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【日給5万】番長の俺、生徒会長に雇われて異世界ダンジョンへ行くことになった  作者: 竹屋 兼衛門


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2/2

第二話:買い物デートは闇市で

ゴブリンを殺して、俺たちはすぐ地上へ戻った。


「今日はここまでよ」


生徒会長が平然と告げたからだ。


「覚悟は見せてもらったわ。

 次は装備を整えましょう」


タクシーに乗り、最寄りの駅へ向かう。


「その格好で電車に乗ってもらうのは、少し心苦しいのだけれど」


「ばっかやろう。これは俺らの学校伝統の喧嘩衣装だろうが」


生徒会長はため息をついた。


「だから周りに迷惑かもしれないって言ってるのよ?」


……言われてみれば、少し心苦しい。


電車に乗るとやはり周囲の目が痛い。


周りの人も距離を取っている。


「私のハッピ、着る?」


「なんの意味があんだよ」


「コスプレの人として目線が暖かくなるかもよ?」


「そっちの方が恥ずかしいだろうが」


「あら?比較する程度に恥ずかしかったの?」


「うっせぇ!揚げ足とんな」


「あーあ、残念。私の匂いのついたハッピを着れるチャンスだったのに」


一瞬考える。


だが思い返すと


「血の匂いしかしねーだろ」


返り血だらけだったじゃねーか。


「ふふふ。一瞬だけ鼻の下が伸びたわね」


「伸びてねーし」


思わず触る俺の姿をケタケタ笑う。


ほんと、とんでもない女だ。


◆国鉄:不死久保駅 周辺


国鉄――ダンジョン災害以後、再国営化された鉄道会社だ。


目的の駅に着く。


この辺りには昔、ダンジョンの穴が現れ――

周囲一帯が半壊したらしい。


そのまま放置された土地に、

いつの間にか人が住みつき、

気づけば一つの町になっていた。


政府も面倒なのか、

今では黙認状態。


表向きは市場、

実態は闇市だ。


雑多な屋台、怪しい露店、

得体の知れない品物を抱えた連中。


まともな場所じゃない。


……けど、嫌いじゃない。


俺も、お袋が生きていた頃、

誕生日に豚肉入りのウドンを食べに来たことがある。


少しだけ、懐かしい場所だ。


「俺もここには来たことあるけどさ。

 こんな所で、お目当ての物なんか売ってるのか?」


「ええ。非合法な品のやり取り、結構してるのよ」


生徒会長は平然と答え、

食い物の露店が並ぶ通りを抜け、

ためらいもなく路地裏へ入っていく。


「おいおい、ずいぶん治安が悪くなったぞ」


壁にもたれた男、

ボロ布みたいな服で眠るオッサン、

何かを睨みつけるガキ。


視線が痛い。


「ふふふ。私の護衛、よろしくね」


生徒会長は楽しそうに笑う。


……俺より強いくせに。


つーか、これじゃ俺がビビってるみたいじゃねぇか。


腹が立つ。


「ここよ」


足を止めた先にあったのは、

妙に堂々とした看板だった。


異世界道具屋


……そのまんまかよ。


「これ、取り締まられねーのか?」


店先には、

俺がさっき殺したゴブリンみたいな奴の頭が、

ホルマリン漬けで飾られていた。


「ああ。それはイミテーション。

 つまり偽物ね」


「偽物屋?

 そんな偽物が役に立つのかよ」


「うふふ。そこは顔パスよ。

 私なら、特別に本物が買えるの」


さすが悪徳弁護士の娘――


と、口に出かけて飲み込む。


悪徳弁護士の娘も、

番長も、

ここでは正義の味方になれる。


……と、すごい顔で言ってたからな。



◆異世界道具屋の中


店に入ると、埃っぽい空気と妙な匂いが鼻についた。


生徒会長は、店長らしきオッサンと慣れた様子で話している。


俺はその間、店内を見回した。


壁には見たこともない刃物。

棚には光る石。

瓶の中には、何かの目玉みたいな物まで浮かんでいる。


奥には、生き物の剥製らしき物も並んでいた。


……これ、全部本物なのか?


