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勇者です。タヌキ娘にダマされました。助けてください


 ギルド公認酒場。

 それは冒険者たちが互いの意見や情報を交わしながらコミュニケーションを行う場所である。

 そこには熟練のジジイから駆け出しの若造まで、ありとあらゆる冒険者が集っている。


「あー、おなかすいたわ。ハヤト、適当に見繕いなさい」

「はいはい」


 俺たちが酒場へ入った瞬間、店の中で響いていた喧噪がピタリと止んだ。

 原因はわかっている。

 

「よう、ドンペリの姉ちゃんじゃねーか!」

「ボーズ! 今日もたんまり食っていくのかい!」


 ここはラピスがドンペリ数本を一晩で飲み干したあの酒場なのだ。


「らっしゃい! ボーズ、なんにしやす!」

「えーと、じゃあ。スライムのおひたしとパンとスープ二人分で」

「ええ、それだけかい!? かー、ボーズ。昨日あれだけ飲み食いしておいて今日はそんだけかい?」

「いや……そんなに金ないし」

「おいおい、金がないからこれぽっちしか頼まない? 何言ってんだ。ここは冒険者の酒場だぜ。今日の疲れを吹き飛ばす最高の場所なんだぜ」


 酒場のおっちゃんが大げさに言うがまんざら嘘でもない。

 ここは冒険者の吹き溜まりなのだ。


 昨日もこの調子で捲し上げられて散財してしまったのだ。


「よ、姉ちゃんはどうだい? 昨日までとは言わねぇがここはグイっと一杯どうだ」

「そうね、じゃあ麦酒を一杯いただこうかしら」

「一杯? それだけかい? 酒ならつまみがいるんじゃねぇか?」

「う”……そうね、じゃあコカトリスの焼き鳥を3本」

「おい、ラピス」

「なによ、いいじゃない。今日あれだけ魔法使わせておいてロスまでしたんだから。これくらい」

「いや、お前俺たちの財布事情わかってんのか」

「わかってるわよ。でも、腹が減っては冒険はできぬって言うじゃない。だから、これは必要経費なのよ」

「必要経費ねぇ……これっきりだぞ。宿もまだ決まっていなんだからな」


 スライムを倒して得られたお金はそんなに多くはない。

 正直、こんなんじゃあ日々生きていくので精いっぱいだ。


「ほら、麦酒一杯だ」

「ありがと……あれ? この麦酒」

「お。姉ちゃん気づいたかい?」

「すごく冷えてておいしい!」


 ラピスがそう言いながらグビグビ飲む。たしかにジョッキはキンキンに冷えてやがる。


「ウチの麦酒は氷の魔法で冷やしているからな。ほら、熱々の焼き鳥だ」

「お、おいしい!」

「うれしいねぇ、こんなにおいしそうに食ってくれるなんて酒場冥利に尽きるぜ。それにしてもボーズは質素だな……。冒険者ならもっとガッツリ食え」

「いや、だから金がないんだよ」

「おいおい、嘘はいかねぇぜ嘘は。昨日あれだけ食って、背中には金ぴかの剣。稼いでる証拠じゃねーか」

「だから、昨日食いすぎて金がないんだってば」

「なるほどなるほど、じゃあ、ちょっと借りるか。なーに、あれだけ散財できるほどの冒険者ならすぐ返せるって。おーい、リーシャ」


 酒場のおっちゃんはそう言ってカウンター席にいた少女を呼び出した。

 俺よりも少し年下であろうその少女は冒険者ギルドで見た顔だった。


「あ、おにーさんやんか。もうかりまっか?」

「なんだ、知り合いだったのか?」

「そや、昨日満額借りてったお得意様や」

「な、満額だと……」


 ん?

 どうして、おっちゃんは俺たちを可哀そうな目で見ているんだ。

 たしかに借金までしていろいろ買ったけど、そんなもんちょっとづつ返せばいいじゃないか。


「おい、ボーズちょっといいか」

「あ、うん」


 そして、なぜだか酒場の裏に連れ出される。

 俺何かしたか?


