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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
師弟修行編

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第四十三話 「線を見る者」

焚き火の残り火がくすぶり、夜風が灰を運んでいく。

弟弟子が深く眠りについたころ、私はそっと息を吐いた。


(……あの子、本当に“昨日の自分”を置いていく速度が速い)


剣気に触れ、精霊素の線に触れ、

身体の線も、霊素の線も、魔素マナスの線も、

全部が“守りたい”という一点に吸い寄せられるように結びついていく。


――普通の成長じゃない。

そんな曖昧な言葉では足りない。



朝。

川の水面からの光が、淡い赤茶の髪を照らしていた。


「……いてて……」


と小声で呟きながら、アイザックが傷の様子を確かめつつ身体を洗っている。


十三歳の少年の背中にしては、あまりにも濃い線がある。

痛みを抱えながらも、どこか静かに火が燃えているような背中。


(冒険者になって半年で、“核”がここまで形になるなんて……)


私が初めて剣気に触れたときよりも、

ずっと自然で、ずっと綺麗だった。


後ろから草を踏む音がした。


「師匠。弟弟子、今日も気持ち悪い成長してますね」


カールアだった。

腕を組み、呆れた顔で川を眺めている。


「昨日あれだけ反動を食らったのに、今日普通に立ってるって……

 剣気に初めて触れた日の私は、丸一日寝込んでたんですけど?」

「私もそうだったよ」

「弟弟子、なんでそうならないんですかね?

 限界を越える、じゃなくて……」


カールアは少し考えたあと、ぽつりと呟いた。


「限界という概念を知らないだけなんじゃ?」


思わず吹き出しそうになった。


「でも、それはあるかもしれないね」

「でしょ!? あいつ絶対おかしいですよ!!」


川べりのアイザックが、

淡い赤茶の髪をタオルで拭きながら、ぼんやり空を眺めている。


その姿を見て、カールアは小さく息を呑んだ。


「……師匠。あいつの背中、たまに思い出すんですよ」

「何を?」

「昔訓練で倒せなかった“あの人”の背中です。

 本気で挑んでも、一度も地面に膝をつかせられなかった……」


その名は口にしない。

けれど、私はその背中を知っている。


見るだけで分かる、異質な“線”を持つ男の背中。

剣の線も、魔素の線も、霊素の線も、全部が異常なほど綺麗に整っていた。


(……似ている。

 線のまとまり方が、怖いくらいに)


「弟弟子、あの人の息子なんじゃないですか?」


カールアが冗談めかして言う。


私はただ微笑んだ。

肯定も否定もしない。


(血というより……“意志の線”の方がよく似てる)




アイザックが川から戻ってくる。

包帯の位置を気にしながらも、どこか軽やかに歩いている。


「おはようございます、シルファさん! カールアさんも」

「おはよ。動けそう?」

「まだ痛いですけど……問題ないです!」


本当に痛いのか疑うような元気な顔。

カールアが呆れたように頭を抱える。


「問題しかないんだよなぁ……」

「今日は軽くね?」


私は念を押す。


「はいっ!」


素直で、まっすぐで、

気を抜くとすぐ何かを吸収してしまう子。


(この二週間ほど……ずっと見てきたけれど)


剣気に触れる前から、

霊素の円を描いたあの日から、

魔素を掴んだあの日から、

きっとこの子はずっと“線”を積み続けてきた。


努力で積む線と、

才能で伸びる線と、

守りたいという願いで太くなる線。


その全部が重なって、今を形作っている。


「アイザック」

「はい?」

「君はね、異常だよ」

「えっ」


目を丸くする少年に、私は笑って続ける。


「悪い意味じゃない。

 守りたいと思うだけで全部の線が繋がるなんて、

 本来なら誰にもできないことだから」


アイザックは頬をかきながら、少し照れくさそうに笑う。


(……本当に、この核は綺麗だ)


「じゃあ、今日は身体をほぐす練習から入ろう」

「はい!」


光を受けた淡い赤茶の髪が揺れる。

その後ろ姿は、どこまでも真っ直ぐだった。


遠い村の家で、

幼い双子を抱くあの人の背中とは違う形。

けれど、確かに同じ“線”が繋がっている。


(見届けるよ、アイザック。

 君がどんな“創命”を描いていくのか)


朝の森に、鳥の声が優しく広がっていった。

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