勇者です。はしゃぎすぎてウチの駄精霊がロスったみたいです
冒険者はスライムに始まりスライムに終わる。
そんなことわざがあるほどに冒険者とスライムは切っても切れない関係がある。
はじまりの街こと『リーンの街』から少し離れた草原で俺たちはスライムと対峙していた。
「ラピス、そっちにいったぞ。魔法頼む!」
「はいはい、『さんだー』」
なんともやる気のなさそうな声だが、二日酔いとギルドであったいざこざのせいだろう。
まぁ、それでも魔法使いがいるのといないのではモンスターとの戦いも随分ラクだ。
ラピスの魔法で3匹ほどいたスライムはすべて丸焦げ。
なんとも簡単。冒険者がこんなに楽だなんて思ってもみなかった。
昔、俺の村に来ていた冒険者はスライムは強いから気をつけろなんてよく言ってたけど大したことなかった。
あれ、俺って案外冒険者に向いている? 『農民』だけど。
ま、なにはともあれ仕事は順調だ。
「ラピスー、魔核取るの手伝ってくれよ」
「そんな雑用ハヤトがやりなさいよ。私はもう疲れたわ」
ラピスの魔法に頼ってたのも事実だからな。少しばかりは俺も働くか。
丸焦げのスライムから魔核を取り出す。
魔核とはモンスターの核である。
詳しいことは俺もよく知らないがこの魔核によってモンスターは動いているらしい。大きければ大きいほど強いモンスターとなり、形や色によってモンスターの属性、特性が決まる。
そして、これはもちろん売れる。
冒険者はモンスターを倒してモンスターから採れた魔核を売って生活する。
収入源は他にもギルドのクエストという手段もあるが一番実入りが大きいのはこの魔核狩りだ。
といっても俺たちのような駆け出しの冒険者なら危険を冒してモンスターを倒すよりもギルドの仕事を請けた方が安全で稼げるのだが。
「よしっスライムの魔核がこれで10個」
「集まった? もう疲れたから帰りたいわ」
「ラピス。俺たちの手持ちいくらか知ってるよな。これっぽっちじゃ晩飯もロクロク食べれないぞ。もちろん、『ドンペリ』なんて天上の飲み物だ」
「う”、たしかに……じゃあ、とっとと稼ぐわよ!」
「はいはい」
「それとハヤト!」
「うい?」
「あんた、さっきから雑用ばっかでスライムと全然戦ってないじゃない! ま、私の魔法があればスライムくらい一撃だけどね」
へへーんと鼻高なラピス。
残念なことにラピスの言う魔法『サンダー』は冒険者ジョブ『魔法使い』のおかげで覚えることのできた魔法だ。
断じてラピスの力ではない。
「へいへい、『農民』の俺に働けと」
「『農民』だけど勇者よあんたは。背中の剣は何のために買ったのよ! 使わないなら売って路銀にするわ!」
「わぁったよ」
まだ一度も使われていない金の剣を取り出す。
ラピスの言うとおり使わないなら売った方がいいよな。
「さて、スライムはどこかな」
「ようやくやる気になったのね」
ここいらは初心者御用達の草原で俺たち以外にもスライム狩りしている奴らの姿がある。
……もう少し奥に行ったほうがいいかもな。
「こっち行こうぜ」
ラピスを引き連れて草原の奥の方へ向かう。
草原にはスライムしか出ないと聞いている。
この調子なら奥へ行っても全然問題ないだろう。
「ハヤト!」
「お、さっそくか!」
少しばかり奥へ向かうとまんまると太ったスライムが現れる。その数は5。
「よし、初陣だ!」
と勇んでみるが俺にとってスライムなんて台所のゴキブリ同然だ。
なにせ、うちの村に大量発生するんだからな。
「えい、えいや!」
はじめて振るう剣は重く、思うように振れないがスライムはバターのようにすんなり切れていく。
やっぱり高級品の切れ味は一味違うな。
あっという間にスライム3匹を屠った。俺ってやっぱ天才?
