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【日給5万】番長の俺、生徒会長に雇われて異世界ダンジョンへ行くことになった  作者: 竹屋 兼衛門


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第三話:お見舞い

月曜日。


俺は封筒に入った五万円を制服の内ポケットに入れ、

ヒロコと共に百足台総合病院へ向かっていた。


たった一日。


それだけで手に入った金だ。


……まともじゃない。


でも。


ヒロコの母――カナコおばさんのためなら、

まともかどうかなんて関係なかった。


◆放課後:百足台総合病院


病室の前で、

俺は一度だけ深呼吸した。


それから、ノックする。


「失礼しまーす」


「どうぞ」


聞き慣れた声だった。


病室に入ると、

カナコおばさんが、

ベッドの上からこちらを見た。


「よっ、カナコおばさん。

 調子はどうだい?」


「ふふふ。良かったら、

 とっくに退院してるって」


軽口を叩きながら、

カナコおばさんは腕を持ち上げる。


力こぶを作ろうとして――


途中で苦笑した。


「ほら。

 こんなに細くなっちゃった」


胸が痛くなる。


昔のカナコおばさんは、

もっとずっと大きかった。


重い荷物を軽々持って、

笑いながら働いて、

ヒロコを育てて――


俺まで飯に混ぜてくれた。


その腕が、

今は別人みたいに細い。


「おいおい。

 相変わらず美人のまんまだぜ」


「まあ」


カナコおばさんは、

少し驚いたように目を丸くした。


「ちょっと!

 お母さんナンパしないでよ!」


ヒロコが呆れた声を出す。


「ばっか。

 そんなんじゃねーよ」


俺は視線を逸らした。


早くに母親を亡くした俺にとって、

カナコおばさんは特別だった。


世話になった。


怒られた。


飯を食わせてもらった。


……本当の母親みたいに。


「早く治して、

 またタンポポスパゲッティ作ってくれよ」


カナコおばさんの得意料理。


河川敷で摘んだタンポポを使って、

配給のクソまずいスパゲッティを、

信じられないくらいうまくする。


どうやってたのか、

未だによく分からない。


でも好きだった。


ヒロコと三人で、

よく一緒に食べた。


「もう。

 私が作ってあげるわよ」


ヒロコがむっとした顔をする。


違う。


そうじゃない。


三人で食いたいんだ。


「お前には十年早いぜ」


「そんなことないんだから!」


ヒロコは頬を膨らませる。


カナコおばさんが、

くすっと笑った。


「そうねぇ。

 レシピ、教えてあげないとね」


――ああ。


そういうことなのか。


レシピを残すってことは。


もう、

自分では作れなくなるかもしれないってことなんだろうか。


――もう、

二度と三人で食べられないのかもしれない。


そんな考えが、

頭から離れなかった。


胸の奥が重くなる。


病室の白さが、

妙に冷たく感じた。


「……じゃ、俺はそろそろ行くわ」


「ええ? もう?」


カナコおばさんが少し寂しそうな顔をする。


それ以上、

その顔を見ていられなかった。


「元気そうな顔見れたしな」


俺は背を向け、

軽く手を振る。


病室を出る直前。


「また来るぜ」


そう言うのが精一杯だった。


ドアが閉まる直前まで、

俺は振り返れなかった。



◆百足台総合病院前


病院の外は、

夕焼けで赤く染まっていた。


俺は入口近くのベンチに座り、

ぼんやり空を見上げる。


しばらくして、

ヒロコが出てきた。


俺の顔を見ると


「あの……さ」


ヒロコは少し迷うように視線を泳がせてから、

言いづらそうに口を開いた。


「お金、どうしたの?」


金の出どころを聴いてきた。


まあ、そうだよな。


「いいバイトが見つかったんだ」


ヒロコを安心させるように、

俺はわざと笑ってみせた。


「でも、五万円って……」


それでもヒロコは不安そうに眉を寄せた。


「危なくないの?」


そりゃ危ない。


ゴブリンを殺した。


首が飛んだ。


頭がおかしい生徒会長に、

喉元を突かれた。


今さら思い返しても、

まともな仕事じゃなかった。


でも――


「へーきへーき」


俺は笑ってみせる。


「生徒会長のお供をするだけの、

 簡単な仕事さ」


ヒロコは俺の答えを聴くと

なんだか複雑な顔をする。


なんだ?ウソ臭すぎたか?


「……もしかして、レンタル彼氏?」


……


「は?」


思わず変な声が出た。


レンタル?


彼氏?


「ち、ちげーって!

 俺は硬派な番長だぞ!」


ヒロコが吹き出す。


「でも結構男前だし」


顔が熱くなる。


「冗談よせ。

 そもそも、そんなナンパな事しねーよ」


「でもお母さんナンパしてたじゃない」


「はっ。

 美人を美人って言っただけだぜ」


「……天然ジゴロ」


「なんか言ったか?」


睨む。


「べーつに」


ヒロコは笑いながら歩き出した。


俺もその後を追う。


夕日が沈んでいく。


長く伸びた影が、

道路の上を並んでいた。


カナコおばさんに、

残された時間はどれくらいなんだろう。


考えたくもない。


でも、

考えないわけにもいかない。


焦りが胸の奥を掻きむしる。


気づけば、

俺は拳を強く握りしめていた。


「……早く、手術代貯めような」


俺が言うと、

ヒロコは強く頷いた。


「うん」


その声は、

少しだけ震えていた。


――だから俺は、

またダンジョンへ潜る。

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