第十八話 「訪れる試練」
エルドの森近くで起きた異常事態から一夜明けた朝。
ギルドに入った瞬間、向けられる視線は――驚きと戸惑い、そして僅かな嫉妬が入り混じっていた。
(……怖い。けど……昨日より平気だ)
胸が少し痛んだが、足は止まらない。
受付へ向かうと、ミーナが心配そうに微笑んだ。
「アイザックくん、おはよう。今日は……大丈夫そう?」
「うん。昨日よりは……」
自分でも驚くほど自然に笑えていた。
ミーナはそっと目を細める。
「昨日の件、ギルド中が噂にしてるの。嫌な思いしたら言ってね」
「ありがとう。大丈夫……たぶん」
その時、ギルド奥から重い足音が響いてきた。
「アイザック・ヴァーンくん。話がある。来てもらえるか?」
声の主は、ナティア支部のギルド長――ハルド・ケイン。
歴戦の冒険者だけが纏う独特の圧。その場の空気がぴんと張り詰めた。
ざわつきが起きる。
「ギルド長が直々に……?」
「Fランクを呼ぶなんてあり得ないだろ」
「昨日の件だ。街道のドリンブルを一瞬で止めたって噂の……」
胸がきゅっと締めつけられる。
ミーナに頷き返し、ギルド長室へ向かった。
扉が閉まり、静寂が落ちる。
「座りなさい」
言われるまま腰を下ろすと、ハルドは腕を組み、深く息を吐いた。
「昨日の魔物防衛線。君の行動、すべて報告で確認した」
低く、しかし重い声。
「Fランクが成体ドリンブルを単独で止めるなど、本来ありえん。
まして“非殺傷”で収めた。これは特異だ」
返答に詰まる。
「……でも、あれは偶然で。僕は――」
「偶然で成し得るものではない。
君の中には“何か”が眠っている。それは明らかだ」
机の上に一枚の紙が置かれる。
――昇格試験申請書。
(……昇格試験……?)
「本来、Fランクには資格がない。だが、君の力は例外だ」
視線は鋭くも、どこか期待を含んでいた。
「アイザックくん。
自分の力を知りたいか?
それと向き合う覚悟はあるか?」
胸の奥で、あの日の痛みと――守れた喜びが重なった。
「……はい。やってみたいです」
ハルドは満足そうに頷く。
「よろしい。後日、正式に日程を伝える。準備しておけ」
部屋を出た瞬間、冒険者たちの視線が突き刺さった。
「なんでアイツが……」
「ギルド長室から出てきたぞ……?」
「昨日の件、本当だったのか……」
その中に、ひときわ鋭い目があった。
以前、僕をあざ笑ったDランク冒険者だ。
敵意すら含んだ視線がまっすぐ突き刺さる。
(……また僕を……)
胸が冷えたが、それ以上にどくりと熱い鼓動が走る。
(負けない。もう逃げない)
夕暮れの祠へ向かうと、胸がじんと熱くなった。
「……俺は、自分の力を知りたい。
誰かを救えるなら……なおさらだ」
手を合わせた瞬間――風もないのに鈴が鳴った。
ちりん……
ちりりん……。
(また……)
直後、背に冷たいものが走る。振り返る。
誰もいない。
だが――確かに“見られている”。
(気のせいじゃない。何かが……動いてる)
昇格試験。
胸の奥でうずく第三の力。
そして、見えない視線。
静かに――しかし確実に、運命が動き始めていた。
(……俺は変われる。だから――進む)
祠の鈴がもう一度だけ鳴り、夜の闇がそっと降りてきた。