「ボーズ、お前。契約書はきちんと目を通したのか?」

「ああ、うん」


 ラピスがきちんと目を通したはずだ。

 200万シルバ、返済期限なし。お金があるときに返せばいい。


「いいか、あいつ……リーシャはな。冒険者ギルド御用達の金貸しだ。タヌキ商会っつてな」

「知ってるよ」


 俺も昨日知ったばかりだが彼女の所属しているタヌキ商会はギルドと熱い関係だそうだ。

 だから、もしも借金を踏み倒そうものなら冒険者としても終了。

 冒険者ギルドが一気に取り立て屋になるらしい。

 まぁ、俺は少しづつでも返済するつもりだから関係ないけど。


「200万シルバだぜ。返すアテはあるのか?」

「アテもなにも、期限ないし、これから稼いで少しづつ返済する予定なんだが」

「かー、まいったなコレ」


 どゆこと?

 何がまいったのか。

 返済期限ないし、もし死んでも借金はチャラって聞いたけど。


「お前、ダマされたんだよ」

「は?」

「契約書、目を通してないだろ。返済期限はないけど利息が付くんだ」

「利息?」


 利息なにそれ?

 俺がそう告げるとおっちゃんは懇切丁寧に利息について教えてくれた。


 ざっくりいうとタヌキ商会の契約だと10日経つごとに残金の1割が借金にプラスされるとのことだ。

 200万シルバの1割は20万シルバ。

 今返済すれば利息なしだが、10日後には220万シルバ。さらにその10日後には242万シルバ返済しなければならない。


「それと死んだらチャラって書いてあっても冒険者だと無理やり大聖堂で復活させられて返済を催促されるんだと」


なんだそれは。


「このままだと利息払うだけでお前の人生終わっちまうな」

「な、なんてこった」

「ま……頑張りな。今日の分くらいは俺のおごりにしてやる」


 肩をポンとたたかれる。

 おっちゃんの言葉がやけに優しい。




「話終わったん?」


 テーブルに戻るとラピスは既にできあがっていた。

 麦酒を数杯……いや、見覚えのあるビンが転がっている……まさか、ドンペリ!?


「な、お前! 金無いの知ってるだろ!」

「ぐへへ……ドンペリまだまだ行くわよー」


 ダメだコイツ。完全に酔ってやがる。


「おにーさん、心配はいりまへんよー」

「え? ……おいおい、まさかコイツ」

「200万シルバお借上げありがとございますやね」


 にっこり。リーシャは満面の笑みを浮かべていた。

 そう、このクソ駄精霊は自分の分の200万シルバを借りたのだ。


 おっちゃんは「あちゃあ」と言った顔でバッテンマークを俺に見せる。

 つまり、ドンペリはおごらないぞというサイン。


「そんな心配せんでもええね。しっかり稼いでしっかり返してくれればそれでええんやよ」


 その日の夕食はまったく味がしなかった。

 まだ飲み食いしようとするラピスを引きずりだして、残金を確認する。


 よかった。

 まだ100万シルバ以上残っている。

 この分だけでも返済してやらないと今後がヤバい。


「な、なにするのよ。これは私の金よ!」


 説明しているヒマはない。

 とにかく返済できるだけするのだ。


 昨日買った物もできるかぎり売り払い金を作る。

 

 あの金ぴかの剣も勇者印のマントも売り払い……そして、リーシャに返済した。

 ラピスの分を完全に返済し、俺の分は残り100万シルバといったところか。


 返済時、リーシャは一瞬、悲しい顔を浮かべたがすぐに「今後もよろしゅうな」と笑顔で受け取った。


 手持ちに残した少しのお金で宿をとり、今日はそのままお開きとした。


 借金の残額105万シルバ。

 手持ちのお金2万シルバ。


 これからも頑張らねば。

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