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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
師弟修行編

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第四十四話 「ざわめきと、迫りくる災い」

風灯り亭の灯りが、夕暮れの石畳にゆらりと揺れていた。


扉を押して中へ入ると、いつもの匂い――

焼き肉とスープと、ほんの少し焦げた木の匂いが混ざった、

「ナティアの夜」の匂いがした。


「ミーナ、こっち座りなさいな。今日は珍しく早いじゃない」


カウンターから手を振るのは、風灯り亭の女将ラナ。

その隣から、エマが顔を出した。


「ミーナ、おつかれ。今日もギルド混んでた?」

「あはは……まぁ、いつも通りね」


リオはテーブルの上に頬を乗せながら、

ちらりと私を見上げた。


「ミーナねぇちゃん。アイザックお兄ちゃん……今日も来ないの?」


胸の奥が、少しだけ痛む。


「うん。森のほうで修行してるから……しばらく帰ってこないみたい」

「ふーん……早く会いたいのに」


リオが口をとがらせる。

エマは苦笑しながら、弟の頭を撫でた。


「アイザックなら大丈夫だよ。あの子、強いもん」


その言葉に、私は言い返せなかった。

強い――

そう思いたいのに、

あの子の背中は“危ういほど真っ直ぐ”で、

どこか放っておけない。


(心配してるのか、羨ましいのか……

 自分でもよく分からないね、私)


そんなことを考えていたとき。


入口の扉が、どん、と乱暴に開く。


「おーいラナ姐、今日の飯まだかぁ!」


ガルドだった。

相変わらず酒臭いし気難しいけど、どこか憎めない。


「ガルドさん、今日の調子はどう?」

「最悪だ。森の魔物が静かすぎて逆に気味悪い」


その言葉に、店の空気が微かに沈む。


ラナも手を止める。

ミリエルは、席で薬草を仕分けしていた手を止めた。


「……やっぱり感じるよね。霊素の揺れ、変じゃない?」


ミリエルがぽつりと言う。


「変どころじゃないよ」

「森全体が“構えてる”みたいな……そんな揺らぎ」


「……やっぱり、私だけじゃなかったんだ」


胸の奥がざわつく。


森が静か。

魔物が妙に姿を見せない。

霊素がざわめくように揺れる。


――全部、嫌な予感を連れてくる。


そんなとき。


「……来てたか」


落ち着いた、低い声。


ギルド長――ハルドが店に入ってきた。

その姿だけで、空気が一気に張りつめる。


「ハルドさん……珍しいですね」

「ミーナ、少し時間を」


その表情は、いつもよりほんの少しだけ険しかった。


私はラナに声をかけて、

店の裏口へ移動する。


外に出ると、夜風が頬にひんやりと触れた。


「……北東の監視塔から、報せが届いた」


ハルドの声は低い。


「魔素の“群れ”が動いている。

 距離はまだあるが、……数が、常識の範囲じゃない」


ミリエルが肩を震わせた。


「常識の範囲じゃない……って……」

「詳細はまだ不明だ。ただ――

 街の防衛態勢を整えておく必要がある」


喉の奥が、ひゅっと狭まる。


(まさか……そんな……)


ハルドは続けようとして、しかし言葉を飲み込んだ。

判断がつくまで数字を出さないつもりなのだろう。


私は深く息を吸った。


「……アイザックが戻るまでに、何も起きなければいいけど」


その一言に、ハルドは目を細めた。


「……全員を信じろ。あの子も――この街も」


そう言い残し、ハルドはギルドへ戻っていった。


残された私とミリエルは、しばらく動けなかった。


(街に……何が近づいているの……?)


店へ戻ると、

リオが窓の外を指さしていた。


「ミーナねぇちゃん……あれ、見て」


「え?」


窓辺に駆け寄る。


――遠くの森の上空が、

薄く、赤く、揺れていた。


まるで空気そのものが震えるように。


ミリエルは息を呑む。


「……魔素が……動いてる」

「そんな……こんな距離から見えるなんて……」


胸が、強く脈打つ。


(これはただの魔物の群れじゃない……

 嵐だ……街を呑み込む、巨大な――)


言葉は喉で途切れた。


窓の外で揺れる赤い光が、

夜空に、静かに広がっていく。


ナティアの夜が、ざわめいていた。


――街に迫る“六千の影”を、まだ誰も知らない。

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