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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
第一章 第二節 少年期冒険譚篇 ―始まりの旅路と邂逅― ナティア冒険者編

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第二十四話 「魔術の壁と、霊術のささやき」

本を開いたまま、しばらく指が止まっていた。


魔術書と霊術書を買った日の夜。

宿の薄明かりの下で読み進めてみたものの、

正直、半分以上は理解の枠外だった。


それでも――。


(……見ててくれるなら、ちゃんとやるよ)


祠で聞いたあの小さな鈴の音を思い返しながら、

分からない文字をなぞるようにページをめくり続けていた。



翌朝。

街の喧騒がまだ息を潜めている時間帯。


僕は、宿の裏手にある小さな庭園へ出た。

魔術書を抱え、冷えた空気を胸いっぱいに吸い込む。


(……まずは、魔術から――)


魔術の基礎は、“魔素を指先に集めること”だという。

魔術書にはこうあった。


『魔素は意図に反応し、外から内へ、内から指先へ流れる』


言葉だけ見れば簡単そうに思える。

でも、実際にやってみると――。


「……集まれ……っ」


意識を集中させるほど、眉間の奥がじりじり痛む。

指先に何かが触れた“気”はする。

するだけで、何も起きない。


もう一度。

さらにもう一度。


一時間。

二時間。


指先は冷え、掌は汗ばんでいくのに、

光どころか、影の揺れさえ変わらなかった。


「……十歳で初級を卒業する子がいるっていうのに……」


昨日見た、火弾を嬉しそうに放っていた子どもたちの姿がよぎる。


(僕……魔術のセンス、ないのかな……)


焦りが胸を締めつける。

螺旋の図を見ても理解は遠ざかるばかりだった。


『魔素の螺旋流を正確に――』


「……螺旋って……どういう意味……?」


呟いた声が、庭の静けさに吸い込まれていく。


(魔物も斬れなくて、魔術も……これじゃ)


額を押さえ、深く息を吐いた。


そのとき、隣に置いていた霊術書が目に入った。


(……じゃあ、霊術は……どうなんだろう)




霊術書は、魔術書とは対照的に言葉が少なかった。


『霊素は内側の力。精神と魂の流れを重んじる。

 外と内の境界を静かに見つめよ。

 自然は“声”ではなく“気配の流れ”で応える』


(……ざっくりだな……)


半信半疑のまま、書かれている通りに呼吸を整える。

ゆっくり吸って――ゆっくり吐く。


胸の中心。

あの“核”のある場所に意識を寄せると、


風の音。

木の揺らぎ。

遠くを歩く人の足音。


それらがひとつの円の中に並んだように感じられた。


(……なんだろ。すごく、静かだ……)


世界がさっきより“近い”。

霊術書の最初の訓練にはこう記されていた。


『周囲の気配を円として捉える――“気配円けはいえん”』


顔を上げた瞬間、

庭の空気の“通った道”だけが、微かに分かった。


(……これ、できてる……?)


魔術はまったく動かなかった。

でも霊術は、ほんの数秒で輪郭を掴めた。


(なんで……?)


問いかけた心に答えるように、

胸の核が震えた。


ズキ……ッ。


「……っ」


胸を押さえる。

痛みではなく、深く、内側から“応えられた”感覚。




そのとき――。


宿の裏庭なのに、風は吹いていないのに。


――ちりん。


澄んだ、小さな鈴の音が響いた。

耳元でも、庭でもない。

もっと遠く――街の端、祠のほうから。


(……祠……)


昨日、宿の中で聞こえた音と同じ。

けれど今日は、より明確に“こちらに返ってきた”ように響いていた。


気配円を作った瞬間に鳴った鈴――。


偶然だなんて思えなかった。


(……誰……?)


祠の奥に“何か”がいる。

姿も声もないはずなのに、胸の核が応えるように震える。




「……魔術はダメだったけど……霊術は、一歩だけ進めたんだ」


小さく呟く。


魔術→理解しても動かない

霊術→理解しきれないのに動く


その差が、どこか怖くて、でも嬉しかった。


(……これが、ニュートラルってことなのかな)


剣。

魔術。

霊術。


全部を積み重ねて、

いずれどの道にも分類されない場所に立つ。


カールアの言葉が胸に蘇る。


『全部を底上げし続ける者は――

 いずれ、どの道にもはまらない強さになる』


(……僕も、そうなりたい)


胸に手を置いたまま、空を見上げた。

薄い雲の向こうから光が落ちてくる。


気配円に溶け込む世界の気配が、いつもより近い。



その日の夜。

祠の方角で、また。


――ちりん。


ひとつの鈴の音が、静かに響いた。

風が運んだわけでもない。

胸の奥へ問いかけるような、優しい音だった。


(……どこへでも行けるように、なりたい)


アイザックはゆっくりと拳を握る。


魔術の壁。

霊術の入り口。

祠の奥に潜む気配。


すべてが、確かに彼を“まだ見ぬ場所”へ押し出していた。

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