「さんだー!!」
気の抜けたような声と共に電気ショックが炸裂した。
モロに直撃を食らった2匹のスライムはその場で機能停止。
おお、魔法は便利だな。
『農民』でも覚えられるならぜひ、覚えたい。
「ふぅ、こんなもんね」
そういって汗をぬぐうラピス。
二日酔いがまだまだ抜けてないのか。
そんな風に気を抜いていると突然、ラピスが叫んだ。
「ハヤト、おかわりよ!」
「おぅ!」
またまたスライムが飛び出してくる。
今度はひい、ふぅ、みぃ……あら10匹もいる。
「見せ場だオラァ! 農民魂みせつけてやるぜ!」
金の剣を振るってスライムを倒す。
なかなかにしんどい作業だが、スライム自体は強くない。
残り6匹。
「ラピス、魔法を!」
「さん――」
バタンッ。
呪文を唱えかけてラピスが倒れた。
「ラピスッ!!」
倒れたラピスにスライムが群がっていく。
「クソッ、どけよスライムごときが!」
「ハ、ハヤト……」
「ラピスッ! いま、今助けてやるからな!」
「近づかないで!」
え。
なんでそんな瞳をしているんだ。
遠いところを見つめ、まるでこれから消えてしまうようなそんな瞳。
「ハヤト、私が……たら、これを……これを大聖堂のシトリに……お願い……」
ポトッ。
俺の前に小さな巾着袋が投げ込まれた。中身はわからないけど、重い。ラピスの大事な物でも詰まっているのだろうか。
でも、言いたいことはわかった。
「あ、あきらめるんじゃねぇええ!」
金の剣を振るいながらスライムたちへ向かう。
数が多い。
間に合わない。
なのに……。
「なんで、なんで笑ってんだよ」
ラピスは親指を立てながらスライムへと呑み込まれていった。
「ラピス……」
こんなはずじゃなかった。
俺が軽率だった。
「……」
目の前が真っ暗になった。
***
残りのスライムを八つ当たり気味に倒した後。
俺はラピスの遺言通り大聖堂へと向かった。
シトリ様を祭っている大聖堂にコレを……ラピスの遺品を収めるために。
途中、街ですれ違った冒険者たちが俺を指さして笑っていた。
笑うんじゃねぇ。
あいつらは俺とラピスが二人で冒険に出て、帰ってきたのが俺一人だったから笑ってんだ。
悔しい。俺が『農民』なのも勇者になれなかったのも悔しい。
もっと慎重に行動すればよかったんだ。
「いらっしゃいませ、大聖堂へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」
大聖堂では綺麗なシスターが出迎えてくれた。
いつもならテンションが上がるところだが、今はそんな気分じゃない。
「コレをシトリ様に……」
「はい。どなた様でしょうか」
「ラピス……です」
「ラピス様ですね。では、聖女様をお呼び致しますので、こちら24番の部屋でお待ちください」
「はい……」
シスターは朗らかにラピスの遺品を受け取ると俺を部屋に案内した。
部屋というわりには狭く中にはベッドのようなものが一つ置かれているだけだった。
大聖堂は初めてだったのでこれでラピスの遺言が果たされるのか少し不安だ。
気を揉んでいると聖女様(?)が部屋に入ってきた。
綺麗な人だった。
案内してくれたシスターも美人だったがこっちの聖女様は段違いだ。
流れるような白い髪に蒼い瞳。
ラピスのことがなければお近づきになりたいタイプの人だ。
「冒険者様。これからラピス様にお祈りをいたします」
「はい」
お祈りか。
聖女様がベッドに向かって祈り始めたので手を合わせて目をつむる。
あいつとは短い付き合いだった。
出会ってほんの2日。あいつとの時間は濃密だった。
あいつのためなら俺にできることがしたい。
そう思えるほどだ。
もうあいつはいないけど。
あいつのために魔王倒してみるのもいいかもしれない。
「へぇ、そんなこと思ってたのね」
「は?」
ふいに目を開けるとベッドの上にラピスがいた。
どゆこと?
「では、復活料はたしかに受け取りいたしました。それでは良い冒険を」
「はぁ?」
聖女様は飛び切りの笑みをその顔に浮かべるとすっかり軽くなった巾着袋を俺に返してきた。
そして、ペコリとお辞儀をしてから部屋を後にした。
ちょちょちょ、待ってくれ。
いったい何が起きたんだ!
誰か説明を。プリーズ!
「ぷぷ……何慌ててんのよ。ちょっとロスっただけじゃない」
「は? ロス?」
ポカンとする俺にラピスはロスについて教えてくれた。
ギルドに登録した冒険者はモンスターに倒されても大聖堂で復活できるらしい。
あー登録する際に大聖堂使用料みたいな金とられたのはそーゆーわけね。
少し納得した。
ちなみに大聖堂を利用する料金と復活する料金が二重にかかるらしく。
ラピスが俺に手渡した巾着袋には復活料が入っていた。
やけに重いと思ったらお金が入ってたわけだ。
「ぷぷっ。あんたのことだから大聖堂のことも知らないと思ったのよ」
「ってことはテメー、ダマしたな!」
「ダマされる方が悪いのよ。ギルドのお姉さんがちょっと可愛いからって色目使ってるからそうなるのよ」
「だからってこれはやりすぎだっつうの! ロスくらい説明してくれよ」
「はいはい。でも……あんたの本音が聞けて少しうれしかったわよ」
「は? 今、なんかつったか?」
「何も言ってないわよ。さぁ、今日はもう夕方でしょ。魔核換金して明日に備えるわよ!」
なんだか、力が抜けた。
もう起こる気にならない。
ラピスの言うように今日はおとなしくして明日に備えよう。
本日の収穫
――――――――
スライムの魔核 × 14
「ぞわわ」
大聖堂を出ようとしたところ背後から悪寒がした。
「ハヤト、なにやってんのよ。早くいくわよ」
「あ、ああ」
その時は初めての冒険によるただの疲れかと思っていた。
けれども、この悪寒がまさかあんなことにつながるなんてこの時の俺には知る由もなかった。
「ああ……すごくカッコいい人」
その呟きも大聖堂から離れていく俺には到底届かなかった。




