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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
第一章 第一節 幼少期篇

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第十一話 「変わり始める日常と、小さな焦燥」

今日の風の“揺れ”が頭から離れないまま、心の奥で黒い砂がざりりと舞ったような感覚がした。


風の音がいつもより強く、

家の壁がときどき、きしむように震える。


眠っているはずの時間なのに、

胸の奥だけがざわざわして落ち着かない。


布団の中で、そっと目を開いた。


(……今日の、あの“揺れ”。

 いったい、なんだったんだろう)


風が止まり、魔素が歪んだ“あの瞬間”。

説明のつかない気配が、確かに僕へ近づいていた。


レーヴェと別れてからずっと、

何かが少しずつ、こちらへ滲んでくるような感覚がある。


(僕だけ……何かに触れてる……?)


そんな考えを抱えたまま、

いつの間にか意識は闇に沈んでいった。


 


翌朝。


広場には、いつもより大きな笑い声と歓声が満ちていた。

火花を散らす子、風を起こそうとする子――

魔素を扱える子どもが、目に見えて増えてきている。


そんな中、僕はいつも通り木剣を握り、

軽く構えをとって素振りを始めた。


「おっ、イザーク! また朝からやってんのかよ」


コルトが駆け寄ってくる。

だけど今日は、いつも以上に顔がニヤついていた。


「……なんだその顔?」

「いや実はさ、昨日おれ、ちょっとした“勝負”挑まれてさ! 見ろよ!」


ドヤ顔で手をかざすと――


パチッ


小さくない火花が、しっかりと宙に散った。


(……昨日より、はっきりしてる)


「すごいな。もう本当に“使える”って言っていいレベルじゃないか?」

「だろ! でもな……正直、イザークの剣の方が怖いけど」


そう言いながら、コルトは一歩、さりげなく距離を取った。


「……下がるなよ」

「いや、前におれ、巻き添えくらって指ぶつけたじゃん!」

「あれは……ごめん」


(前世でも、球技で味方巻き込みまくって怒られてたな……)


器用に見えて、どこか一点ズレるのは昔からだ。


そこへ、木陰からゆるゆると影が現れる。


「……おーい……イザークー……」


テルム。

この村きっての“サボりの天才”――のはずなんだけど、

今日はなぜか顔が妙に真面目だった。


「どうした、体調悪いのか?」

「ち、違ぇよ! 今日は……見たんだよ……!」


珍しく前置きもなく、食い気味に話し始める。


「朝、小川の方でさ……でっけぇ足跡! 絶対魔獣のだって!」

「えっ、それ本当?」コルトが前のめりになる。

「……いや、ちょっと岩だったかもしれねぇ……」

「おい」

「ま、まぁでもおれが怖いってことはだな、危険だったってことだ!」


結局いつも通りで、少しだけ肩の力が抜けた。


そのとき――リーネが全力疾走で駆け込んでくる。


「イザーク! 大ニュース! ……って、テルムの顔がもう死んでる!?」

「おいコラ、まだ生きてるわ!」

「いやーよかった、今日のテルムのサボり情報がなくなるところだった」


「サボり情報ってなんだよ……」

「“今日のテルムがどこでサボるか”を当てるゲーム」


(そんな遊び、いつの間に始まってたんだ)


リーネは息を整え、声を潜める。


「森の奥で“青い光”が走ったって!

 見たのはロロおばさん! あの人のガセ率は三割くらい!」


「微妙に信用できない数字だな……」


僕が苦笑すると、今度はファナがおずおずと近づいてくる。


「……アイザックくん。今日は……顔色が悪いよ?」


ファナは、こういう変化にすぐ気づく。

誰よりも目が優しくて、誰よりもよく見ている。


「大丈夫。昨日の頭痛も治ったし」

「でも……無理しないでね。イザックくん、最近ちょっと……心配」


その言葉は、胸の奥の柔らかい場所に、そっと触れてくる。


(……ごめん。言えないことだらけで)