いや、この店のことだ。

どうせ全部が偽物なんじゃねぇかな。


「ほら、これ」


振り向くと、生徒会長が細長い布を差し出していた。


「なんだこれ?」


「ハチマキよ」


「……ハチマキ?」


「そう、ハチマキ」


生徒会長は当然のように頷く。


「番長なら、ハチマキを装備してもおかしくないでしょ?」


たしかに。


俺のバンカラ姿では巻いていても違和感はねぇ。


「こんなモンを、わざわざここまで買いに来たのか?」


「まあまあ。そんなこと言わず、装備してみて」


装備って言い方が気になるが……。


まあ、ハチマキなら気合は入りそうだ。


俺は頭に巻いてみた。


その瞬間――


「おおっ!なんだこれは……!」


身体の奥から、力が湧いてくる。


腕が軽い。

足も妙に動きそうだ。


「それがステータス上昇よ」


得意げに言う生徒会長を見ると、

あいつも同じハチマキを巻いていた。


「アンタも同じのを?」


「ええ。アイドルヲタクが装備してても違和感ないでしょ?」


……まあ、なくはない。


「ふふふ。そう、ペアルックよ」


思考が止まった。


顔が熱くなるのが、自分でも分かった。


「は、恥ずかしい言い方するな!

 同じチームの仲間というか、

 絆というか、

 もっと別の言い方があるだろ!」


生徒会長も、なぜか顔を赤くした。


「えっ……そっちの方が恥ずかしくない?」


そうだろうか?


……そうかもしれない。


「まあいいわ。次は武器ね」


咳払いして話を切り替える。


「どんなのが好み?」


武器か……。


どんな物があるのかも分からんが。


「アンタが持ってた、ペンライトみたいなモンか?」


「ええ。あれはビーム・ポケットナイフね」


「ビーム?」


「魔力で発振するのよ」


真顔で返された。


「ペンライトに偽装してるの。

 職務質問されても大丈夫なようにね」


なるほど。


没収されたら困るんだろうしな。


しかし、俺が欲しいのは――


「武器より、靴が欲しいな」


生徒会長が目を瞬かせる。


「靴?なんで?」


「あのダンジョン、足場が悪かったからな。

 それに、アンタを庇うなら

 まず動けねぇと話にならねぇだろ」


俺がそう言うと、

生徒会長は少しだけ目を丸くした。


「……そっか」


小さく呟く。


「あくまで護衛に徹したい、と」


それから少し考え込み、


「分かったわ。

 貴方の意思を尊重して、靴を買いましょう」


そう言って、店長のところへ戻っていく。


俺は靴のサイズを伝えただけだった。


どうやら仕上がるまで少し時間がかかるらしい。


次のダンジョンアタックの日に、

生徒会長が持ってきてくれるという。


こうして、異世界道具屋での買い物は終わった。


◆国鉄:不死久保駅周辺の闇市


異世界道具屋を出ると、

闇市のざわめきがまた耳に戻ってきた。


焼けた油の匂い。

呼び込みの怒鳴り声。

どこかで誰かが値切っている。


生徒会長は袖を整えながら、当然のように言った。


「じゃあ、帰りましょうか?」


「せっかく闇市に来たんだし、何か食っていかねえか?」


俺が言うと、

生徒会長は本気で意外そうな顔をした。


「ここで?」


「おいおい。闇市で食べたことないのかよ?」


生徒会長は、少し気まずそうに視線を逸らす。


「ええ……実は」


「かー。これだからお嬢様は」


わざとらしく肩をすくめてみせる。


……とはいえ、

金持ちならこういう場所で豪遊してても不思議じゃねぇと思っていた。


別の理由でもあるのか?


「うるさいわね。

 だったら食べてあげようじゃない」


むっとした顔で言い返してくる。


「おっ、いいね」


俺はわざと笑ってみせた。


「じゃあ、イナゴの串焼きでも食うか」


「イナゴ?」


生徒会長の顔色が変わる。


「私……虫はちょっと」


……なんて贅沢な金持ちだ。


「おいおい。コオロギ乾パンとか、給食で食ってるだろうが」


「姿がそのままなのはちょっと……その……ダメなの」


言いながら、露店の串焼きから目をそらした。


意外な弱点だな。


ダンジョンでゴブリンの腹を裂いて笑ってた女と、

同一人物とは思えねぇ。


「じゃあ、豪勢に豚肉入りウドンでも食うか」


「ウドン?」


一瞬きょとんとして――


「……そうね。それならいいわ」


言葉とは裏腹に、

生徒会長の顔は分かりやすく明るくなっていた。


◆闇市のウドン屋台


通りの端に出ていた露店で、

俺たちは腰の低い丸椅子に並んで座った。


年季の入った鍋から、

白い湯気がもうもうと立ちのぼっている。


しばらくして、

目の前に豚肉入りのウドンが置かれた。


濃いめのつゆ。

山盛りの麺。

甘辛く煮た豚肉。


湯気だけで腹が鳴りそうだ。


「どうだ?美味そうだろ?」


「ええ。給食よりは、全然おいしそう」


生徒会長は素直に頷き、

箸で麺をつまみ上げた。


そして、そのまま口へ運び――


「あっつ」


慌てて引っ込める。


「がはは。ここは闇市だぜ?

