第九話:相棒
誰かに背負われている。
暖かい。
懐かしい。
「またケガしちゃって」
女の人の声がした。
「あいつらがエビを乱獲するからだ」
「もう。
それでケガしちゃ元も子もないわ」
ああ。
この声。
知っている。
懐かしい。
「そのエビで、
タンポポスパゲッティ作ってあげるね」
そうだ。
あのタンポポスパゲッティ。
カナコおばさんの得意料理。
野草のタンポポと、
川エビのすり身を使った特別な味だ。
俺もヒロコも大好きだった。
「うん」
俺は小さく頷く。
「カナコおばさん……」
俺はきっと。
カナコおばさんに、
母さんを重ねていたんだろう。
――
目を開ける。
視界が揺れていた。
誰かに背負われている。
そして気付く。
「……おわ」
生徒会長だった。
「お。
起きたみたいね」
当たり前みたいな顔で、
俺を背負って歩いている。
「おい。
降ろせ」
俺は暴れる。
だが、
「ダーメ」
生徒会長は楽しそうに笑った。
「アナタ、
結構なダメージだったんだから」
そうだ。
俺はコボルトの投石を食らった。
頭に直撃したはずだ。
だが。
痛みがない。
頭に手を当てる。
血も出ていない。
「何をした?」
「ポーションを使ったの」
「ぽーしょん?」
「ヒットポイント回復薬」
「何言ってるか分からん」
生徒会長は少し考えた。
「ケガを治す薬よ」
なるほど。
便利なもんだ。
そして。
高そうだ。
「悪いな」
俺が言うと、
生徒会長は首を振った。
「そんな。
私も油断してたから」
少しだけ視線を逸らす。
「こんな事になって、
申し訳ないと思ってるわ」
「何言ってんだよ」
俺は鼻を鳴らした。
「護衛しただけだろ」
仕事だ。
それだけだ。
生徒会長は少し黙った。
それから。
小さく笑った。
「そうね」
そして。
「ありがとう」
そう言った。
……なんだか調子が狂う。
冷静に考えれば、
あの石だって。
生徒会長なら避けられたかもしれない。
そもそも、
俺より強い。
それなのに。
礼を言われると、
悪い気はしなかった。
しばらく歩く。
そこで俺は、
ずっと気になっていた事を聞いた。
「なあ」
「なに?」
「そのポーションってやつ」
俺は少し迷う。
そして言った。
「病気も治せたりしないのか?」
生徒会長の足が止まった。
俺を見る。
「……ヒロコさんのお母さんの事?」
図星だった。
生徒会長は少し考え込む。
それから。
慎重に言葉を選んだ。
「ケガなら治せるわ」
俺は黙って聞く。
「でも、
手術が必要な病気は……」
首を横に振った。
「無理ね」
そうか。
やっぱりな。
いくら異世界でも。
何でも出来る訳じゃない。
「そっか」
思ったより、
素直に受け入れられた。
生徒会長は再び歩き出す。
「じゃあ」
そして振り返った。
「手術代、
稼がないとね」
「はっ」
俺は笑う。
「こんな失態しても、
まだ雇ってくれるのか?」
生徒会長は即答した。
「もちろん」
まるで当たり前みたいに。
「アナタは私の相棒ですもの」
相棒。
その言葉が妙に胸に残る。
俺は今、
背負われている。
どう考えても格好悪い。
そんな奴に向ける言葉じゃない。
「相棒って言うなら、
降ろしてくれよ」
「あら?」
生徒会長は笑う。
「もっとカナコおばさんだと思って、
甘えてくれても良いのに」
……
「なんだぁ?
テメェ」
俺は睨みつけた。
生徒会長は楽しそうだ。
「寝言で言ってたわよ」
顔が熱くなる。
「おい!
降ろせ!
この野郎!」
俺は暴れる。
「はいはい」
生徒会長は笑いながら、
ようやく俺を降ろした。
「で?」
俺は咳払いする。
「次は何と戦うんだ?」
「んー」
生徒会長は少し考えた。
「今日は帰るわ」
俺のせいか。
そう思ったのが顔に出ていたらしい。
生徒会長が苦笑した。
「そんな顔しないで」
「アナタ、
ちゃんとレベルアップしたでしょ?」
それは確かだ。
「あれが今日の目的だったんだから」
そう言われると。
少しだけ気が楽になった。
「ほら」
生徒会長が前を指差す。
「出口よ」
気付けば。
俺達は、
最初に入った通路の近くまで戻っていた。
◆国有地・河川敷
地上へ出る。
夕方の空気が心地良い。
生徒会長はタクシーを呼ぶため、
スマホを操作していた。
そして。
何気ない調子で言う。
「ねえ」
「なんだ?」
「またデートしない?」
「デッ……!?」
思わず変な声が出た。
デート?
ヒロコが言ってた、
レンタル彼氏とかいう奴か?
「不死久保駅で」
……ああ。
異世界道具屋か。
今回の失態を考えれば、
防具の強化だろう。
「ヘルメットだな」
俺は真顔で言った。
生徒会長は首を傾げる。
「うーん」
少し考えてから。
「私、
肉ウドンが食べたいんだけど」
……
デートじゃねぇか。
しかも目的が肉ウドンだ。
なんなんだよ。
この雇い主様は。




