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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
師弟修行編

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第四十六話 「嵐は突然に」

夜明け前の森は、静かすぎるほど静かだった。


冷たい空気が胸に入るたび、

ほんの少しだけ身体が軽くなる気がする。


修行に入って――もうすぐ一カ月。


僕は寝袋に横になったまま、

そっと胸の核に意識を落とした。


精霊素の線。

魔術の流れ。

霊術の気配円の広がり。

オーラの螺旋の通り道。

そして――エンフォルスの微弱な“意志電流”。


剣気だけは……さすがに横になったままじゃ無理だ。


(うん、それは仕方ない。サボってるわけじゃない)


胸の奥に走る電気のざわめきが、

ほんの少しだけ指先に漏れる。


エンフォルスは前世で知っていた生体電気の発想を

“この世界の術式”に置き換えることで、

なんとなく感覚が掴めてきた。


ただ――


“外に放出して攻撃に変える”とか、

“身体能力を限界以上に引き上げる”


そこまでは、まだ全然できない。


(……ここ最近、二人とも僕より起きるのが遅いな)


(僕のせいで疲れてる……とかじゃないよね)


シルファさんもカールアさんも、

僕以上に強いのに、最近は起きる時間が明らかに遅い。


気にしすぎかもしれないけど……

もし本当に僕のせいだったら、申し訳なさすぎる。


ふぅと息を吐いて、寝袋から身体を起こした。


「……よし」


朝ごはんの準備をしよう。


焚き火に使う薪を集めて、

ついでに川のほうへ降りる。


霊術の“気配円”を最大まで広げると、

水の魔素の流れがすっと見えてくる。


規則正しく流れる“線”の中で、

ほんの少しだけ乱れている部分。


そこへ手を突っ込む。


「……っと!」


ばしゃ、と水しぶきが上がり、

ぴちぴちと跳ねる魚が手の中に収まった。


「ありがとう。いただきます」


命への感謝は、絶対に忘れない。

この森で生きている限り、なおさら。


薪を組み、火を起こして、

魚を焼き台に並べる。


香ばしい匂いがふわりと広がると――


寝袋のほうで、もぞ、と音がした。


「……いい匂い……」


「……ん……朝……?」


シルファさんとカールアさんが、

同時に目を覚ました。


二人とも髪がぐしゃぐしゃで、

寝起きの顔なのにどこか強者の気配がある。


「おはようございます!」


僕が挨拶すると、カールアさんがあくびを噛み殺す。


「おはよ……って、また弟弟子が朝ごはん作ってるし」

「本当ね。いい弟子を持った気がするよ」

「や、やめてくださいよ……恥ずかしいです!」


シルファさんは微笑んで、

焼け具合を確認しながら言った。


「――そういえば、今日で修行は終わりね」


「……え?」

「そろそろ王都に戻らないと、さすがにまずいから」


カールアさんが腕を組んで大きく頷く。


「それに、これ以上やったら弟弟子が本当にバケモノになるしね!」

「えぇ!? ぼ、僕そんなつもり……」


二人は同時にため息をついた。


「才能とかじゃなくてさ。努力で全部飲み込むから怖いんだよ」

「そう。君の成長は、もう“普通”なんて尺度じゃ測れない」


僕は俯いた。


前世で死んだときに誓った。

――もう何も後悔したくない、と。


だから毎日、死にそうでも鍛錬を続けた。


それが、今の“僕”に繋がってる。


その信念が胸を熱くしていた。


三人で荷物をまとめ、

ナティアへ戻る道を歩き始める。


森には妙な静けさがあった。


気のせいか、空気がいつもより重い。


(……嵐の前みたいだ)


ただの気のせいだと思いたかった。


「しかし弟弟子、最初の印象が今とは全然違うよねぇ」


カールアさんが笑う。


「試験監督のときなんて、弟弟子すごいビビってたもんね」

「い、言わないでください……!」

「大丈夫だよ。今はもう弟子なんだから」


そんな会話をしながら歩き続けると――


小さな灯りが見えた。


風灯り亭だ。


胸がじんわりと熱くなる。


「ただいま戻りましたー!!」


扉を開けると、

中にいた客たちが驚いた顔でこちらを見る。


一番最初に気づいたのは――リオだった。


「わー! アイザックお兄ちゃんだ!!」

「ほらリオ、走らないの! ……あっ、アイザック!」


エマが顔を輝かせて駆け寄ってくる。


ラナさんも穏やかに笑った。


「アイザック、なんだか元気になったねぇ。

 年相応の……男の子って感じだ」


僕は胸の奥が温かくなる。


(……これは多分、シルファさんとカールアさんのおかげだな)


二人がそばにいてくれたから、

この世界での僕の“色”が変わった。


――ナティアへ戻った僕を待っていたのは、

久しぶりの笑顔と、懐かしい声だった。


だが、

その温かさの裏で――

ナティアの上空は、静かに揺らぎ始めていた。


風灯り亭のみんなに挨拶をし、

少し肩の力が抜けたあと――


僕たちはそのままギルドへ向かった。


ナティア支部の重たい扉が、

目の前に立ちはだかる。


(……緊張する)


ガルドさん。

ハルドさん。

パトロール・ファング。

そして――ミーナさん。


みんな、元気にしてるかな。


深呼吸をし、両手を扉にかける。


ぎぃ、と音を立てて開くと――


「おおおっ!? あのガキだ!!」

「ついに戻ってきたぞ!!」


朝から飲んでいる冒険者たちが、

一斉にこっちを向いた。


「おいアイツ……!

