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【日給5万】番長の俺、生徒会長に雇われて異世界ダンジョンへ行くことになった  作者: 竹屋 兼衛門


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第四話:初陣

日曜日。


俺は再び、

河川敷の祠の前に立っていた。


――また人を殺しに来た。


そう考えると、

自分でも少し笑えてくる。


「よっしゃ。やってやるぜ」


俺は両手で自分の頬を叩いた。


パンッ、と乾いた音が鳴る。


「へぇ。やる気充分じゃない」


生徒会長が楽しそうに笑う。


「金が必要だからな」


ヒロコの母――カナコおばさん。


あの細くなった腕を思い出す。


……やるしかねぇ。


「ちょっと待って」


生徒会長はカバンを開き、

中から黒い安全靴を取り出した。


「これがアナタの新しい靴よ」


不死久保駅の異世界道具屋で注文していたやつだ。


俺は受け取り、

その場で履いてみる。


「おおっ」


思わず声が漏れた。


「なんだこれ。

 体が軽いぞ」


軽く跳んでみる。


着地の衝撃が、

ほとんど足に来ない。


「靴底が衝撃吸収仕様なの」


生徒会長は得意げに言う。


「蹴りを使うなら、

 爪先を当てるといいわ」


確かに、

靴底以外はかなり硬い。


これで蹴れば、

相当効くだろう。


「じゃ、行きましょうか」


生徒会長が祠を横へ動かす。


暗い穴が口を開いた。


「おうよ」


俺たちは再び、

ダンジョンへ足を踏み入れた。


◆ダンジョン内部


薄暗い通路。


岩だらけの地面。


ランタンの明かりだけが、

俺たちを照らしている。


だが前回と違って、

足元はかなり安定していた。


靴のおかげだ。


歩きやすい。


いや――


動きやすい。


「……って、おい」


俺は眉をひそめた。


「なんでアンタが前歩いてんだよ」


生徒会長が先頭。


その後ろを、

俺が付いていく形になっていた。


「そりゃあ、

 私の方が慣れてるから?」


少し首を傾げながら、

生徒会長が答える。


「俺の仕事は護衛だろうが。

 前を歩かせろ」


「あら。仕事熱心ね」


生徒会長はくすっと笑った。


「でも却下。

 私が前の方が索敵しやすいのよ」


「女を肉の盾にする趣味はねぇよ」


「嫌ねぇ。

 そんなイキっちゃって」


生徒会長は肩をすくめる。


それから、

カバンの中を探り始めた。


「じゃあ、こうしましょうか」


取り出したのはロープだった。


「これをベルトに結んで。

 離れないようにするの」


「まあ、

 それで前歩けるならいいけどよ」


俺はロープを腰に結ぶ。


その姿を見て、

生徒会長が満足そうに頷いた。


「なんだか――」


「ん?」


「犬の散歩みたいね」


「誰が犬だ!」


思わず怒鳴る。


生徒会長はケラケラ笑っていた。


……ほんと、

調子狂う女だ。


◆ダンジョン内部・深部


それから二十分ほど進んだ頃。


不意に、

腰のロープが引っ張られた。


「……どうした?」


振り返る。


生徒会長は真剣な顔になっていた。


「曲がり角の先。

 何かいるわ」


「ゴブリンか?」


俺はバットを握り直す。


生徒会長は耳を澄ませる。


「足音的に、

 そのくらいのサイズね」


それから、

俺を見る。


「ねぇ。

 アナタ一人でやってみない?」


「は?」


思わず聞き返した。


「俺は護衛だろ」


生徒会長は少し考えてから、


「積極的防御?」


とか意味分からん事を言い出した。


「なんだそりゃ」


「つまり、

 危険を先に潰すってことよ」


なるほど。


……いや、

なるほどじゃねぇ。


「番長君の実力、

 ちゃんと確認しておきたいのよね」


生徒会長が微笑む。


「本当に前を歩かせて大丈夫なのか」


――挑発か。


「ほう。

 頼りないってか?」


睨み返す。


「ふふふ」


生徒会長は笑った。


「装備の効果も、

 気になってるんじゃない?」


……確かに。


ハチマキで力が湧いた。


この靴だって、

ただ歩きやすいだけじゃないはずだ。


「……わかった。

 やってやるよ」


日給五万。


それだけ貰ってるんだ。


雇い主の期待くらい、

超えてみせる。


俺はランタンの光を絞り、

一人で前へ進んだ。


静かだ。


相手の足音だけが、

近づいてくる。


ペタ。


ペタ。


だが――


俺の足音は、

ほとんど鳴らない。


(すげぇな、この靴……)


まるで、

地面の上を滑ってるみたいだった。


俺は曲がり角の手前で待つ。


息を潜める。


そして――


来た。


小柄な影。


ゴブリン。


「っ!」


俺は飛び出した。


バットを振る。


鈍い音。


「ぎゃっ!」


当たった。


だが浅い。


ゴブリンは倒れず、

そのまま俺に飛びかかってくる。


速い。


だが――


見える。


俺は左へ動きながら、

左手でゴブリンの体を逸らした。


軽い。


まるで、

体が俺の思い通りに動く。


前の俺じゃ、

こんな動き絶対できなかった。


気づけば、

俺はゴブリンの背後を取っていた。


「よし――!」


振り向くより先に、

俺はバットを振り抜く。


「ぐぎっ!」


ゴブリンの体は吹き飛び、

壁へ叩きつけられ……倒れた。


勝った。


胸の奥が熱くなる。


こんな感覚、知ってる。


喧嘩で勝ったときの、あの――


高揚感。


その時。


「とどめを刺しなさい」


後ろから、

生徒会長の冷たい声が飛ぶ。


そうだ、これは殺し合いだ。


ゴブリンは、まだ息はある。


俺は転がるゴブリンを見下ろした。


まだ動いている。


苦しそうに、

呼吸している。


「……悪く思うなよ」


一気に、

頭の熱が冷める。


嫌な汗が背中を伝った。


そして、俺はバットを握り直した。


「成仏しろ」


振り下ろす。


鈍い音が、

ダンジョンに響いた。


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