第八話:レベルアップ
生徒会長がずらした岩の隙間から、
何かが飛び出した。
人影。
いや――犬みたいな顔だ。
「ぎゃうっ!」
その瞬間。
ペンライト――ビーム・ポケットナイフが閃いた。
コボルトの鼻が宙を舞う。
生徒会長はそのまま蹴り飛ばした。
転がったコボルトが、
俺の足元へ滑ってくる。
「さあ、トドメを刺しなさい」
これがコボルトか。
確かに犬っぽい人型だ。
「お、おう」
俺はバットを振る。
ドゴッ。
腹に直撃。
だが――
まだ動く。
コボルトは地面を這いながら逃げようとした。
「しぶといな」
俺はバットを握り直す。
そして――
頭を叩き潰した。
嫌な音が響く。
コボルトは、
ようやく動かなくなった。
「よし。
殺したぞ」
俺が報告すると、
生徒会長は岩の向こうを見ていた。
「おかしいわね」
「何がだ?」
「出てこないのよ」
俺も岩の向こうを見る。
「まあ、
こんな狭い通路じゃな」
俺は肩をすくめた。
「出合い頭にやられたら、
数の優位が無くなる」
生徒会長は小さくため息を吐く。
「今回の群れのリーダー、
少し頭が良いみたいね」
「じゃあどうする?」
俺はバットを肩へ担ぐ。
「こっちから出て行ったら、
逆に囲まれるぞ」
「そうね」
生徒会長は頷く。
「正面から行きましょう」
五対二。
だが――
今の俺なら、
何とかなる気がする。
「了解」
「コボルトは、
私が岩を動かしてる最中を狙うと思うわ」
生徒会長は言う。
「前へ出て護衛をお願いね」
「ああ」
今度こそ仕事だ。
俺は岩の前に立つ。
バットを構える。
「いつでもいいぜ」
生徒会長が岩を押し始めた。
すると。
予想通り。
コボルトが飛び込んできた。
「おらぁっ!」
バットを振る。
ゴッ。
コボルトが吹き飛んだ。
「ぎゃん!」
後方へ転がる。
その瞬間――
向こう側が見えた。
広い通路。
そこに立つコボルトが四体。
全員、
手に石を持っている。
まずい。
「下がって!」
腕を掴まれる。
俺は岩陰へ引き込まれた。
次の瞬間。
ガガガガッ!
石が壁へ叩き付けられる。
「危ねぇ……」
「今日のコボルト、
慎重すぎるわね」
生徒会長は少し不満そうだ。
確かに。
向こうもこちらを待っている。
「まあいいわ」
生徒会長は前へ出た。
「私が暴れるから
見てなさい」
足手まとい扱いか?
少し腹が立つ。
「護衛はいらないってか?」
「岩を動かしてる間、
守ってくれたじゃない」
「大して働いてねぇだろ」
「ごめんね」
生徒会長は笑う。
「次はもっと働いてもらうわ」
そう言って。
左手にビーム・ポケットナイフを三本構える。
右手で、
さっき死んだコボルトを持ち上げた。
「おいおい……」
死体を盾にする気かよ。
生徒会長は前へ出る。
コボルト達が投石を躊躇った。
その隙。
生徒会長は死体を投げつける。
「まったく」
一気に距離を詰める。
「小賢しい」
閃光。
コボルトの腕が飛ぶ。
「アナタも」
二体目。
「アナタも」
三体目。
「アナタも」
四体目。
最後の一体が逃げ出す。
だが。
「私のために」
足が飛んだ。
コボルトが転ぶ。
生徒会長は歩み寄る。
返り血を浴びながら。
そして。
優しく微笑んだ。
「死になさい」
圧倒的だった。
恐ろしい。
なのに――
美しい。
俺は、
少し見惚れていた。
「さあ」
生徒会長が振り返る。
「トドメをお願いね」
「お、おう」
俺は我に返る。
転がるコボルト達の前へ立った。
目が合う。
「……なむさん」
バットを振る。
一体。
二体。
三体。
そして――
四体目。
その瞬間。
体の奥で、
何かが弾けた。
「おおっ!?」
力が溢れる。
体が軽い。
視界が鮮明になる。
「なんだこれ!?」
「ふふふ」
生徒会長が笑う。
「それがレベルアップよ」
「すげぇ……」
拳を握る。
今までより強い。
それが分かる。
「でしょ?」
珍しく。
生徒会長も嬉しそうだった。
そして。
手を差し出す。
「ほら」
「なんだよ」
「ハイタッチ」
「……は?」
「頑張ったじゃない」
柄じゃない。
そう思った。
でも――
生徒会長が嬉しそうだから。
悪くないかもしれない。
俺は手を上げる。
パシン。
乾いた音が響いた。
その瞬間。
視界の端で何かが動いた。
最後のコボルトだ。
足を切られていたはずなのに。
石を握っている。
まずい。
「危ない!」
俺は反射的に動いた。
生徒会長を突き飛ばす。
ゴッ。
嫌な音がした。
視界が揺れる。
膝から力が抜けた。
地面が近づく。
最後に見えたのは。
驚いた顔の生徒会長だった。
そして――
俺の意識は闇へ沈んだ。




