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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
第一章 第一節 幼少期篇

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第四話 「風音に紛れる鼓動」

朝の光が、小屋の壁の隙間から細く差し込んだ。

その光がまぶたを撫で、ゆっくりと意識が浮かぶ。


藁の上では、白い獣が静かに眠っていた。

昨日より呼吸は深く、血の匂いも薄い。


(……よかった)


胸の奥に溜まっていたものが、ようやくほどけていく。


小さな欠伸。

前足がもぞりと動き、琥珀色の瞳が光を拾った。


「……おはよう、かな?」


獣はこてんと首を傾げる。

それだけで、胸のどこかが柔らかくなる。


「喋れる……んだよね?」


返事のかわりに、獣はそっと口を閉じた。

言葉の重さを測っているように。


(やっぱり、この子は魔物でも動物でもないよな…?)


――けれど、問い詰める気にはならなかった。

誰にだって、言いたくないことや言えないことはある。


僕は立ち上がり、小さな水瓶を差し出した。


「ほら、水。昨日ほとんど飲んでなかったでしょ」


獣は慎重に近づき、ちろりと水面を舐める。

その瞬間、光の粒が弾けたように見えた。


(……見間違い、だよね)


光素のようにも見えたが――

僕の感知では判断しきれない。

朝日の反射だと、そう思い込むしかなかった。



村の様子を探るため、小屋を少し離れた。

母に見つかれば勘づかれるし、父も優しいけれど――

“正体の分からない獣”を放っておくとは思えない。


小屋に戻ると、獣がじっとこちらを見つめていた。


「……心配してくれたの?」


ちいさく頷くように首が揺れた。


(ほんとに……人みたいだな)


その温度に胸が少しあたたかくなる。


僕はそっと頭に触れた。

柔らかな毛が指の間をすり抜け、温もりがじわりと伝わってくる。


――その時。


「……っ」


指先に、微かな痺れ。

温かい電流のようなものが走った。


見れば、触れた部分の毛が淡く光を帯びている。


(……なぜ、光るんだ)


息をのんだ途端、獣は尻尾をぎゅっと巻き込んだ。

まるで「見なかったことにして」と訴えるように。


「……わかった。言わないよ」


僕が笑うと、獣は小さく鼻を鳴らした。

それだけで、伝わるものが確かにあった。


本当に、それだけのはずだった。


――なのに。


コン……


小屋の扉が小さく揺れた。


(……誰か?)


こんな時間に来る人はいない。

昨日も誰にも見られていないはず。


獣を庇うように前に立ち、声を潜める。


「……静かに」


息を殺すように囁き、背後の獣を庇う。


獣はぴたりと気配を消し、藁に身を伏せた。

その所作は驚くほど自然で――訓練されたもののような、迷いのない動きだった。


コンコン……


規則正しいノック。

まるで合図のような、決まり事のような叩き方。


(……風じゃない)


ゆっくりと扉を開ける。


――誰もいない。


(……え)


朝露に濡れた草が並んでいるだけ。

足跡も影も、気配すらない。


ドアを閉じようとした、その時。


ひゅう……


耳の奥に、かすかな“誰かの息”が混ざった。


冷たくて、けれど──どこか懐かしい響きを持つ風。


――見ツケタ。


風のざわめきに紛れ、確かに“声”が混ざった。


「っ……!」


心臓が跳ねる。


小屋の奥では、白い獣が鋭い光を宿した瞳でこちらを見ていた。

その眼差しは、まるで僕を守ろうとするようで――

それが逆に、事態の異様さを際立たせていた。


(……この風。どこかで……)


思い出せない。

けれど確かに、胸の奥の何かを掴んで離さなかった。


風の声。

獣が隠す“何か”。

そして、僕がこの世界に生まれた理由。


見えない糸が、静かに結びつきはじめているような気がした。


「……大丈夫。まだ誰にも知られてないよ」


獣の頭をそっと撫でる。

細い体が、わずかに震えを止めた。


優しい朝の光が小屋に差し込んでいるのに――

胸の奥では、形のない不安が静かに巣を作り始めていた。


ほんの小さな綻び。

だが、その歪みはまだ誰も知らない。

やがてアストレイブという世界を震わせる、最初の裂け目になることを──。

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