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勇者です。宿が気持ち良すぎて寝坊しました

時系列をミスったため8話に割り込みします


「ええと、この角を曲がってから……」

「ハヤト、まだ着かないの? もう私、足がパンパンなんだけど」

「俺だって疲れてるんだ。もうちょい我慢してくれよ」


 はじめての冒険、はじめてのロス、はじめてだらけだった今日はもうクタクタだ。

 お金のない俺たちは金貸し商人リーシャから教わった安宿へと向かっていた。

 ちなみに紹介料として100シルバ取られた。

 小遣いレベルだけどお金取るとか。

 まぁ、可愛い顔で「ごめんな、おにーさん。うちも仕事なんや」って言われたら許すしかないよな。


「ハヤトの面食い男……ロリコン」

「ん? なにか言ったか?」

「なにもないわよ!」


 ブツブツと何かつぶやくとか、やっぱり駄精霊は駄精霊なんだな。


「それよりもなんでさっき止めたのよ。私だってお金欲しいのに」

「いやいやいや。お前、利息がトイチなんだぞ。10日で残金の1割とか暴利だろ」

「大丈夫。冒険で稼げば……」

「お前さ、スライムの魔核1つの値段知ってるよな」

「……スライムだけがモンスターじゃないわよ」

「残念だけど、この辺りはスライムばっかだぞ。いたとしてもすぐに他の冒険者の餌食だってさ」


 酒場というのも侮れない。俺みたいな駆け出し冒険者に対していろいろ教えてくれるおっちゃんとかいて便利だ。

 頻繁に通うのもいいかな。


「スライムなんて飽きたわ。ハヤト、もっと別のモンスターが出るところに行きましょ」

「……なぁ、おまえもしかして」

「な、なによ」

「スライム嫌いなのか」

「!?」


 俺が指摘してやるとラピスの顔がみるみる赤くなっていった。

 

「こ、こここ、この私が! ス、スライムごとき、お、恐れるわけ――」

「いや、動揺しすぎだろ」


 どうやらラピスはスライムが苦手らしい。

 はじめて会った時も俺の後ろに隠れようとしてたし、大精霊のクセにみみっちい奴。


「ふ、ふんっ! 勘違いしないで。前は少し、ほんのちょびっとだけ怖かったかもしれないけど、今は違うからね!」

「はいはい」

「馬鹿にしてるでしょ! 今は魔法だって使えるんだから!」


 なるほど、前は魔法が使えなくて怖かったのか。

 にしてもスライムと何があったんだ。

 

 そんなことを思っているとラピスの顔が怖くなってきた。

 これ以上の追及はよそう。


「そういえば、スライムの洞窟ってダンジョンがあってだな」

「あんた、ロスりたいワケ?」

「いえなんでもないです。俺が悪かった。だから雷魔法は使わないで」


 ラピスがロスった後、再び草原でスライム狩をしていた俺はうっかりラピスの逆鱗にふれてしまい魔法で丸焦げにされたのだ。

 まさか、初めてのロスがフレンドリーファイアだなんて……。

 いや、忘れよう。あのビリビリは心の奥にそっとしまっておこう。


「で、まだ宿には着かないの?」

「あーもうすぐだな」


 ウワサをすればなんとやら、お目当ての宿は見つかった。


「『ウサギの小宿』ね……ボロだけど風情があっていいじゃない」


 おいこら、いくら安宿だからってボロだなんて言うなよ。

 たしかに見た目はオンボロだけど、住めば都っていうじゃないか。


「ボ、ボロでごめんなさい……」


 背後からボソッと声が聞こえた。

 振り向くと買い物かごを持った少女が泣きそうな顔でこちらを見ていた。


「あ、ご、ごめんね……この宿の娘かしら?」


 珍しくラピスが謝りながらそういうと少女は「うん、そうだよ」と頷いた。

 

