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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
ナティア防衛戦編

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第六十一話 「ナティア防衛戦 第七撃 黒幕(後編)」

森の奥は、昼だというのに“夜の気配”を落としていた。


枝葉が空を覆い、地に落ちる光はわずかな粒。

その粒すら、濃密な魔力に押し潰されるように沈んでいく。


そこを――四つの影が静かに歩いていた。


歩幅は乱れず、呼吸のリズムすら揃った一団。

だが、その“気配”はまったく異なる色を持つ。


桃色の髪を揺らしたライラが、露骨に眉を寄せた。


「ねぇゼールさん……

 この戦力でナティア落とせるって、本気で言ってました?」


黒髪短髪のゼファルが不満げに鼻を鳴らす。


「あれですよ、“見てるだけでいい”ってやつ。

 結果、俺たちが尻拭いですよ。どういうことです?」


二人の軽口にも、白髪ショートのセタンは淡々と観察を続けていた。


「……魔物の損耗率が異様に高い。

 指揮統制が乱れているわけではない。

 おそらく人間側の防衛戦術が、従来と違う。

 ――特に魔術連携が洗練されています」


彼女の声は落ち着いていたが、その瞳は冷たく鋭い。

相手の強弱、戦況の変動、魔力の揺らぎ――全てを無駄なく読み取る。


それを聞きながら、先頭を歩く魔族ゼールが静かに息を吐く。


「……敗因は、私の判断だ」


灰色の髪が揺れ、淡い光を吸い込む。


「最も強い魔力を持つ人間が“戦場に姿を見せていない”。

 そこに思考が及ばなかった。

 オーガ数百いれば十分と判断したのは、浅はかだったな」


ライラが肩をすくめる。


「はぁ……。

 だから“風狼”にも来てもらったんですよね?」


ゼファルが頷く。


「ああ、バケモノ狼のところまで行って、

 わざわざあの二体の狼に頼んだ」


セタンがわずかに微笑んだ。


「“頼んだ”ではなく、“脅した”ですね。

 言葉の選び方は大事ですよ、ゼール様」


「黙れ」


その一言で、森の気配がわずかに震えた。


魔族と魔人族――

格の差は、声一つで歴然だった。


***


やがて木々が途切れ、視界が開ける。


ナティアの城壁。

そして――こちらへ向かってくる影。


逃げてくる魔物たち。

およそ五十体。


その目には理性も戦意もなく、ただ生にしがみつく本能だけがあった。


ゼールはその姿を一瞥した。


「戦士としての恥を知れ」


手が軽く振られた。


それだけだった。


次の瞬間――


逃げていた魔物たちは、

音すらなく“真っ二つ”に断たれていた。


肉片が地に落ちるまで、風は気づかない。

空気の流れが変わるより早く、斬撃は通り抜けた。


ライラが唖然とする。


「ゼールさん……さすがに容赦なさすぎじゃ?」


ゼファルすら感嘆した。


「……斬撃の痕跡が見えない。これ、何回見ても理解できん」


セタンは淡々と解析を進める。


「魔力の軌跡がありません。

 通常、物質を斬れば周辺の魔素が乱れますが……それすら無い。

 “空間ごと切断”……という表現が近い」


ゼールは答えない。


ただ、城壁の方角を見据えていた。


***


追撃に出ていた人間側は、その光景を完全に誤認した。


「援軍だ!!」

「王都の精鋭だ!!!」

「勝ったぞ!! これで決まりだ!!」


熱狂に近い歓声が、城壁下まで響き渡る。


ライラが呆れたように目を細める。


「ねぇゼールさん……これどう見ても勘違いされてますけど?」


ゼファルも苦笑した。


「援軍扱いとは。

 俺たち、敵なんですけどねぇ」


セタンは冷静だった。


「士気は瞬間的に上がるでしょうね。

 ただし……その高揚感が“絶望”に変わる時間も、早い」


ゼールは無反応のまま、青灰の瞳で城壁を射抜いた。


そして――低く呟く。


「――まだだ」


ライラが首を傾げる。


「理由を聞いても?」


ゼールは答えた。


「城壁付近には、二つの特異な魔力がある。

 一つは鋭く、こちらを見る目もある。

 だが――」


わずかに目を細める。


「もう一つの小さい魔力の反応が……“異質”だ」


三人が顔を見合わせた。


「小さいけど、厄介ってことですか?」


ゼファルは眉間に皺を寄せて問う。


「潜在魔力量と魔力の放出量は比例しません。

 抑えている可能性があります。

 ……もしくは、制御が“異常に上手い”。」


セタンは淡々と答える。


「でも一番小さいんでしょ?

 強いならもっとバーンって出すんじゃ?」


ライラは不思議そうにそう言った。


ゼールは首を横に振った。


「あれは、魔力を“隠している”のではない。

 “漏れ出さないよう抑えている”。

 ――まるで、内側に獣を閉じ込めるかのように」


三人が息を呑む。


ゼールは続ける。


「風狼――ウィンドウルフ。

 二頭の成体が無傷ではないにせよ、“殺されず”撤退した」


セタンが小さく目を見開いた。


「あれを……殺さず?」


ゼファルが思わず声を漏らす。


「いやいやいや、人間でそんな戦い方……聞いたことないぞ?」


ライラが震えた声で呟いた。


「本当に……そんなの、できるの?」


ゼールは確信していた。


「できる者が――いる」


森から吹く風が四人を撫でる。


その風の向こう、城壁に立つ“何か”へ向けて、

ゼールの瞳は静かな愉悦で染まっていく。


「……面白い。

 あれが、この街の“鍵”か」


興味、好奇心、そして殺意。

その全てがゆっくりと混ざり合い、ゼールの口角が鋭く上がった。


「さあ――どう動く、人間。

 どこまで足掻ける?」


濃霧のような魔力が、四人を中心に渦を巻き始めた。

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