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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
前人未踏の人外魔境 ルプスグロウ編

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第二百四十七話 「小さき特異点」

図らせてもらおう。

その一言が落ちた瞬間、場の空気がまた変わった。


さっきまでの魔圧とは違う。


押し潰されるような重さじゃない。


見えない何かが、ゆっくりとこっちへ寄ってくる。

いや違う。


寄ってくるんじゃない。

入ってくる。


思わず肩が強張った。


「アイザックお兄ちゃん……」


小さな声だった。

ユイナちゃんだ。


さっきまでぶんぶん揺れていた尻尾は、もう止まっている。

耳も少し伏せ気味だった。


「なんか、やだ」

「怖いのとは違うけど……やだ」


ハヤトくんも、すぐには言葉を出さなかった。

でも、目だけはずっと僕を見ていた。

平気かって、そう聞いてるのが分かる。


ゼフィルさんとエルナさんも何も言わない。

ただ、二人ともさっきより目が鋭くなっていた。


それは魔狼王様を疑う目じゃない。

むしろ逆だ。


アイザックの中に、何があるのか。


そういう目だった。


魔狼王様が、一歩だけ近づく。


その動きに合わせて、見えない流れが身体の表面を撫でた。

冷たいわけじゃない。

熱いわけでもない。


でも、自分の中へ他人の手が静かに入ってくるみたいで、ひどく落ち着かなかった。


「……っ」


息が浅くなる。


さっきの魔圧みたいに押さえつけられてはいない。

なのに、嫌な汗が滲む。


探られている。


今のこれは、そういう感覚だった。


魔狼王様の目が、ゆっくりと細まる。


「ゼフィルやエルナからは聞いていたが、本当に持っているのだな」


低い声だった。

けれど今度は、ちゃんと意味として届く。


「加護を二つ、恩寵を一つ」

「それも風のもの」

「となれば、アエルディナで間違いあるまい」


その言葉に、左右から空気が揺れた。


「まさか」

「あのアエルディナが」

「人間嫌いの風精霊がか」


低いざわめきが広がる。


僕は思わず目を瞬いた。


アエルディナさんって、やっぱりそういう認識なんだ。


いや、待て。

そんなことより。


今、見えたのか。

加護と恩寵が。


僕が何かを言うより先に、魔狼王様の視線がさらに深くなる。


ぞくりとした。


さっきまで表面を撫でていた気配が、今度はもっと内側へ入ってくる。

胸の奥。

もっと深く。

意識の底へ、静かに沈んでくるような感覚。


自分の体を流れる魔素とは異なる魔素が入っていく。

気持ち悪い、というより落ち着かない。


「イザクお兄ちゃん」


今度はハヤトくんだった。


「平気?」


短い言葉。

でも、それだけで少し落ち着く。


「……うん」

「たぶん」


たぶん、は嘘じゃない。

でも余裕があるわけでもない。


魔狼王様は、そんなやり取りを気にも留めていないみたいだった。


いや。

気に留めていないんじゃない。

全部見た上で、そのまま進んでいる。


それが分かるから余計に怖い。


「風の加護」

「風の恩寵」

「快い命名契約」

「黒き揺らぎの残滓」


魔狼王様が、ゆっくりと言葉を落とす。


その中に混じった一つに、僕の心臓が跳ねた。


黒き揺らぎ。


やっぱり、あの時のことだ。


ナティア。

ゼールさん。

 

前に僕が我を忘れかけた時。

胸の奥から変なものが滲みかけた。

あの時の、あれ。


魔狼王様はそれを感じ取っているのか?


「やはり、ただの人間ではない」


その一言に、左右の狼たちが息を呑む気配がした。


でも、魔狼王様はまだ終わらない。


さらに深く、さらに奥へ。


見られている。

覗かれている。

探られている。


そんな感覚が強くなるたびに、胸の奥がざわついた。

でも、それと同時に妙な違和感もあった。


終わらない。


なぜか、そんな感覚だけがあった。


何がどうなっているのかは分からない。

僕の中のはずなのに、僕自身がうまく掴めない。

ただ、魔狼王様の意識みたいなものが奥へ進むたび、その先にまだ続きがあるような気がした。


普通じゃない。


それだけは分かった。


魔狼王様の耳が、ぴくりと動く。


空気が止まる。


左右にいた狼たちも、もう誰もざわめかない。

ハヤトくんもユイナちゃんも、息を潜めていた。

ゼフィルさんとエルナさんも、さっきよりさらに目を細めている。


みんな、待っている。


魔狼王様が何を見るのか。

何を言うのか。


僕自身が、一番知りたかった。


知りたい、でも知りたくない。


しばらくの沈黙のあと、魔狼王様の目がわずかに見開かれる。


ほんの一瞬だった。


けれど、それだけで十分だった。


あ。

今、何か見えたんだ。


そう思った瞬間、左右から小さく気配が揺れた。


「魔狼王様はどうされたのだ」

「何を見ておられる」


短いざわめき。


けれど、魔狼王様が目を動かしただけで、その声はぴたりと止んだ。


王の前で騒ぐな。

言葉にしなくても、それだけで伝わった。


魔狼王様は、なおも僕を見ている。


さっきまでの興味とは違う。

もっと深い。

もっと静かな目だった。


「……見誤るところであった」


低く落ちた声にごくりと喉が鳴る。


見誤る。


誰が?

この魔狼王様が。


「加護も、恩寵も、黒き揺らぎも見えていた」

「だが、それだけではない」


胸の奥がどくりと鳴る。


やめてくれ。

そう思った。


でも、口は開かない。


「半神たる我ですら、なお奥を見通せぬとは」


その言葉に、左右の狼たちの空気が目に見えて変わった。


そういえば、ナティアにいた頃だ。

世界の知識をカールアさんとシルファさんから教わったことがあった。

本来ならお金がかかるような話だったらしい。

それでも二人は、僕が聞けばちゃんと答えてくれた。


その時に聞いた言葉が、ふいに脳裏をよぎった。


半神。


この世界には、半神と呼ばれる存在がいる。

ドラゴンや竜種も、その一つだとシルファさんたちは言っていた。


つまり。

目の前の魔狼王様も、その半神ってことか?


でも、それも納得できるほどの圧だった。

この場を支配するようなオーラもある。


そんなことを思っていると、


驚愕。

畏れ。


理解の追いつかないざわめきが、周りに広がる。


「あり得ていいことではない」

「人間の内で、そのような」

「魔狼王様ですら……見通せぬ……?」


その反応が、逆に現実味を持たせた。


やばい。


本当に、やばい何かがあるんだ。


僕は何も知らないのに。

僕の中に、何かある。


ユイナちゃんが小さく身を寄せてくる。

ハヤトくんも、じっと僕を見上げていた。


ゼフィルさんの尾が、わずかに揺れる。

エルナさんも、呼吸を浅くしているように見えた。


みんな、同じところを見ている。


僕じゃなくて。

僕の中を。


魔狼王様の口元が、ほんのわずかに上がった。


「見過ごせぬ」


その声は、前の回よりもずっと静かだった。

静かなのに、重い。


「いや」


そこで一度、言葉が切れる。


僕は息を止めた。


魔狼王様の目が、まっすぐ僕の奥を射抜く。


「そなたの内、ただ広いだけではないな」

ここまで読んでくださってありがとうございます。


153日間続けてきた毎日投稿はいったんここで区切り、これからは一話ずつ、より納得できる形で届けていきたいと思っています。

詳しくは活動報告に書いていますので、別作品のことも含め、気になる方はX/Twitterも見ていただけると嬉しいです。

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