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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
前人未踏の人外魔境 ルプスグロウ編

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第二百五十一話 「諸刃の複合魔術」

シュッ、と空気が張り裂ける。


何かが来た。

そう思った時には、白銀の残像が僕の周囲を走っていた。


なんだよこれ。


一つじゃない。


僕を囲うように円を描いている。しかも途切れない。

薄く揺れる白銀が何重にも重なって、ぐるりと外周を埋めていく。

目で追えば追うほど位置がずれる。


円はただ回っているだけじゃない。

少しずつ、でも確実に僕の間合いを削ってきていた。


近いはずなのに遠く見える。

遠いはずなのに、次の瞬間には爪が目前まで迫っていた。


「これはさすがに厳しいだろう?」


ヴェルセインさんの声がどこから響いたのか、一瞬分からなかった。


いや本当にこれ、厳しいってレベルじゃない。


肉眼で見える残像だけじゃない。

フィーラ・オルビスの中で捉えた動きまで残像になっている。

だけど、今度は肉眼で見える残像とは同じ動きだ。


はぁ……。


気味が悪い……悪すぎる。

しかも、なんでこんなに異常に速いんだよ。


四方から容赦なく襲いかかってくる。


ギン。ギン。ギン。


白銀の爪を剣で受けるたび、腕の骨まで響く重さが走る。

剣で受け切れたと思った瞬間には別の角度からもう一撃が来る。

前を捌いたのに横から来る。横を防いだのに上から落ちる。


ザシュ。


「っ」


脚に熱い痛みが走った。


ザシュ。


次は反対の脚だ。

浅い。

でも浅いだけで済んでいるだけだ。


受け切れてなんかいない。

とてもじゃないが追いつけない。


致命傷を避けるので精一杯だった。


次は後ろ。


左。


いや、なんで右上。


こんなの無理だ。


「防戦一方では勝機がなさそうだな」


「当たり前だろ……!」


ほんの少し遅れるだけで斬られる。

時折混ぜてくるフェイントもノイズだった。

しかも一段じゃない。

普通の誘いの奥に、もう一段ずらしを仕込んでくる。


……ああ、もう面倒だ。


右手に炎壁フレイム・ヴェイル


左手に風圧衝撃ガスト・ブロウ


いっそのこと、こうすればよかったんだ。


「っ、はあああ!」


ゴオオオッ、と爆炎が膨らんだ。


僕を中心に、高温の炎が半球みたいに立ち上がる。

そこへ左手の風圧衝撃ガスト・ブロウをぶつけると、炎はさらに押し広げられ、厚みを増した。

赤い壁じゃない。押し固められた炎の殻だ。


熱が頬を焼く。


でも近づきにくいのは向こうも同じだ。


「ほう、頭を使ったな。そんな馬鹿でかい高温の炎球では近づけん」


ヴェルセインさんが少しだけ距離を取る。


一旦、安全な領域は作れた。


けど。


ヴェルセインさんは、多分今まで戦った中で一番厄介だ。


強いだけなら、まだいい。

見えているのに動きと実体が噛み合わないのが厄介なんだ。


だったら、止まってる暇はない。


すぐに仕掛けろ。


この中から風棘ウィンド・スパイクを出せば、外側の炎壁と噛んで火の棘になる。

けれど、それだけじゃ足りない。棘の数にも限りがある。

風の棘に火を被せただけじゃ、ヴェルセインさんに当たったとしても決定打にはならない。


正直、フィーラ・オルビスにさらに残りの霊素をぶっこめば、本体が視える可能性はある。


でも、それでも次の一手、いや、二手も三手も足りない気がする。


本当に……本当に。


まったくもってマジで面倒くせえ。


棘が足りないなら増やせばいい。

風棘ウィンド・スパイク一つじゃ足りない。


三つ。


五つ。


八つ。


まだ足りない。


もっとだ。


十三。


「……っ」


頭の中に組み上がる術式が、熱を持ったみたいに軋む。


さらにそこへ、炎壁フレイム・ヴェイルを六重に噛ませる。


複合魔術。


うまくいくかなんて分からない。


でも今ここでやらなきゃだめだ。


完成した術式同士を繋げる。

あるいは同時発動させて結果を作る。

あの魔術教本にあった考え方。


術式は独立している。

だったら、繋ぐ場所もあるはずだ。


教本にはそう書いてあった。

でも、こんなのは机の上で読むのと、

こんな本気の戦いの中でやるのとじゃまるで違う。

失敗したら、噛み合わなかった術式ごと自分が焼かれる。


それでも今は、これしかない。


くそ、やっぱり異なる属性だからか、反発が強い。


暴れるな。


噛め。


もっと内側だ。


ここか。

いや、もう少し。


ここだ!


脳みそが焼き切れそうだ。

でも同時に、術式同士が噛み合った感覚が走る。


繋がった。


「無数の炎よ、穿て。炎棘ブレイズ・スパイク!」


ボッ。ボッ。ボッ。ボッ。ボッ。


次の瞬間、ゴオッ、と炎のうなりが重なった。


僕を守っていた炎球の内側から、白熱した棘が一斉に噴き出す。

一本じゃない。二本でもない。

十三個の風棘ウィンド・スパイクの術式に六重の炎壁フレイム・ヴェイルが噛み合って、無数の灼熱の針になって広がっていく。


空気そのものが焼き切れた。

ヴェルセインの逃げ場を喰い潰すように、炎の棘が容赦ない密度で迫る。


「こんなのを避けろだと? 無茶な……!」


ヴェルセインさんの声が初めて揺れた。


ドドドッ。


炎の棘が白銀の軌道へ食い込む。


残像の円が乱れた。


その乱れた一瞬の中で、確かな手応えが一つ混ざる。


「ぐっ……!」


ヴェルセインさんの低い声。


やった。


「僕の攻撃、初めてまともに当たりましたね」


肩で息をしながら言うと、炎の向こうでヴェルセインさんがわずかに顔をしかめた。


白銀の毛並みの下、左足のあたりが焼けている。

僕の脚も、もう傷だらけだ。それでも、今の一撃はちゃんと通った。


残像の輪の中に初めて穴が開いた。

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