 もっと、こう豪快に食うんだよ」


俺は麺を持ち上げると、


ズゾゾゾッ――と勢いよく啜った。


熱いつゆと一緒に流し込む。


うまい。


やっぱりここの味だ。


「ええ?」


生徒会長が引いた顔をする。


「麺は吸うんだよ。

 そうすると冷めるんだって」


「……本当に?」


「多分な」


「多分なの?」


疑いながらも、

生徒会長は真似して麺を持ち上げる。


そっと口を近づけ、


「……ず、ぞ」


遠慮がちに吸って――


「ごほっ」


盛大にむせた。


「おいおい。ろくに啜れないのかよ」


「しょうがないでしょ!

 やったことないんだから!」


顔を赤くして睨んでくる。


ご立腹らしい。


「まあ、いいさ」


俺は肩をすくめる。


「自分の好きなように、

 ゆっくり食べな」


生徒会長は少し黙ってから、

ふん、と鼻を鳴らした。


「そうね。好きに食べるわ」


それからは、

熱さに警戒しながら少しずつ麺をすすり、

豚肉を食べるたびに機嫌を直していった。


……分かりやすい女だ。


こうして俺たちは、

闇市のうまいウドンを平らげた。


◆国鉄:百足台駅


闇市を離れ、

電車に揺られて戻ってくる頃には、

空はすっかり夕方の色になっていた。


俺たちは学校の最寄り駅、

百足台駅の改札を出る。


見慣れた駅前の景色なのに、

朝とは少し違って見えた。


「今日の冒険、どうだった?」


生徒会長が、

まるで遠足の感想でも聞くみたいに尋ねてくる。


「そりゃ、とんでもねー冒険だったぞ」


ゴブリンを殺して、

闇市を歩いて、

訳の分からん道具屋で買い物して、

お嬢様とウドンを食った。


どこから説明していいか分からねぇ。


「楽しかった?」


「……まあ、買い物はな」


「え~、そっち?」


露骨に不満そうな声を出す。


「ダンジョンじゃ、

 アンタに守られてたようなもんだったしな。

 プライドが激しく傷ついた」


「ふふふ。

 そこはこれから頑張ってもらわないとね」


生徒会長は、

なぜか嬉しそうだった。


俺が悔しがるのが、

そんなに面白いのか。


「でも、闇市じゃ

 そんなアンタの弱い所を見れて楽しかった」


「な、なによ。

 弱い所って」


さっきまで余裕だった顔が、

少しだけ崩れる。


「世間知らずな所」


「はぁ?」


すぐに言い返してきた。


「ダンジョンだって、

 異世界道具屋だって、

 私が知ってたことでしょ?」


「そういうぶっ飛んだ知識じゃなくてな」


俺は指を折って数える。


「イナゴが食えないとか」


「うっ……」


「麺が啜れないとか」


「そ、それは……!」


見る見るうちに顔が赤くなる。


「それは、これから克服するわよ」


「おーおー」


俺はわざと偉そうに頷く。


「そこはこれから、

 頑張ってもらわないとな」


さっきの仕返しだ。


「もう……」


生徒会長は唇を尖らせる。


その顔が少し子供っぽく見えて、

なんだか可笑しかった。


「じゃあ、来週の日曜日にまたお願いね」


「ああ。また日給五万で頼むぜ」


「ええ、頼むわね。番長さん」


そう言って、

生徒会長は楽しそうに笑った。


手を振って去っていく背中を見送りながら、

俺はひとつ息を吐く。


こうして、

俺の冒険の一日目は終わった。


ヒロコの母親の治療費のために始めた冒険は――


思ったより、

ずっと楽しくなりそうだった。

※もう1本、新作も投稿しています。


追放された少女が最悪スキルで国を揺るがすダーク寄りファンタジーです。

『追放された最悪スキル『疫病マスター』の私、色男たちに監視されることになりました』


重めの物語がお好きな方はこちらもぜひ。

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