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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
ナティア防衛戦編

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第五十九話 「ナティア防衛戦 第五撃 治療と第二回戦の始まり」

まぶたの裏を、柔らかい光がくすぐった。


「……あ」


目を開けると、白い空があった。

冬の陽光が、薄くにじんでいる。


(……僕、寝てたんだ)


上半身を起こそうとして、すぐに後悔した。


「……いっ……」


体中の筋肉が、一斉に悲鳴を上げる。

昨日までの戦いの痛みが、まとめて押し寄せてきたみたいだった。


辺りを見渡すと、

みんなが第二波の襲撃に備えて動いていた。


鎧を整える音。

武器を点検する音。

遠くから聞こえてくる、城壁の上の掛け声。


昨日より――表情は、少しだけ柔らかい。


(初日を乗り切ったから、かな)


(でも、まだ終わったわけじゃない)


僕も立とうとした。

足に力を込める。


「っ……」


痛みで、思わず歯を食いしばる。


(みんな頑張って動いてるのに。僕だけ寝てるなんて、おかしい)


(動かなきゃ。まだ終わってない)


そう思って、もう一度立ち上がろうとしたとき。


右肩に、ぽん、と手が置かれた。


「無理はよくない。君は、休んでいた方がいい」


落ち着いた声だった。


振り向くと、そこには――いかにも優男みたいな見た目の男が立っていた。


綺麗に整えられた綺麗な金髪。

よく使い込まれた鎧。

背には剣。


今回の防衛戦、唯一のBランク冒険者――ダイナス・ファダン。


その後ろには、Cランク冒険者らしき三人組が控えている。


「あ、あなたは……」


「ダイナス・ファダン。今回、臨時でナティア防衛に参加している者だ」


彼は少しだけ微笑んだ。


「君のおかげで、城壁前の戦闘はかなり優勢に進んだ。感謝する」


「い、いえ……皆さんのおかげです。僕なんて、足止めしか……」


「足止めで、Eランクが二頭の成体ウィンドウルフ相手って、十分勇者級なんだけど?」


後ろの三人のうち一人が、呆れたようにツッコんだ。


「そうそう。自分の戦果、もうちょっと自覚しよ?」


「普通なら、一頭見ただけで逃げても責められない相手だよ」


「……」


なんて返していいか分からず、苦笑いしか出てこなかった。


ダイナスは、そんな僕を見て小さく息を吐く。


「とりあえず、君は休んでいてくれ」


「で、でも――」


「報告によると、残りの第二波は、君が前線に立たなくても優勢に進められるはずだ」


ダイナスは振り返る。


「ララ、この子の治療に専念してくれないか」


「はい!分かりました」


前に出てきたのは、いかにも“魔術師”という感じのお姉さんだった。


長いローブ。

杖。

落ち着いた瞳。


僕の前にしゃがみ込むと、そっと手をかざす。


「《アクア・ハイヒール》」


淡い水の光が、ふわりと僕の体を包んだ。


ひんやりしているのに、

傷口の奥からじわじわと温かくなっていく。


(……すごい)


魔術の仕組みはよく分からないけれど、

これは“すごい回復魔術”だっていうことだけは分かった。


「僕だけに、こんなすごい魔術をかけていて大丈夫なんですか?」


そう聞くと、ララさんは笑った。


「幸いね、ハルドさんとカールアさんが防衛戦の策を綿密に立ててくれてたおかげで――

 まだ死者はいないの」


「……本当ですか」


「致命傷を負った人はいるけど、救護班とポーションのおかげで、なんとか一命は取り留めてる」


(ミリエルちゃんも、ミーナさんも……それぞれ違う場所で頑張ってる)


(僕だけ、ここで寝てるわけには……)


「それにね、アイザックくん」


ララさんは、少し表情を柔らかくした。


「君は今回の戦いの“要”だよ。

 何かあったときのために、今はしっかり回復しておいて」


そう言って、ダイナスさんたち三人は、それぞれの持ち場へ戻って行った。


ララさんと二人きりになった。


(なんか……)


