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お兄さま、それ間違ってます  作者: あや乃


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中編②

※全4話(前編、中編①、中編②、後編)

※毎日21時頃更新。2026年8月21日完結予定

「待ってくれクラウディア!」

「ローレンス……」

「ブリジット、クラウディアをどこに連れて行くつもりだ! 彼女は俺の妻だ!!」


 こんなにも胸キュンしない「俺の妻だ!!」は聞いたことがない。 


「愛しているんだクラウディア、頼む……どこにも行かないでくれ!!」 


 あーもー次から次へと鬱陶しい! どこに? って屋敷の中ですけど。愛する? 幼なじみに誘われてほいほい浮気した癖にいけしゃあしゃあと……


「いい加減にして下さいお兄様! まずはお義姉様のお身体を優先すべきでしょう!?」

「そこをどけブリジット!」

「イヤです!!」

「この……!!!」


 反射的にお兄様が私に手を上げようとした―――次の瞬間。兄が物凄い勢いで吹っ飛んだ。





 ―――え!?


 目の前の人影と遙か彼方に飛ばされた兄を呆然と見ていると後ろから声が聞こえた。


「大丈夫か、ディア」


 振り返ると、お義姉様と匹敵するほどの美丈夫が彼女を抱き抱えているのが見える。全身から溢れ出るオーラと色気、この人は……


「お……お兄様」


 もしかして、お義姉様のお兄様? 血縁関係ならあの美しさも頷ける。


「君も大丈夫? ケガはない!?」


 振り向いた影、もとい人物もこれまた眩いばかりの美形! そしてクラウディアお姉様に似ていると言うことは血縁者……義姉家のDNAトンデモナイナ!!


「は、はい……」

「見た感じ大丈夫そうだけど……綺麗な顔に傷でもついていたら大変だからもっとよく見せて」

「……っ」


 美しい顔が親近距離に近づいてドキドキする、もう少し離れてーーー!!


 周囲を見渡すとはるか遠くに途中まで赤く色づいているバミリが見えた。ということは……これも物語の流れの一部ってことか。あれ、でも何で途中まで?


「きゃああああっ、ローレンス!!!」

「いやあっ、ロニー! しっかりしてロニー!!」


 そこにお母様の悲鳴とジェンナの金切り声が割り込む。直後、鬼の形相のお母様がこちらに突進して来た。


「いきなりやって来てブライトン子爵家の嫡子に暴力を振るうなんて……ただで済むとは思っていないでしょうね!!」


 私をのぞき込んでいた青年がフッと無表情になり立ち上がる。お母様と対峙しようとした直後、


「待てセルジオ」

「兄さん」


 それを制したのはさっきまでお義姉さまの傍にいた美丈夫だった。さっき助けてくれたイケメン、セルジオ様っていうんだ……


「ブライトン子爵家現当主、アドリーヌ殿ですね。私は――」

「侵入者の自己紹介なんて聞きたくもないわ! 早く衛兵を呼んでちょうだい!!」


 その言葉を聞いて美丈夫の目がすっと細められた。


「これはこれは……目の前にいる人物が誰か確かめもしないで罵倒とは。ブライトン家が腐っているという噂は本当のようですね」

「何ですって……暴漢風情が偉そうに!」


 そこでお母様が何か思い当たった様に「ああ」と言った。


「分かったわ、あなたそこの売女の男妾なんでしょ。使用人の分際で子爵家に取り立てて貰っておきながら見目麗しい男を囲い込むなんて……何て薄汚い女なの」

「…………なんだと?」


 その目に殺意が宿るのが分かった。早く気づいてお母様、この人はお義姉様のお兄様なんです!!


 一触即発のお母様と義姉の兄、とそこにジェンナが物凄い勢いで割り込んできた。あれ、あなたさっきまでお兄様の傍にいませんでしたっけ?


