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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
師弟修行編

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第四十五話 「意志の電流という力、エンフォルス」

森の朝は、静けさの中に柔らかな鼓動があった。

空気は澄んでいて、樹々の隙間から差し込む光が、

精霊素の細かな粒をゆっくりと照らしている。


僕は膝をつき、胸の位置に意識を下ろす。


剣の線。

霊素の線。

魔素の流れ。

オーラの螺旋。

精霊素の小さな光。


三週間の修行でようやく、

それぞれが別々の糸ではなく“ひとつの方向”に伸び始めたように感じる。


(……少しだけ、見えるようになってきた気がする)


胸の核が静かに脈動した。


軽い風が吹き抜け、背後から草を踏む音がした。


「また朝からそんな真剣にやって……。休みの日って知ってる?」


振り返ると、カールアさんが腕を組んで立っていた。

呆れ顔なのに、どこか誇らしげでもある。


「え、つい……いつもの癖で」


「癖のレベルじゃないよこれ。完全に依存症」


そんなことを言いながら、僕が立ち上がるのをじっと見守っている。


その少し後ろ――

いつものように、シルファさんが静かに歩いてきた。


「おはよう、アイザックくん」


その声は柔らかくて、でも森の空気にすっと馴染む強さがある。


「はい、おはようございます」


シルファさんは少し首をかしげ、僕の様子を観察したあと、カールアさんに視線を移した。


「……ねぇカールア」

「言ってください。もう我慢できないんでしょ?」

「うっ……」


図星らしく、シルファさんの目が泳ぐ。


「だって……教えたいんだもん」

「ほら来た。だから言ったじゃないですか、師匠は溜められない人だって」


シルファさんは胸の前で両手を組み、諦めたように息を吐いた。


「……アイザック。今日、ひとつ新しいことを教えるよ」


新しい――。


胸の奥がわずかに熱を帯びる。


カールアさんが、目を細めて僕の耳元でぼそぼそ言った。


「絶対びっくりするから心の準備しときなよ。

 あと師匠に“それ大丈夫なんですか”って一応聞いとこ?」


「はい……?」




森の空気が張りつめた。


シルファさんが僕の前に立ち、

真剣な眼差しで口を開いた。


「アイザックくん、まず聞くけど――

 “生き物の身体に微弱な電気が流れてる”って知ってる?」

「はい。心臓の鼓動や神経伝達のための微弱電流のことですよね」


(……前世で学んだ知識だけど)


「うん、その通りだよ。

 その年でよく知ってるね」


シルファさんは指先を軽く動かす。

その瞬間、ぱちりと小さな火花が散った。


「これを――“意志”で増幅して、

 肉体の強さに変える力。それが……“エンフォルス(Enfors)”。」


空気が震えた。

僕の皮膚の上にも、わずかなざわめきが走る。


「アイザックくん、身体の強化ってね、大きく分けて三種類あるの」


シルファさんは手を三本立てる。


「ひとつは、“魔術”。

 魔素で筋力や反応速度を強化するやり方」


「はい。ギルドにある本で少し読みました」


「二つ目は“オーラ”。

 身体の線にオーラを通して、本来持つ力を限界以上に引き出す方法」


カールアさんが横から補足した。


「で、三つ目が――“エンフォルス”。

 肉体じゃなくて“意志電流”を操作して、

 神経伝達そのものを跳ね上げる」


「身体能力の上昇量で言うと、

 エンフォルス > オーラ ≧ 魔術。

 これ、覚えといて」


「……えっ、そんなに?」


「そんなにだよ」




シルファさんが一歩前に出る。


「じゃあ――まずは下位技。

 Geistdruckガイストドゥルク『精神圧』」


指先で、小さく空を叩いた。


瞬間。


僕の胸がぎゅっと押しつぶされるような感覚に包まれる。


息を吸うのが、ほんの少し重くなる。


「精神に干渉して、動きを鈍らせる技。

 相手の“意志の線”を震わせる」


「つ、強いですね……」

「まだ触っただけだけどね」


続いて、カールアさんが前に出る。


「中位技――

 Kraftstromクラフトシュトローム『意志電流の解放』」


彼女の足元から、青白い電流がぱん!とはじける。

僕が瞬きをした、ほんのその一瞬で――

カールアさんの姿が消えた。


「……え?」


次の瞬間、僕のすぐ背後から声がした。


「これで“世界が少し遅く”見えるようになるの」

「は、はや……!」

「これでも控えめなんだけどね」




そして――


森の空気が一瞬だけ“固まった”。


シルファさんの身体に、金色の電気がまとわりつく。


「最後に上位技。

 Überseinウーバゼイン『超存在化』」


空気が爆ぜる。


大地が低く唸り、木の葉が舞い浮かぶ。


数秒。

いや、数瞬だけ。


世界が静止したような感覚。


「師匠!! だから上位はやめましょうって!!」


「……ごめん。ちょっとだけだよ」


電気が消え、森に再び風が流れる。

僕は思わず膝に手をついた。


(……これが……エンフォルス……

 こんなの扱えるようになるの……?)




「……あの、シルファさん」


「なに?」


「魔術、霊術、剣気、オーラ、精霊素、エンフォルス……

 どう考えても覚えられません!!

 器用貧乏が、器用貧乏を越える未来しか見えないんですけど!!?」


僕が叫ぶと、シルファさんは本気で嬉しそうに笑った。


「大丈夫だよアイザック。

 だって君……特大スポンジなんだもん」


「嫌です! 僕そんなに吸収したくありません!」


カールアさんも叫ぶ。


「ほんとそう!!

 この弟弟子は吸わせたら最後なんですから!!

 ……あ、そういえば師匠!」


「ん?」


「ナティアにいていいんですか!?

 “王都”に呼ばれてるって言ってましたよね!?」


王都――。


その言葉に、僕の心が一瞬だけ跳ねた。


(王都……

 ナティアよりもっと大きくて、

 もっと人がいて、

 もっと世界の中心みたいな場所……?)


胸の奥で、未知の景色がちらりと広がる。


シルファさんは困った顔で頭をかいた。


「……うん、呼ばれてる。忘れてた」


「忘れないでください!!」


カールアさんのツッコミが森に反響し、

鳥たちが一斉に飛び立った。


(王都……僕、いつか行くのかな)


エンフォルスの電気の余韻が、まだ指先に残っている。

胸の核が小さく脈打つ。


新しい“線”が、確かにそこに加わった。


僕はそっと、息を吸った。


もっと強くなるために。

もっと遠くへ歩くために。

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