跳ね上がり、裂け目が生まれる。

拳と脚がぶつかるたび、重低音の破裂が響き渡り、城壁まで震える。


ゼールは笑みを浮かべたまま剣を振り抜く。


「おい、少年。名はなんだ?

 私はゼールだ」


爆ぜた魔力の煙越しに、僕は応じた。


「……アイザックです。

 あなたに聞きたいことがあります」


「なんだ?」


次の瞬間、互いの距離が再びゼロに縮む。

剣と剣が交差し、火花が閃光のように舞い散る。


「ウィンドウルフ……そのほかの魔物たち。

 あれをナティアに導いたのは、あなたなんですか?」


ゼールはためらいなく答えた。


「――ああ、そうだ」


ほんの一言。

そのくせ、僕の胸の奥を強烈に揺らす一言。


「なんで……こんなことをするんですか」


ゼールは平然とした口調で言い放つ。


「人族と我々魔人族・魔族は、どの時代でも争ってきた。

 このルミナルドだけではない。争いは“必然”だ」


“ルミナルドだけじゃない”。

胸に引っかかったが、今は流すしかなかった。


「必然……だから?」


僕の声が揺れた。




その頃、戦場の外縁――。


城壁の下、残骸の裏、城壁のくぼみに至るまで、

負傷者も、冒険者たちも皆、アイザックとゼールの激突をただ見つめていた。


ハルドは折れた石柱に背を預け、肩を上下させながら呟いた。


「……アイザックの剣、さっきより速い……。

 いや……違う。“質”そのものが変わってる……化けもんかよ……」


カールアは治療を受けながら、震える指で剣を握りしめていた。


「弟弟子の剣じゃ……ない……。

 あれは……殺す覚悟を持った“戦士の剣”だよ……」


ララは手を止めかけ、震える息をのむ。


「城壁で治した時……あんな顔じゃなかったのに……。

 今のアイザック君……本当に、あの子?」


パトロール・ファングの面々は後方で固まっていた。


ガルドは拳を震わせながら呟く。


「なぁ……俺らが見てるのはあのアイザックだよな?

 ウィンドウルフを倒した時も驚いたが、なんだよあれ…」


答える者はいない。


ダイナスが、かろうじて声を絞り出す。


「……アイザックは、俺たちとは……“別の場所”に立ってます。

 あれはもう……人の域じゃない」


ティーネは涙を浮かべながら震える声で言った。


「こんなの……子どもが背負っていい重さじゃないよ……」


皆、悟っていた。

英雄と災禍がぶつかる場所に、自分たちが踏み込む資格はない、と。


誰もが固唾を飲んで、ただ見守るしかなかった。




剣がぶつかり合い、互いの足元で大地が沈む。

熱風と冷気が衝突し、地表が波のように揺れた。


僕は息を吸い込み、ゼールを睨む。


「――しょうがないから争うんですか?

 しょうがないから……魔物たちの命を戦場に投げるんですか?」


胸が震えた。


「ウィンドウルフには――家族がいました」


ゼールの瞳がかすかに光る。

好奇心とも、侮蔑とも違う、純粋に“観察者”の目だ。


「家族ね……ふむ」


ゼールは剣を回しながら淡々と述べる。


「風狼だけではない。魔物一人一人にも家族はいる。

 だがな――お前たち人間がいる限り、この憎しみから生まれる戦いの連鎖は終わらない」


剣先が僕の胸元をなぞるようにかすめる。


「どちらかが潰えるまでな」


胸が締め付けられた。


「……なんだよ、それ」


自分の声が震えているのが分かる。


「分かってて……やってるのか……」


怒りが胸で暴れまわる。

怒鳴りたいのに、逆に喉が詰まるほどだった。


ゼールは微動だにせず言う。


「最後の質問だな?」


僕は頷いた。


「逃げてる魔物たちを……仲間たちを助けもしないで……

 どうして……斬ったんですか」


ゼールの答えは、冷たい水のようだった。


「戦場で背を向ける者は戦士ではない。

 苦しまぬよう、一瞬で終わらせただけだ」


「……っ」


「弱者に選ぶ権利はない。

 強さこそ、唯一の正義だ」


胸の怒りが、魔素と剣気に変わりはじめる。

呼吸が荒く、血管が軋むように音を立てる。


ゼールは薄く笑い、僕を見下ろした。


「むしろ、人間でありながら我々の視点に近い思考を持つとは。

 その年齢でその強さ……見事だよ」


褒め言葉のようで――最低に腹が立つ。


僕の視界が滲み、涙が頬を伝う。


「ふざけるな……」


剣を握る手に熱がこもる。


「生きたいという意志を……

 “強さ”なんかで測るな……!」


ゼールは静かに笑った。

底が見えない、ぞっとする笑みだった。


「だからだよ、少年」


「……?」


「だから貴様はここで終わる。

 貴様の大切なものは――全部消える」


胸が跳ねた。

嫌な予感が背骨にまで走る。


ゼールは続ける。


「我々もそうだった。

 親も仲間も、大切な者も……目の前で苦しみながら殺された」


刃に紫色の魔力が纏わりつき、音を立てて揺らぐ。


「だから貴様にも味わわせてやる。

 向こうのあいつらも、この街の人間も――皆殺す」


その言葉が、脳を勝手に“最悪の未来”に引きずり込んだ。


ラナが泣き叫ぶ姿。

ミーナが怯えて震える姿。

ガルドが血の海に沈む姿。

父と母が僕を呼びながら倒れていく姿。


胸の奥で、何かがひしゃげた。


次の瞬間――


激しく燃えていた怒りが、

嘘みたいに、音を立てて消えた。


冷たく。

冷たく。

深く沈むように。


怒りが……凍った。


ゼールが瞳を細める。


「……ほう? 怒りが消えたな?」


僕はゆっくり顔を上げた。


涙を流しながら――笑っていた。


その笑みには、優しさも温度もなかった。

あるのは、底なしの冷気だけ。


胸の核が静かに脈動し、

青白い剣気が立ちのぼり、

黒い魔素が稲妻のように全身を走る。


「ゼール」


「なんだ?」


氷の底から響くような声が、自分の口から漏れた。


「もう怒ってない」


青白い剣気が全身を包み、

黒い魔素が鎖のように絡みつく。


「――今の僕は」


絶対零度の炎だ。


ゼールは初めて、

“理解不能”という色の目をした。

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