 あんな若い女の子二人に囲まれてずりぃぞ!!」

「俺も修行行く!! 連れてってくれ!!」

「お前は帰ってこなくなるだろ!」


会話がめちゃくちゃだ。


僕は一瞬ぽかんとした後で、


(……あ、確かに女の人二人と三週間もいたんだな)


と今さら気づいた。


そこへ――


「アイザックくん?」


銀髪が揺れる。

受付に立っていたミーナさんだ。


「元気だった? 戻ってきたんだね」

「はい!もちろんです!

 死にそうでしたが……とても元気です!」


と言ってから、


(え、なんでこんな素直に言ってるんだ僕)


と自分で少し驚く。


ミーナさんは目を丸くした。


「なんか……アイザックくん、前より話しやすくなったね?」

「え、そうですか……?」


そこへ、薬草を仕分けていたミリエルが

ひょこっと顔を出す。


「あっ!アイザックくんだ!!」


「ミリエルちゃんも元気そうでよかった!

 ……って、なんでギルドの中にいるの!?」


ミリエルは胸を張った。


「最近、森が危なくて薬草採れないの。

 だから簡単な作業を手伝ってるんだ!」


「ミーナさんがね、お願いしてくれたんだよ」


ミーナさんが照れくさそうに笑う。


「森の魔素の乱れ、ずっと続いてるでしょ?

 ミリエルちゃんの感知が役に立つの」


(……やっぱり、異変は続いてるんだ)


胸の奥がざわついた。


そんなとき――

ギルドの上階から、重い足音が降りてくる。


「騒がしいと思ったら……おお、アイザック!」


ハルドさんだった。


精悍な顔立ちと、どこか威圧感のある背中。

それでも声は柔らかい。


「戻ったのか。よく生きてたな」

「はい!ただいま戻りました、お久しぶりです!」

「なんかやけに元気だな」


すると僕は、こっそり隣のカールアさんに耳打ちした。


「そういえばハルドさんって……強いんですか?」

「私と同じくらいだよ。

 若いけど、天才。

 あれでもギルド長は二十六歳だしね」

「ええええっ!?」


声が大きく出てしまった。


ハルドさんがすかさず反応する。


「おい。なにをコソコソ話してる」

「い、いえいえいえ!なんでもないです!!」


周りがクスクスと笑う。


そこへミーナさんが、

シルファさんとカールアさんを見比べながら言った。


「でも……最初に会った印象と違いすぎない?

 シルファさんも、カールアさんも」


僕は思わず頷いた。


「そうなんですよ!

 カールアさん、試験のとき怖かったですし……

 シルファさんも最初はすごくクールで……

 でも今はお二人とも話しやすくて、優しくて、すごく――」


「へぇ」


シルファさんの目が細くなる。


「今は“クールで素敵な女性”じゃないってこと?」

「い、いええっ!?

 賑やかで素敵な女性です!!!」


冒険者たちが爆笑した。


(……前世の僕って、こんな感じだったのかな)


自然に笑えて、

自然に気持ちを口にできる。


前の自分と、

今のアイザックが混ざり合ったみたいな感覚だった。


ミーナさんがくすっと笑う。


「本当に……年相応の男の子って感じになってきたね」

「わ、わかんないですけど……」


そう答えた瞬間――


ギルドの扉が、

バンッ!!と勢いよく開いた。


「報告!!」


パトロール・ファングのレントが飛び込んでくる。


そのすぐ後ろから、息を荒げたガルドさん。


「北東より――魔物の大群!!

 ナティアに向かってる!!」


空気が一瞬で固まった。


「数は……約六千!!」


ギルド中が、真っ白になる。


ミーナさんが息を呑み、

ハルドさんは目を細めて小さく頷く。


(……やっぱりだ)


僕はカールアさんを見る。


「前に……ハルドさんから何か頼まれてましたよね。

 もしかして……」


「ああ。そうだ」


(やっぱり……気のせいじゃなかった)


森の静けさ。

魔素の揺れ。

霊素のざわつき。


全部、“嵐の前触れ”だった。


(デゼル……

 あいつが……何か仕掛けてるのか……?)


ナティアの空気が震えた。


――嵐は、もうすぐそこまで来ていた。

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