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真夏の蜃気楼  作者: HAL10
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ロクでもない未来から、会いに来た。

タイムスリップ後初の朝は怒鳴り声から始まった。

「ほらお兄ちゃん。お母さん怒ってるから!早く起きてってば!」

寝ぼけていたこともあり、ああ、うんとだけ返しといた。

こうやって起こされるの、随分久しぶりでちょっと嬉しかった。

だが、そうやってしんみりしてる訳にもいかない。

俺は急いでベットから起き上がった。


俺の中学は特別頭がいいわけでも、チンピラみたいなのが沢山いるようなガラの悪い学校でもない。

どこにでもあるような平凡な学校だ。

大都会というよりは田舎の街の平凡な学校。

だから中学生活が苦しかった思い出もない。

俺自身、いじめを受けていたこともなく、

それなりに友達に恵まれていた。

部活は入っていなかったが、それでも楽しい仲間ができた。

それだから、友達関係を今どうこうする必要はないはずだ。

きっと俺がタイムスリップした理由は別にある。

まぁ中学時代のことだけをとればの話だが。


懐かしい制服に身を包み、顔を洗い、朝食を平らげた後、俺は家を出た。


何十回も通った懐かしくも、見慣れた道を歩いていく。

その景色はあまりによくできていて、まるで本物かどうかを疑ってしまうくらいだった。

それと同時に、その景色はまるで知らないモノのようにも見えた。


「よう」

ひょいと肩を叩かれる。

声の主は俺と同じ制服を着た男子だった。

忘れるはずもない。俺はこいつをよく知っていた。


シゲ。

俺の幼なじみでもあり大の親友でもある。

シゲはお調子者だけど憎めないイイ奴だ。

俺とシゲは2人で散々悪さをした。

腐れ縁は長く長く続き、20を過ぎてからもよく遊びにいく仲だった。


中学の頃のシゲもやはり懐かしさの塊だったが、

俺があれこれ考える前にシゲは話を始めた。

「まったく、今日もアチィなぁ~。ここんところずっと暑い。全く溶けちまうよ。

てか、お前!今日こそは数学のプリント持ってきたんだろうな?」


数学のプリント?

そうか、俺がタイムスリップする直前に、本来の時代の俺はそんなものをもらっていたらしい。

しかし昨日はすぐ寝ちまった。そんなものはこれっぽっちもやっていない。

「いや、昨日はすぐ寝た。忘れちまった。」

「はぁ?オイオイそいつはやばくねぇかお前。

昨日あれだけ持ってくるって言ってたのにか…。

また野村にネチネチ説教されちまうぞ。」

───野村。

確か数学の教師で一度頭にくると、マシンガンように喋りだし、話が長いので有名だった。

そんでもってついたあだ名が「さんま2号」だ。


それにしても嫌な思い出は悔しくも、よく覚えてるものだ。

何が悲しくてあんな奴のこと覚えてるのだか。


そして俺はやはり不真面目らしい。

まぁ、思い返せば返すほど、ろくに提出物を出した覚えが無い。

覚えていないだけで、本来ならばこの日も怒られたのだろう。



しばらくすると学校に着いた。

下駄箱で、自分の出席番号をすっかり忘れていることに気づき、とぼけたふりしてシゲに番号を聞いてみると、シゲはすぐに教えてくれた。


よくよく考えて、なぜ他人の出席番号なんか覚えているのか聞いてみると、ドッキリラブレターをしてから頭に入っている。と言った。

こいつ。そんなことまでしてたのか。


もう何年も来ていない校舎。

というより、俺が23の誕生日を迎えて間もない時にもう廃校になると言う話をどっかから聞いた覚えがある。

正直、元の時代で普通に生活していれば、恐らくここに来ることは二度と無かったはずだ。

二十歳になってから、一度も顔を出しに行かなかったことを心底後悔した。


だが、この時から俺はある悪い予感がしていた。

それは決して、プリント忘れで怒られるであろうとかいうものではない。


なんというか、もっと嫌な、絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたようなモノのような気がした。

この先には思い出さない方がいいものがあるのではないのか。と。


いや。思い出す必要もない。

なぜならこの時、その正体はもう知っていたのだから。

忘れることなどできない。

忘れることなど、できるはずがない。

俺がやり直したいと何度も思った、

まるで夏が見せる幻のようなあの出来事を。




教室に入って奥、一番窓際の一番後ろの席。


そこに彼女はいた。


少し長めのショートカットに、澄んだ瞳の彼女。

鞄の中の、教科書の類を机の中にしまっていた。


その隣は俺の席。全てを、理解した。


そもそも中二の夏という時点で気付いていた筈なのだ。

その筈なのに、俺は受け止めるのが怖くて、

懐かしい景色をしんみりと眺めたりしたんだ。


最初から、知っていた。

俺が過去に来た理由も。

やらなきゃいけないことも。



席まで歩いて行った俺のことを、彼女は気づいた。

そして俺の方を向き、ニコッと笑った。


────おはよう。


マナミ。

いつも明るくて、笑顔で、可愛かった。

そんな彼女を俺はずっと好きだった。

頑張り屋で、活発で、できればずっと一緒に笑っていたいと思えた、本当に最高な女の子。

そう、ずっと一緒が、よかった。

中二の夏、つまりこの俺が訪れた、この夏。




彼女は自ら命を絶ち、死ぬ。




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