(カールアさんくらいの年の人と二人きりって、地味に緊張するな……)


沈黙が、ちょっとだけ気まずい。


(……こういうとき、何か話した方がいいんだろうか)


よし、と心の中で小さく拳を握る。


「ララさん。質問があるんですが、いいですか?」

「うん、いいよ。アイザックくん」

「ええと、今僕にかけてくれてるの、《アクア・ハイヒール》ですよね。

 《ハイヒール》って術も、あるんですか?」

「おっ、鋭いね」


ララさんの目が、きらっと光った。


「もちろんあるよ。《ハイヒール》は属性なしの回復魔術。

 でも、なんで君に《アクア・ハイヒール》を使ってるか、分かるかな?」


(なんか、学校の授業みたいで楽しいな)


「もしかして……僕に“水属性”の適性があるから、とかですか?」

「大正解!」


ララさんは嬉しそうに笑った。


「最初はね、《ハイヒール》をかけようと思ってたんだ。でも――

 君の体の魔力の流れを見たとき、水属性への適性が強いって気づいてね。

 だから《アクア・ハイヒール》に切り替えたの」


「なるほど……そうだったんですね」

「で、なんで《アクア・ハイヒール》の方が《ハイヒール》より効果があると思う?」


「えっと……」


少し考えてから、口を開いた。


「水属性だと、外に水を出す魔術が多いですよね。

 水って、植物とか穀物を育てるのに必要で……」

「うんうん」


「荒れた土地には、水は“癒し”になると思います。

 だから、回復術と相性がいい……とか、ですか?」


「ほんと、アイザックくん鋭いね」


ララさんは、ぱちぱちと手を叩いた。


「魔術の属性には、それぞれ“外界への影響”と、

 その属性がもつ“イメージ”に伴った効果があるの。

 水は癒し。育み。だから、回復に向いてる」


「これはね、他の属性にも言えるんだよ」


「魔術……本当に奥が深いですね」


素直にそう思った。


話をしている間にも、第二波は近づいていた。


――ドドドドド。


地鳴り。

遠くで上がる砂煙。


城壁の上にいるから、

一回目の襲撃よりも“よく見える”。


魔物の黒い波。

それを迎え撃つ、兵士と冒険者たちの列。


思わず息を呑んだ僕に、

ララさんが言った。


「大丈夫。みんな、君が思っているよりずっと強いから」


そう言われても、不安は完全には消えない。


でも――

ララさんの回復魔術で、さっきより呼吸が楽になっているのは確かだった。


兵站から届いたパンと、

第一波で倒したルーガウルフの肉を焼いたものが配られる。


空腹だったことに気づいて、

僕はそれをゆっくり口に運んだ。


「そういえば、そのパンね」


ララさんが、ぽんと手を叩く。


「近くのトーヴェルって村で獲れた麦で作られてるらしいよ」


「トーヴェルで?」


「うん。この時期は本来ならあまり育たないのに、

 例年より豊作で、しかも品質がいいんだって。

 私、さっきもう三個食べちゃった」


「マジですか……僕の手のひらくらいの大きさありますよね、それ」


(人って見かけによらないな……)


(こういうこと思うのって、デリカシーがないってやつなのかな。分かんない)


城壁の上からでも、

一回目より“連携の良さ”がはっきり分かった。


盾の動き。

槍のタイミング。

術師の詠唱と、矢のタイミング。


ガルドさん。

パトロール・ファングのみんな。

ダイナスさんたち。


(……すごいな)


(僕も、ちゃんと立てるように――)


「このまま、何も起きずに終わればいいんだけどね」


ララさんがぽつりと言った。


僕も、心の中で同じことを願った。


(本当に――何も起きませんように)


胸の奥で、昨日の決意と、

まだ癒えていない痛みが、静かに重なり合っていた。

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