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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
第一章 第二節 少年期冒険譚篇 ―始まりの旅路と邂逅― ナティア冒険者編

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第二十一話 「斬れない理由と、胸に刺さる問い」

翌日。

試験第一段階――森での混合討伐は、昨日の日没前に全て終了した。

全員がかすり傷程度で戻れたことは、幸運と言ってよかった。


でも胸の奥に残ったざらつきだけは、まだ消えてくれなかった。



ギルド裏手の訓練場。

夕日が赤く地面を染める中、受験者たちが整列する。


銀髪の戦士――カールア・フェンリスが静かに前へ進み出た。


「まずは――全員、生還したことを評価する」


淡々とした声。感情はほとんど揺れていない。


「浅層のフォレストウルフは必ず群れで動く。

 各自が役割を理解して動いていた。それは良い」


だが、そこで言葉を切ると、彼女の視線が鋭くなる。


「……だが、“危うい場面”も多かった」


胸がひやりとした。


その視線が――僕の方へ向いた。


「特に、弓使いが狙われた一件だ」


周囲が静まる。


「まず評価すべきは、アイザック」


「……!」


「君は迷いながらも――仲間を守るために“最初の一歩”を踏み出した。

 あれは誰にでもできる行動ではない。高く評価する」


一瞬、胸の痛みが緩んだ。


だが――


「同時に……君は『斬れなかった』。

 命を奪う覚悟も、刃を振り切る決断も――まだ持てていない」


突き刺さるような言葉に、視線が僕へ集まる。


非難ではない。

ただ“何が起きたのか”を知ろうとする純粋な目。


それが余計に、胸をざわつかせた。


「以上が総評だ。

 ……解散。明日の予定は後ほど貼り出す」


冷ややかな講評が締めくくられ、周囲は解散し始めた。




皆が去っていく中、僕は胸のざらつきを押しとどめられなかった。


(……斬れなかった。

 守ろうとしたのに、守れなかった)


胸の奥がじんじんと痛む。


そのとき――


「アイザック」


背後から、カールアの声。


「……少し、時間をもらえるか?」


「っ……はい!」


完全に予期していなかった呼びかけに、声が裏返る。


彼女は何も言わず歩き出した。

僕は慌ててその背を追った。




簡易訓練場奥の木造の小屋。

扉が閉まると、外の喧騒が消えて静寂だけが残った。


カールアは振り返り――静かに問いを投げた。


「どうして、斬れなかった?」

 

核心を突く一言だった。


喉が固くなる。


「ぼ、僕は……誰かを守りたいんです。

 でも……奪うのが怖い。

 魔物でも、命を取るのが……」


「……」


「守るために傷つけるしかないって分かってても……

 頭が止まって……剣が振れなくて……」


苦しくて、俯きそうになったとき――


「顔を上げろ」


カールアの静かな声に、思わず目を上げる。


怒りも、失望もなかった。

ただまっすぐに、僕の心を映すような光だけがあった。


「アイザック。

 “命を奪いたくない”という気持ちを、恥じるな」


胸の奥にそっと灯がともった。


「だが――」


カールアの目が、鋭い刃のように細まる。


「守るというのはな。

 自分だけ綺麗でいようとする気持ちを捨てる覚悟だ。

 誰かを守るためには――時に『血の選択』を強いられる。

 それから逃げて生き残れるほど、世の中は甘くない」


言葉が、胸の奥を深く切り裂いた。


(……覚悟……)


「君には優しさがある。

 だが優しさだけでは仲間は守れない。

 『斬る覚悟』と『守る願い』は、どちらか一つを選ぶん じゃない。

 両方を背負って初めて――冒険者は一人前だ。」


胸が震えた。


「……僕は、その覚悟……まだ持てていません……」


「だろうな」


カールアは即答した。

否定ではない。

ただ事実を受け入れた声音。


「だからこそ――明日、模擬戦を行う」


「も、模擬戦……?」

「第二段階だ。

 相手は――ガルド・レインズ」


「っ……!」


喉がひゅっと鳴る。


「逃げるなら今。

 だが、受けると決めるなら――半端な覚悟で立つな」


突き放すでもなく、甘やかすでもない。


“冒険者としての現実”だけを突きつける声だった。


「……分かりました」


震える声で、それでもはっきりと返す。


カールアは短く頷いた。


「今日はもう帰れ。

 心を整える時間を持て」




ギルドのホールに戻ると、片付けをしていたミーナが僕の顔を見るなり眉を寄せた。


「アイザックくん……すごい疲れた顔してる……」


「……明日、模擬戦があって……相手が……」


「ガルドさん?」


「……うん」


ミーナは少し目を細めたが、それ以上は何も聞かなかった。


「……今日はね、無理に笑わなくていいの。

 でも――無事に帰ってきてね。それだけは、約束して?」


「……うん。約束する」


胸の奥が、ほんの少しあたたかくなった。



夜の街道。

祠へ続く道を歩きながら、途中で足を止めた。


(……祠に行っても……今日だけは、祈れない)


祈れば楽になるのは分かっている。


でも――今日は祈りに逃げたくなかった。


代わりに、祠が遠くに見える場所へ歩いて立ち止まる。


夜風が冷たく頬を撫でる。


星空の下、祠の屋根だけが静かに影を落としていた。


「……僕は、どうすれば……

 誰も守れないままじゃなくなれるんだろ……」


弱い言葉が、闇に吸い込まれる。


今日は風も、鈴も――応えてくれない。


(でも……)


ガルドの斬撃。

カールアの言葉。

震えていた弓使いの声。

そして、自分の震える刃。


(逃げたくない。

 斬れなくてもいい。

 でも――このままじゃ、終われない)


胸の奥で、何かが脈動した。


ズキ……ッ。


祠の鈴は鳴らない。


それでも――


夜の空のどこかで、

かすかな“律の揺らぎ”のような何かが、胸の奥に触れた気がした。


(……僕は、変わる。必ず)


拳を握りしめ、一歩前へ踏み出す。


その影は、昨日よりもわずかに長く伸びていた。

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