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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
第一章 第二節 少年期冒険譚篇 ―始まりの旅路と邂逅― ナティア冒険者編

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第二十二話 「誰かの命と、自分の刃と」

夜が明け、空に淡い光が滲み始めるころ。


胸の奥はずっと不安でいっぱいだった。

昨日の森での討伐以来、胸の中心の“核”がうずき続けている。


(……今日、ガルドさんと戦う……)


恐怖はある。

だけど、それ以上に――自分に対する問いが胸を締め付けていた。


(僕は……斬れなかった。

 守りたかったのに、剣が止まった。

 あれじゃ……誰も守れない)


けれど、あのとき弓使いの女性を「助けたい」と願った気持ちが、確かに本物だったことも知っている。


だから今日――逃げるわけにはいかない。



模擬戦の舞台は、ギルド裏手の簡易訓練場だった。


受験者たちが円形の闘技場を囲み、固唾をのんで見守る中、

僕とガルド・レインズは向かい合う。


地面には無数の戦いの跡。

土に染みついた気配が、歴戦の冒険者たちの残した爪痕を物語っていた。


対面のガルドは鉄製の模造剣を肩に担ぎ、余裕と侮蔑の浮かんだ笑みをこちらに向けてくる。


「おい、坊主。心の準備はできてんのか?」


「……うん。逃げないよ」

「へっ。威勢だけは一人前だな」


試験官のカールアが二人の間に立ち、低く響く声で告げる。


「第二段階――模擬戦を開始する。

 使用武器は模造剣。殺傷は禁止。

 ただし、“戦う意志”を見せられなければ失格とする」


(……意志。僕には、それが足りないんだ)


「両者――構え!」


剣を握る手は震えていた。

それでも目だけは逸らさなかった。


「――始め!」




――ガルドの猛攻。


開始の合図と同時に、ガルドは弾丸のように距離を詰めてきた。


速い。

模擬戦とは思えない殺気。


「どうしたァッ!」


横薙ぎの一撃。

重さが段違いで、受けた瞬間、腕が痺れた。


ガガンッ!!


「くっ……!」

「おいおい、それだけかよ!

 昨日みてぇに突っ立ってりゃ、そのうち死ぬぞ!」


容赦のない攻勢。

胸の奥が冷たく締め付けられる。


(……このままじゃ……終わる)


けれど、剣を振ろうとするたび、胸に刺すような痛みが走る。

あのフォレストウルフのときと同じ――“奪う”ことへの恐怖。


ガルドはそれを見抜いたように嗤った。


「お前、斬れねぇんだよなぁ?

 命を奪うのが怖ぇんだろ?」


「……っ!」


「だったらよ――」


耳元で、低くささやく。


「昨日仕留めた“ちっぽけなフォレストウルフ”みてぇに、

 てめえの命も終わらせてやるよ」


刃が地面を叩く甲高い音。

喉がひゅっと細くなる。


ガルドは続けた。


「命の価値は強さだ。

 弱い命は獣と同じ。

 だから俺は、迷わず斬る。

 ……お前と違ってな?」


胸の奥で、何かがキィンと鳴った。


「……ちっぽけ……?」


「そうだよ。魔物も人間も弱けりゃ“ちっぽけ”なんだ」


 挑発するように剣先を向けてくる。


「さぁ、来いよ。

 お前の“ちっぽけな命”も――同じように終わらせてやる」


(……)




胸の中で、音を立てて何かが崩れ落ちた。


「……ちっぽけ……?」


その単語を反芻した瞬間、胸の奥で熱がせり上がる。


「命に……優劣なんて……ないっ!!」


ズンッ!!


大気が震えた。

砂ぼこりがふわりと浮き、空気が一瞬だけ重く沈む。


受験者たちが息をのんだ。


「な……っ!?」


ガルドが一歩、無意識に後ずさる。


(……胸が……熱い……!)


痛みでも怒りでもない。

ただひたすらに――“守りたい”という願いだけが燃え上がっていた。




同時に、ガルドの脳裏で記憶が弾ける。


――初めてアイザックを嘲ったあの日。

あの「一瞬だけ感じた正体不明の恐怖」。


(あれ……なんだったんだ……!?

 なんで俺……あの時、戦慄したんだ……!?)


今ようやく理解する。


(……コイツ……やべぇ……!!)




僕は、一歩踏み出した。


一歩――ただそれだけなのに、風圧が走り、

刃を構えたガルドの頬に薄く切り傷が浮かぶ。


「なっ……バカな……!?」


剣を構えると、刃の周りの空気がわずかに震えていた。

光でも音でもない――残響のような、見えない揺らぎ。


(……これ……僕の……?)




ぶつかり合う――その瞬間。


「うおおおお!!」


ガルドの大剣が唸りを上げて迫る。


しかし――


ガァンッ!!


ほんの軽い合わせで、ガルドの腕が弾かれたように痺れた。


「っ……!? なんでだよ……!!」


二撃目。


カァンッ!!


剣が跳ね上げられ、空を舞う。


三撃目。


ドッ!!


ガルドの巨体が後方へ吹き飛んだ。


だが――僕の剣は、その喉元で寸前に止まる。


斬らなかった。

止めた。


その刃には、“覚悟”と“優しさ”が宿っていた。




カールアの瞳が細く鋭くなる。


(……今のは“剣気”……?

 いや――そんなのどうでもいい。

 確かだ。あの子の“核”は、本物だ)




模擬戦――終了。


「……勝者、アイザック・ヴァーン!」


静寂が破れ、ざわめきが走る。


「なんだ今の……力……」

「Fランクの動きじゃない……」


地面に倒れたままのガルドが、震える声で呟く。


「……なんだ……お前……

 なんなんだよ……アイザック……」


答えられないまま、僕は胸に手を当てた。


(僕は……誰かを傷つけたくない。

 でも――守るために振るべき刃もある)


その現実を、初めて真正面から見据えた。



戦いのあと、カールアが静かに歩み寄る。


「アイザック」


「……はい」

「今日、お前は“斬らなかった”。

 だがあれは――斬れなかった昨日とは違う。

 “止めるために振った剣”だった」


胸の奥が少し温かくなる。


「……僕に、できてたんでしょうか」

「できていた。

 そして、お前はこれからも迷い続けるだろう。

 命の価値に、答えなんてないからな」


カールアは柔らかい声で続ける。


「だがな。

 迷いながら振る剣にしか――救えない命もあるんだ」


(救える……命……)


「……僕は……変わりたいです」

「ああ。変われるさ。

 お前は“そういう核”を持っている」


その一言が、胸にじんわり染みた。




夕暮れの風が頬を撫でる。


胸に手を当てると――

微かな脈動が返ってきた。


ズキ……ズズ……。


(……まただ……)


その瞬間――


――ちりん。


幻聴のように、祠の鈴が鳴った。


今日はなぜか、その音が誇らしく響いた。


(僕は……守るために剣を振る。

 奪うためじゃない――誰かを救うために)


アイザックは静かに目を閉じる。


第二の試験――終了。


そして物語は、確かに次の扉を開け始めていた。

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