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勇者です。冒険者ジョブはユニークだそうです

「い、いらっしゃいませー」


 顔を引きつらせながらもギルドの受付嬢は笑みを浮かべていた。

 借りたお金で散財した俺たちはなけなしの5万シルバを握りしめて冒険者ギルドへとやってきていた。


「ご、ご登録でしょうか?」


 もちろんだ。

 今日は冒険者登録するために来たのだ。


「ああ」

「は、はい……」


 顔を引きつらせながらも接客する。

 さすがはプロ。どんな時でも笑顔で接客するなんて俺にはできないな。

 美人なのもグット。俺の好感度はうなぎのぼりだぜ。


「あのぅ、つかぬことをお伺いしてもよろしいですか?」

「なんだ?」

「後ろの方も登録いたしますか」

「ああ、コレ(・・)ね。コレにも頼む」

「か、かしこまりました」


 そう言ってお姉さんは何かの紙を取り出した。

 どうやら、後ろのアレ(・・)には必要以上に触れることはしないらしい。

 賢明だな。


「でしたら、コチラの用紙に必要事項をご記入ください」

「わかった……おい、ラピス」

「ぴぎゃっ!」

「仕事だ」


 腹を軽くつつくと床に臥せっていたラピスがビタンッとまな板の上の魚のように動いた。

 そう、ラピスはやってはならないことをしたのだ。


 ドンペリとかいうクソ高い酒を数本飲み干し、一夜にして60万シルバ以上散財したのだ。

 いくら、大精霊だからといってやっていいことと悪いことがあるのだ。


「ゆ、勇者のクセに私をいぢめるなんて……ふ、ふけぇ……ゲフッ」

「だったら二日酔いくらいどうにかしろよ駄精霊様」

「お、覚えておきなさいよ……この二日酔いが治ったらあんたなんか……」

「はいはい。それよりも、この用紙に目を通して内容書いてくれよ」

「なんでこの私が……」

「ん、何か言ったか? 何か言いたいならドンペリ代払ってからにしてくれよ」

「く……」


 ラピスもドンペリ代の前ではグゥの音も出ないらしい。

 これで当分はこの駄精霊様も素直になるだろう。


 二日酔いの頭を押さえながらラピスが冒険者登録用紙を書き終えたのでそれをお姉さんに提出する。

 お姉さんはずっと俺たちのやり取りをみていたのかドン引きしていた。


「それでは登録してきますので少しお待ちください」


 今日は昨日のように割引はなくガッポリお金を取られた。

 俺とラピスの登録代で約4万シルバ吹き飛んだ。

 これで残りは1万シルバとちょっと。


 昨日は200万シルバもあったのに……。

 ってかこれから生活しながら200万シルバ返済しないといけない。

 こんなはずじゃなかったのにな。


「ほら、ラピス。水だ」

「ん。ありがと……気が利くわね」

「50シルバ追加な」

「ちょっと、金取るの!?」

「世の中タダより高いもんなんてない。そもそも200万シルバも借りたのは俺だ。お前が使った分はきっかり稼いでもらうからな」


 もともとラピスを冒険者登録するつもりはなかったのだが、あれだけ散財されたのだ。

 働いて返してもらうしかない。


「うう、わかったわよ……でも、だからといってあなたが私の勇者であることには間違いないんだからね!」


 そう言われてもな。

 こいつのために魔王なんか倒したくない。


「ハヤト様にラピス様。これから説明を始めますのでコチラに来てください」


「よし、行くわよハヤト」

「お前、二日酔いはどうした」

「そんなもんもう治ったわ。大精霊の力を舐めないでよ」

「さいですか」


 お姉さんの後についていくと妙な部屋に連れてこられた。

 壁が全部真っ白で部屋の真ん中に丸くて大きなガラス玉がポツンと置かれている。


「知見の水晶ね」

「よくお知りで。こちらは冒険者ジョブを選別する水晶です」

「冒険者ジョブ?」


 初心者の俺たちのためにお姉さんが丁寧に説明してくれた。

 冒険者ジョブとは、大雑把に言えば大地の精霊シトリ様から受ける加護をカテゴライズしたものらしい。

 

 大地の精霊シトリ様は世界を作ったどこかの駄精霊とは異なり、世界を作った後も人類にいろいろな祝福を施してくれているらしく。

 冒険者は『冒険の祝福』や『大聖堂の祝福』といった加護を受け取ることができるらしい。


 そのうちの『冒険の祝福』はその人の特性に応じて能力を向上させたり特殊なスキルを覚えたりすることができるらしい。

 さらに、モンスターを倒すことによって受ける加護・祝福を増加させることができるらしい。


「そして、この知見の水晶では大地の精霊シトリ様から冒険者ジョブを授かることができるのです」

「なるほど」


 冒険者ジョブにはいろんな種類があるらしいのだが。

 大体は『騎士』『戦士』『剣士』『軽業師』『盗賊』『魔法使い』『錬金術師』『聖職者』となることが多いらしい。


 これでなんとなくわかったかな。

 とりあえずお姉さんに従ってやってみよう。


「それでは手をかざしてください」


 お姉さんに促されるまま俺は水晶へ手をかざす。

 まがいなりにも大精霊(ラピス)から勇者認定されているから『勇者』なんてジョブになるかもな。


「えっ――」


 まばゆい光。

 ん……いま、何か変な映像が見えた気がする。

 いや、気のせいか。

 