「あ、あの! あなたはもしかしてスターリング公爵家の……」

「ええ、スターリング公爵家当主コンラッドです」





「す…………すたーりんぐこうしゃくけ…………?」


 途端にフリーズするお母様。スターリング公爵家と言えば国内三大貴族の筆頭でその影響力は王家を凌ぐと言われる富豪の中の大富豪。そんじょそこらの貴族が束になってかかったとしてもその足元にも及ばない。


 とんでもない大物の登場に固まった母の横で、目をギラギラさせながら薄幸+男受けフルスロットルでアピールを始めるジェンナ。


「私、スカイラー男爵家のジェンナと申します。父と参加した夜会でコンラッド様のお姿をお見かけしたことが……」

「ああ、あなたはスカイラー家のご令嬢でしたか。噂通りお美しい方だ」

「そ、そんな……あの、今日はどうしてこちらに?」

「ブライトン家のご当主に会いに来たのですが、どうやら取り込み中のようですね」

「ええ、子爵家内の内輪揉めのようでして……奥様の過失ですので直ぐに収まると思いますわ。けれどコンラッド様をここでお待たせする訳には……あ、よろしければ片付けが終わるまでスカイラー家でお茶でもいかがですか。私、精一杯お持てなしいたします」


 ここぞとばかりに自身の強みを目一杯使って美丈夫、もといスターリング公爵に擦り寄るジェンナ……何か、明らかに公爵を狙ってない? っていうかあなた兄の子供を身籠もってるんじゃないの??


「とても魅力的なご提案ですがそれはまた別の機会に」

「そんな遠慮なさらないで……さあこちらへ」


 紳士的な笑顔でやんわり突き放す公爵になおも食い下がるジェンナ。彼の腕を取り自分の体に押し当てようとした瞬間、


「申し訳ありません、これ以上の接触はご遠慮願いたい」

「…………え?」

「スカイラー男爵令嬢の話は聞いています。そうやって数多の令息を溺れさせ意のままに操って来たのでしょうが、残念ながら私には通じません。身持ちの軽い女性はその卑俗さが見目にも表れると言いますが……それは間違いではなかったとあなたを見て良く分かりました」


「な…………!?」


 ぴしゃりと拒絶され言葉を失ったジェンナを無視してお母様の方に向き直る公爵。


「ブライトン子爵家当主、アドリーヌ殿」


 声をかけられてフリーズしていたお母様が再起動した。


「は、はい! スターリング公爵家のご当主様とお近づきになれるだなんて光栄の極みですわ!!! あの、今日はどうして私共の屋敷に……?」

「いえ、両家の顔合わせもなく妹を嫁がせてしまったので改めてご挨拶をと思ったのですが……」

「そうですか、妹さんを――」




「い、いもうと…………?」


 そこまで言って再びフリーズしたお母様が、ゆっくりとスターリング公爵と義姉の顔を確かめる。どこからどう見ても妹でしょ、こんなに顔の造形が似てるんだから。


「これは一体どういうことか納得のいく説明をしていただけますか、アドリーヌ殿」


 口調は穏やかなまま、でも目は全く笑っていないスターリング公爵。


「そ、それは……な、何かの誤解です。きっと行き違いがあったのですわ」


 まるで不審者のような挙動できょろきょろと辺りを見渡したお母様が、ハッ! と何かに気づいて勢いよく指をさす。


「そう! 全てはこの女狐が子爵家の財産を狙って画策したことで、我が家には一切関わりの無いことでございます!!」


 …………ん? 何て??


