第五話:主道
「大変よく出来ました」
生徒会長は、
俺が倒したゴブリンの死体を見ながら言った。
まるで子供を褒めるみたいな口調だ。
……少し気分が悪い。
「はっ。
これでアンタの前を歩いていいんだよな?」
試験は突破したはずだ。
文句は言わせねぇ。
「そうねぇ……」
生徒会長は腕を組み、
わざとらしく考え込む。
「殺しきってないのに勝ち誇ってたのは減点かしら」
図星だった。
ゴブリンを吹き飛ばした時、
俺は少し浮かれていた。
勝ったと思った。
でも、これは喧嘩じゃない。
殺し合いだ。
「ちっ……反省するよ」
俺が素直に言うと、
生徒会長は満足そうに笑った。
「よろしい」
その笑顔が、
妙に教師っぽくてムカつく。
「反省できたなら、
先へ進みましょう」
生徒会長はその場から動かない。
どうやら、
本当に俺を先頭にするつもりらしい。
俺は鼻を鳴らし、
前を歩き出した。
◆ダンジョン内部・行き止まり
それから10分ほど進んだ頃。
俺たちは行き止まりへ突き当たった。
「おい。
道がねぇぞ」
目の前には岩壁しかない。
俺が振り返ると、
生徒会長は平然としていた。
「ええ。
こういう細い横道――支道はここまで、ね」
「支道?」
「ここから先は主道に繋がるわ」
「主道だぁ?」
生徒会長は頷く。
「軍が管理してる正式ルートよ。
補給車や巡回部隊が通る道ね」
軍。
その単語だけで、
空気が変わった気がした。
「おいおい……
軍がいる場所に行くのかよ」
「今日は日曜日だから、
そこまで人は多くないわ」
生徒会長は腕時計を見る。
「巡回はあるけど、
時間はちゃんと避けてるから安心しなさい」
……本当に何者なんだ、
こいつ。
生徒会長は俺の腰に繋いでいたロープを外す。
それを器用に輪へ変え、
頭上へ放り投げた。
カシャン。
ロープの輪が、
突き出た岩へ引っかかる。
「さあ、登って」
雇い主の命令だ。
「へいへい」
俺はロープを掴み、
先に登る。
上へ出ると、
そこには巨大な岩があった。
隙間はわずか。
ゴブリンなら通れそうな程度だ。
生徒会長が後から登ってくる。
「この岩の向こうが主道よ」
そして――
大岩へ手を掛けた。
次の瞬間。
ゴゴゴゴ……。
大岩が、まるで発泡スチロールみたいに動いた。
「どんな怪力だよ……」
生徒会長は汗一つかいていない。
「ステータス差ってやつね」
ステータス。
ゴブリンを殺せば上がる力。
……こいつ、
今までどれだけ殺してきたんだ?
少しだけ、
背筋が寒くなった。
「ほら」
生徒会長が俺を見る。
「前を歩くんでしょ?」
挑発するような笑みだった。
「ちっ」
俺は隙間を抜け、
主道へ出る。
「……おいおい」
思わず声が漏れた。
そこは、
今までの洞窟とは全く違っていた。
地面は舗装されている。
壁は綺麗に削られ、
ところどころに照明と
それに繋がる配線まであった。
これはもう洞窟というより――
地下トンネルだ。
「随分文明的だな」
生徒会長は地図を広げながら言う。
「まあ……軍用車も通るからね」
その姿だけ見ると、
遠足の計画でも立ててるみたいだ。
だが、
ここはダンジョンだ。
気を抜けば、
人が死ぬ場所。
「さあ――」
生徒会長は地図を閉じる。
「第二階層へ行きましょう」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥が、
じわりと冷えていく。
誰かに背中を撫でられたみたいな、
嫌な感覚だ。
――まだ、俺は……
入口にも立っていなかったのかもしれない。