ふっと目をそらしたとき――

そこに、ジョルが自作の小刀を手にやってきた。


「ザック。昨日より構えが良くなってる。重心が、少しだけ下がった」

「えっ……分かるの?」

「分かる。剣の使い方、たぶん村で一番はイザークだしな」


(剣だけは、前世からなぜか唯一“90点以上”取り続けられた。

 剣道か何か、習ってたんだっけ……)


その肝心なところだけ、いまだに記憶がぼやけている。


ジョルは木剣を受け取り、じっと見つめて眉をひそめた。


「……これ、先欠けてるだろ。貸せ。直しておく」

「助かる。本気で」

「……俺、こういうのしか取り柄ねぇし」


「取り柄しかないって意味だよ、それ」


リーネが横からすかさず突っ込むと、ジョルは耳まで真っ赤になった。


そこへ、薬草の束を抱えたマリエが近づいてくる。


「イザーク、昨日も軽く切ってたよね? 治りかけでも油断しちゃだめだよ」

「本当に毎回見てるのか……?」

「だって……見えるんだもん」


(ぼく、そんなにしょっちゅう擦り傷作ってたっけ)


マリエはふわりと微笑んだ。

その笑顔は、森に咲く花よりも柔らかい。


――そのとき、ふと気づく。


今日は、全員がいつも以上に“僕のことを気にしている”。


昨日の魔素の揺れのせいなのか。

それとも――みんなも無意識のうちに、何かの“変化”を感じ取っているのか。


(……なんだ、この感じ)


温かいはずの日常の中で、

胸のざわつきだけが、じわじわと強まっていく。


 


剣の練習を終え、丘へと場所を移す。


魔素は外の流れ。

霊素は内側の脈動。


どちらも、手を伸ばせば“触れられる”。

それは分かるのに――


(……どうすれば、“術”っていう形になるんだ)


僕だけ、みんなとは違う道の上を歩いているような焦りがある。


胸の奥では、

レーヴェに触れられたときに生まれた金色の灯りだけが、

今もかすかに揺らめきながら、静かに温かかった。


(レーヴェ……君は、どこにいるんだ)


森を見つめると、胸がきゅっと締め付けられる。


 


夕方。

家へ戻る途中、背中に低い声が飛んできた。


「……悪くない構えだ」


「父さん!?」


振り向くと、父アレンが立っていた。

いつもの穏やかな雰囲気ではない。

どこかに、研ぎ澄まされた“刃”の気配をまとっている。


「イザーク。魔術ができないことを、気にしているな」

「…………」


図星すぎて、何も言えなかった。


父さんは僕の木剣を受け取り、

ゆっくりと構えを取る。


(え……強い)


それは、ただの村人の構えじゃない。

立っているだけで、“剣を知る者”だと分かる姿だった。


「昔、少しだけ剣を学んだ。

 ……人並み以上には戦えた方だ」


「教えて……ほしい」


絞り出すように言うと、父は静かに頷いた。


「なら今日から、“本当の剣”を教える。

 覚悟だけは、誰にも負けるな」


胸の奥が熱くなる。


(僕にも……できることがある)


魔術も霊術も遅れているかもしれない。

それでも――剣なら、きっと。


 


――夜。


家へ戻る道の途中、ふと森の奥で――


ポンッ


何かが灯った。


淡い光。

火ではない。

魔獣の発光とも違う。


脈打つように明滅する、それは――“命の色”だった。


(……なに、あれ)


風が逆巻き、

木々の影がざわざわと揺れ動く。


レーヴェの気配ではない。

でも、“あの夜”とよく似た空気が、肌にまとわりつく。


(レーヴェのときみたいな、優しい温かさじゃない。

 もっと……冷たい)


胸の奥が、静かに疼いた。


(また……何かが動き始めてる)


世界の揺らぎは、確実に僕へ近づいている。


その意味を知るのは――

もう少し先の話だ。


けれど、もう“何も起きていないふり”はできそうになかった。

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