 少女の名はリザ・フェレット。

 この宿の主人の娘らしい。ツヤのある茶髪と元気な笑顔がトレードマークの可愛い子だ。

 年は俺と同じくらいかな。少し親近感が沸きそう。


「お父さん、お客さんだよ」


 リザのおかげでスムーズに宿に入ることができた。

 部屋もちょっと良い部屋を案内してくれたり、実に良い娘だ。

 できれば、ウチの駄精霊とトレードしてほしい。


 そんな風に思っているとラピスの顔がまた怖くなっていた。

 ジョークくらい笑って飛ばしてほしいよ。


「見てみてハヤト! フカフカよこのベッド! すごくフカフカよ! スライムよりもフカフカだわ」

「案外良い宿だなここは……」


 宿の中は見た目ほどオンボロではなかった。

 たしかに床はキシキシいうくらい古いし、柱とかにも傷が多い。

 それでも綺麗に見えるのは掃除が行き届いているからだろう。


 にしてもスライムよりもフカフカって……一体、ラピスはスライムとどんな因縁があるんだ。

 追及はよそう。ラピスも怖いしな。


 ちなみにラピスと俺は同じ部屋だ。

 理由はもちろん、お金がないからだ。


「ハヤト。わたしが可愛いからって夜襲ったら、魔法でロスらせるわよ」

「はいはい」


 こんなヤツに手を出すなんてバ……いや、恐れおおいことはしない。


「そういえば、この宿温泉ってヤツがあるらしいぜ」

「温泉っ!?」


 温泉。俺もウワサにしか聞いたことがないが高級なお風呂らしい。

 入浴するのに金がいるから頻繁には入れないけど今日くらいはいいだろう。


 そうして俺たちは温泉を堪能したのち、フカフカのベッドにダイブした。

 ああ、温泉はよかった。今日の疲れがぶっ飛んだ気がする。

 それにベッドもいい。

 安物だけどメンテナンスが行き届いている。


 にしてもこんな良い宿なのにあのお値段。

 紹介してくれたリーシャに感謝……あ、もう紹介料払ったっけ? 

 でも、100シルバ以上の価値があるな。今度何かサービスしてやろう。

 

 就寝。

 こんなにぐっすり眠ったのは久々だ。

 村にいたころはこんなにぐっすりと眠ることなんてなかった。



 ……。



 …………。



「ふわぁ、良く寝た」


 小鳥のさえずりで目を覚ます。

 なんて良い朝だ。こんな快適な朝を迎えるなんて……実に素晴らしい。


「おい、ラピス。朝だぞ起きろ」


 隣でぐーすかヨダレを垂らしながら眠るラピスを起こし、冒険の支度を始める。


「うう、眠たい。もっと寝てたい」

「ほら、冒険いくぞ。金稼がないとここですら出ないといけなくなるぞ」

「そうね……行くわ」


 ラピスを引き連れて宿の外へ。


「お、リザ。おはよう」

「おあひょう」


 ラピスはまだ眠たそうだ。


「あ、おはようございます。ハヤトさんにラピスさん」


 ホウキを手にしてリザは微笑んだ。

 朝から元気をもらえた気がする。


「昨日と一昨日はよく眠れましたか?」

「ん? 昨日、一昨日?」

「どうかしましたか?」


 なんだ。昨日、一昨日って。


「すごいですね。ハヤトさんにラピスさん。丸2日も寝るなんて、他のお客さんたちも1日寝ますけど、ハヤトさんたちは断トツですね」

「……2日!? 俺たち2日も寝てたのか!」

「あ、はい。なぜか皆さん1日は寝ちゃうんですよ。だから、忙しい冒険者の方があまり泊りにくることがなくて……だから、オンボロなんですよ。あはは」


 そうやってリザは笑った。


 なるほど……この宿が安宿な理由がわかった気がする。

 気持ち良すぎて寝すぎてしまうんだ。

 なんてこった。俺たちみたいな貧乏人に2日なんて貴重だ。

 借金もあるし……。

 あのクソ狸娘め。ハメやがったな!



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