 お母様の突然の裏切りに、スターリング公爵のクリティカルヒットを食らっていた女狐……もといジェンナが慌てふためいた。


「おば様!? いきなり何を仰るんですか!」

「馴れ馴れしく呼ばないで! 息子を誑かしてまでブライトン家に入りこもうとするなんて汚らわしい女……その子供だって本当にローレンスの子か分からないわよね、どこかで適当な子種を拾ったのかもしれないし」

「そんな、酷いですおば様! あんな使用人よりブライトン家の嫁として相応しいのは私だと、既成事実さえ作ってしまえばこっちのもの……あの女を追い出す口実になるからと話を持ちかけたのはあなたではありませんか!?」

「はあ!!? 私がそんなこと言う訳ないじゃないの!」


「母さん……ジェンナにそんなことを吹き込んでいたのか!?」

「ローレンスは黙ってなさい! さっきから聞いていればでまかせばかり……図々しいにも程があるわ、ブライトン家の嫁はクラウディアさんだけよ!!」


 わあ、見事な手のひら返し。息子の不貞を容認し浮気相手を可愛がっていた筈なのに……呆れて物も言えないとは正にこのことだわ。


「クラウディアさん」


 急に優しい口調で声をかけられて義姉がビクッ! と肩を振るわせる。


「一時でもあなたを疑ってしまうなんて不甲斐ない私を許してちょうだい。辛かったわね……でももう大丈夫よ、あなたのことは私が命に代えても守ってみせる。さあ……一緒に帰りましょう?」


 張り付いた笑顔で近づいてくるお母様、土気色の顔で小刻みに震えるお義姉様。そりゃそうだ、この豹変ぶり……傍から見ても気持ち悪いのにその視線が自分に向けられていると思ったら恐怖でしかない。


「もうおしまいにしましょう、お母様」 

「……またお前なの、ブリジット」

「公爵様は全てお見通しです。これ以上はご自分が惨めになるだけですわ」

「お前は……! どこまで親を馬鹿にすれば」

「ブリジット嬢の言う通りだ」


 お母様の声に被せるように入って来るスターリング公爵。


「茶番はそこまでにしてくれないか、見るに堪えない」

「スターリング公爵……」

「断っておくが言い訳は無用だ。ブライントン子爵家との婚姻は白紙に戻し貴家にはそれ相応の罰を受けて貰う」


 嫌悪感に満ちた目でお母様を睨み付けるスターリング様。あれ、さっきまでと口調が変わっている。確かにこういう物語の執行人(ヒーロー)って冷酷系が多いもんね(この人は兄だけど)


「そんな……誤解なんです公爵様! 全ては隣人の皮を被ったスカイラー男爵家の」

「言い訳は無用だと言った筈だ」


 鋭い視線を向けられヒュッと言葉を失うお母様。


 兄とジェンナは戦意喪失で灰になる寸前。元気なのは母だけだったが、自己保身のために嘘を重ねる姿は見るに堪えないほど無様だった。


「さあ、帰るぞクラウディア」


 クラウディアお義姉様を抱え上げるスターリング公爵、兄妹でも美丈夫と美女のお姫様抱っこは推せる。


 良かった、これでお義姉様の身の安全は守られた……あとはあの家族を、と兄たちの方に向かおうとする私をお義姉様が引き留める。


「待ってブリジットさん。あなたも私達と一緒に来て欲しいの」

「え、でも私はこれから母と兄の(尻拭いをしないと)」

「先ほどのお礼もしたいし……ね、お願い」


 あああ、美貌の暴力! そんな顔でお願いされたら断れない!!

 

「……分かりました」

「良かった、じゃあ行こうか!」


 と、私をぐいぐいと引っ張るセルジオ様。って、何であなたが??


「クラウディア……ああ、私のクラウディア……」

「……ローレンス、コンラッド公爵……ロニー、コンラッド……」


「待って! お、お待ちください、公爵様ああああああっ!!!!!」


 兄と幼なじみの呟きと母親の雄叫びを聞きながら、私はスターリング3兄妹とその場を後にした。

明日は後編、最終話を公開します。

ブライトン子爵家の行く末、そしてブリジットの未来をどうか見届けてやってください!


◆今日の一言◆

節操のないジェンナですが、この状態でもし万が一コンラッド公爵が釣れてしまったらどうするつもりだったのか……ちょっとだけ興味があったりww


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