「来ましたよハヤトさん。あなたのジョブはえーと……こ、これは!」


 え、お姉さん。なんだよ。その意味深な視線は。


「『農民』です」

「はぁあ!?」


 農民? たしかに俺は農民だけど……。


「あ、あの……落ち込まないでくださいね。『農民』なんてジョブ。私、初めてみましたからこれは絶対ユニークジョブですね」

「いやいや、『農民』だよ! ユニークだかなんだか知らなねぇけど『農民』だよ! 冒険せずに農業でも営んでいろってか!?」

「だ、大丈夫です。『吟遊詩人』とか非戦闘系のジョブもありますから」

「いやいやいや、『吟遊詩人』なんてめっちゃカッコいいじゃん! 非戦闘系なのにこの差はなんだよ!」


 苦笑ながらお姉さんが俺に冒険者カードを渡してくる。

 そこにはクッキリハッキリと『農民』と書かれていた。

 他の文字はあんまり読めないけど、『農民』だけハッキリと読める。

 なんだか悲しい。


「うぷぷっ! いい気味ね」

「そこ、笑うな! 駄精霊のクセに」

「吠えるはほどほどにしておきなさい『農民』のハヤト」

「クソぉ……」

「ま、これも普段の行いの差ね。見てなさい私のジョブを」


 高らかに笑いながらラピスが水晶に手をかざした。

 こいつは腐っても大精霊だからどうせ良いジョブに違いない。

 水晶のことも先に知ってたし、たぶんチートでカッコいいジョブを勝ち取るに違いない。

 このチクショウめ。


「き、来ました。ラピスさんのジョブは……えーと」


 チラッ。意味深にラピスをチラ見するお姉さん。

 あれ、なんだか面白い予感がしてきた。


「早く言いなさいよ」

「あ、はい。『大道芸人』です」

「は? よく聞き取れなかったわ。もう一度お願い」

「だ、『大道芸人』です」

「……ななな、この私が『大道芸人』!? シトリの奴ぅ!」

「ダッセェ!」

「そこ、『農民』風情が笑わない!」


 と言われても『大道芸人』だ。笑いで天下を取る気かw

 いや、それでも俺の『農民』よりか役に立ちそう。なんだかムカつく。


「なにかの間違いよ。もう一度するわ」

「あ、ラピスさん。何度やっても同じ信託しか……」


 お姉さんの静止の声を振り切りもう一度、水晶へ手をかざした。


「ふふふっ……どうよ」

「何度やっても結果は変わりませ……あれ?」

「変わってるでしょ。シトリったら遊びが過ぎるんだから」

「はい……えーと、『浮浪者』みたいです」

「(ピキィ)」


 あ、ラピスが切れた。


「もう一回、もう一回よ!」

「は、はい!」

「どう?」

「『野良犬』……です」

「次ぃ! ……どう?」

「『道端の石ころ』……です」

「次! どう?」

「『酒場のたる』……です」

「次『カラスの巣』次『ひび割れたコップ』次『使用済みのコンタクトレンズ』次……」


 それから数分間、ラピスの攻撃は続いた。

 何回ラピスのジョブが決まっただろうか。

 最初はまともだったジョブも今ではもう見る影もない。ってか、コンタクトレンズってなんだよ。


「ぜぇぜぇ……次」

「あ、はい。あっ……これは……」

「なによ。ようやく、来たわけ」

「はい、『もう疲れたから魔法使いでいいやノシ』です」

「はぁ……さんざんいじられた挙句こんな最後なんて」

「おいおい『魔法使い』ならいいんじゃないか」

「黙りなさい農民勇者! あんたなんかその金の剣でジャガイモ畑でも耕してればいいのよ!」

「なぜにジャガイモ。つか、今だとお前のジョブ『もう疲れたから魔法使いでいいやノシ』だぞ」

「そ、そーよ! そうなのよ! このままだとジョブ名が長すぎてカードにも『もう疲れたから魔*』しか載らないのよ!」


 なんていい加減な冒険者ジョブなんだろう。

 ま、あの大精霊シトリ様のすることだ。

 なにかとてつもなくすごいことが隠されているのだろう。


「だから、あんなビッチのことなんか忘れなさい! あんたは私の勇者なんだから!」

「はいはい……冒険者ジョブ『もう疲れたから魔法使いでいいやノシ』の人」

「フルネームで呼ばないでよ!」


 そうガミガミ言ってきているがナチュラルに人の心を読むのはいい加減やめてほしい。

 こっちはお前の心を読むなんてできないんだからな。


「はぁ……もう嫌、もう一回やる」


 ラピスが水晶に手をかざすと今度こそ『魔法使い』という文字が冒険者カードに記されていた。

 中の人がシトリ様なのかはわからないけどラピスでいじるの飽きたみたいだな。


 余計な時間は食ったが二日酔いから復活しそうだったラピスをまた疲れさせたのは大きい。


 これでギルドへの登録も済んだし、ようやく冒険ができる。

 グロッキー状態なラピスを引き連れて。

 いざ、冒険へ!


 ちなみにお姉さんに頼んで俺ももう一回水晶に手をかざしてみたがジョブは『農民』のままだった。

 やるせない。




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