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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
第一章 第二節 少年期冒険譚篇 ―始まりの旅路と邂逅― ナティア冒険者編

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第二十五話 「森で見た“魔素の流れ”」

一昨日から、生活が少しだけ変わった。


剣術の鍛錬に加え、買ったばかりの魔術書と霊術書を読み込み、

その“わからない部分”と向き合うために、森へ足を運ぶ時間が増えた。


朝の空気は冷たく澄んでいて、胸の奥まで静かに流れ込んでくる。

吐いた息が白くほどける中、僕はエルドの森の奥へと歩を進めた。


(……やっぱり、ここが落ち着く)


ナティアの外れから森に入り、十五分ほど歩いた場所。

小川の水は驚くほど透明で、石の上をすべるように流れ、

陽光は木々の合間からこぼれ落ちて地面に揺れる。


冒険者になってから――一人になりたい時。

自分の弱さと向き合いたい時。

どうしても剣を振りたくなった時。


僕は必ず、この場所へ来ていた。


今日はそこへ、魔術の練習も持ってきた。




剣を抜き、ゆっくりと構える。

一太刀、二太刀――木々のざわめきの中で、自分の呼吸だけが鮮明に響いた。


ひと振りするたびに、胸の中心の“核”がかすかに震える。


(剣は……少しずつ掴めてきた。

 カールアさんの言っていた“迷いの刃”も、少し軽くなった気がする)


けれど。


(……魔術は、まだ全然だ)


魔術書にはこう書かれていた。


『魔素を捻り、術式の器へ流し込む』


捻る?

どうやって?

どんな感覚で?


ページを読み返しても、答えはどこにもなかった。


指先へ魔素を集めようと意図しても――

霊術のときのような“流れ”が、まったく掴めない。


(僕……魔術、向いてないのかな……)


胸の奥が静かに沈んでいくようだった。




その時、森の空気がふと揺れた。


――ザッ……。


草を踏む音。

気配円を広げると、三つの気配が森の奥から近づいてくるのが分かった。


(……冒険者?)


木陰に身を寄せて見ると、三人組のパーティが姿を現した。


剣士の男。

弓使いの女性。

ローブ姿の若い魔術師。


動きには迷いがなく、警戒はしていても慌てていない。

ガルドとは別の意味で強い――場数を踏んだ冒険者の気配だった。


「来るぞ! フォレストゴブリン、三!」


剣士の声に、僕の胸がひやりと冷えた。


フォレストゴブリン――

エルドの森の“中層から深層”に集落を作る小型の魔物。

普段は茂みに潜み、数で押す戦法を好む。


冒険者や商隊を襲い、

物資と同じように“人”を奪うことで悪名高い。


特に女性に執着し、

連れ去られた者が戻らないことは、森を行く者の間でよく知られていた。


(……中層の入口付近だ。確かに、出てもおかしくない……)


茂みから三体のゴブリンが飛び出した。


剣士が前衛で受け、

弓使いが射線を取り、

魔術師が――短い詠唱へ入る。


「――《ファイア・バレット》!」


その瞬間だった。


(……え……?)


魔術師の周囲――“魔素が動いた”。


空気の揺れではない。

霊術の気配円で広げていた感覚が、魔素の微細な変動を捉えたのだ。


胸元から、足元から、空気中から――

魔素が吸い寄せられるように一点へ集まり、螺旋を描きながら捻じれていく。


魔術書に描かれていた、

あの理解できなかった図。


(……これ……術式……?)


今、初めて“線”として理解できた。


魔素が集まり――

捻じれ――

術式の“器”へ流れていく。


――ドンッ!


火弾が放たれ、ゴブリンが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。


(魔術って……こうやって“動いて”るんだ……!)


息が止まった。

胸が熱く跳ねた。


理屈は分からない。

技術もない。


でも――

“どう動くか”だけは、今、確かに掴めた気がした。




三人はゴブリンを倒すと、そのまま森の奥へと消えていった。

静寂が戻る。


僕はしばらく立ち尽くしていた。


(見えたわけじゃない……でも“流れ”が確かにあった)


霊術の気配円で感じ取った、魔素の揺らぎ。

それが、魔術師の術式に引かれて形になっていた。


(だったら……僕にも……できるのかな)


昨日までの暗闇とは違う。

目に見えないはずのものの“入口”に気づけた――

そんな確信が胸に灯った。


(魔素を流す……“器”を作る……)


魔術書の図が、頭の中でゆっくり形を結ぶ。


胸の核が、強く、でも優しく震えた。


ズキ……ッ。


それは痛みというより、

“やっと気づいたか”と告げられたような響きだった。


「……やってみせる」


自然と声がこぼれた。


指先を開き、意図する。


集まれ――。


昨日はただの空振りだった意図が、

今日は確かに“熱”を連れてきた。


(……動いた……?)


火花になる寸前の気配。

光の種子のような震え。


それは、きっと気のせいなんかじゃない。


(……魔術……絶対に覚えてみせる)


僕は拳を握りしめた。

エルドの森の静寂が、決意を受け止めてくれるように広がっていた。


剣。

霊術。

そして魔術。


三つ全部を積み上げるための一歩目――

ようやく、その入口が、はっきりと見えた気がした。

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