勇者です。早くも借金生活になりそうです
「うぉお、すげー。みんな、冒険者志望なのか」
「そうよ、冒険者になりたい人なんてゴマンといるのよ」
冒険者ギルド2階にある新規受付にはズラリと冒険者志望の人たちが並んでいた。
安物の鎧と剣を持った少年。ローブをまとった魔法使い。肩パッドを付けたトンガリヘアーの兄ちゃん。
さすがははじまりの街。いかにも駆け出し冒険者ですっていう奴らでいっぱいだ。
「毎日こうなのか? それだと冒険者増えすぎて仕事なくなるんじゃないのか」
「ボーズ知らねぇのか。今日は数か月に一度のキャンペーン期間中なんだ」
「キャンペーン?」
「おう、新規受付料金が10%オフ。大聖堂の利用料が初月無料さらには別のギルドからの乗り換えで1万シルバのキャッシュバックだ」
「へぇ~って金とんの!?」
「あたりめーだろ!」
冒険者ギルド登録料が1万5000シルバ。
冒険者カードの発行料が3000シルバ。
カードの更新料が1年ごとに1万シルバ。
大聖堂ってとこの利用料が月1980シルバ。
更新料を省いても登録だけで1万1980シルバ必要だ。
10%オフのおかげで1500シルバ減って1万480シルバ必要だがそれでも大金は大金だ。うちの村なら3か月は暮らせる。
「冒険者って金がかかるんだな……なぁ、どう思う。無一文の大精霊様」
「うっ……精霊が民草のことなんて知るわけないでしょ。あんただって知らなかったクセに」
「うちの村に冒険者ギルドなんてなかったんだよ。それに急に連れてきたのはお前だろこの大精霊……いや、駄精霊め!」
「言ったわね。私の勇者のクセに生意気よ!」
「だから、お前の勇者になったつもりはねぇって!」
まったく、計画的なんだか無計画なんだかよくわからないな、この大精霊は……。
無一文の俺たちができることなんて日雇いの仕事を探すくらいだ。
そんなんじゃ冒険どころじゃない。
はぁ、困ったな……。
部屋の隅でため息をついていると声をかけられた。
「もしかして、おにーさんたちお金のことでお困りだったりしますかえ?」
ギルドには似つかわしくない愛嬌のある少女だった。
年齢は俺よりも下だろうか。
剣もなければ杖も持っていない。冒険者のようには見えない。
「わ、私たちがお金に困ってるわ、わけないじゃない!」
「ホンマに? ウチから見るとすごく困ってそうな顔しとったけど?」
「そうよ、私たちは無一文なんかじゃ――「おい」」
ラピスの頭を軽くたたく。
「ちょ、ぶったわね! 他の大精霊にもぶたれたこともないのに!」
「ミエ張ってどうする。……なぁ、あんたの言う通り俺たちは金に困ってるだ」
「あ、やっぱりなぁ! ギルドの隅でふてくされとる人らは大体、無一文のカ……いえ、困ってる方やからねぇ」
ニコニコと笑いながら手をニギニギ。
どう考えてもこの子は冒険者には見えない。
「もし、お金にお困りなら特別にウチから融資してあげるけど、どうかえ?」
「融資? それってお金を貸してくれるってことか?」
「そうや、おにーさんたちには特別に返済期限は無期限にしてあげるやえ」
返済は無期限。つまり、いつ返してもいいってことだ。
田舎者な俺でも金貸しくらいは知っている。
でも、大体の金貸しはいつまでにお金を返金しないといけないみたいな期限がある。
この子の言う条件が本当なら、冒険者になって大金持ちになってから返金してもいいってことだ。
「いいわね! いくらぐらい借りれるのかしら」
「!」
どうやら、ウチの大精霊様も乗り気のようだ。
「いくらでもって言いたいところやけど。無一文、無収入なおにーさんたちやと200万シルバが限界やえ」
「に、にひゃくまん!?」
なんだ、その大金! ウチの村が買えるくらいの大金じゃないか。
それに返済は無期限! 収入が出てからちょっとづつ返金すればいいじゃないか。
これで冒険者登録だけじゃなく装備も新品一式揃えられる。
「乗ったわ! 限界まで借りるわ」
「ありがとさん、おねーさんは豪儀な人やなぁ……あ、ウチはタヌキ商会のリーシャっていうね。よろしゅうな」
少女……リーシャはそういうとカバンからせっせと紙を取り出した。
「ほんなら、契約に目通してサインな。お金は銀行に預けとーけぇ。今から一緒に取りに行くやえ」
契約書?
ウワサには聞いたことあるけどこの紙に名前をかけばいいんだったな。
「(おい、ラピス)」
「(なによ、小声で……)」
「(知ってるだろ。俺は簡単な文字なら読めるけど難しい文字は読めないんだ。代わりに読んでくれるか)」
「(いいわよ)」
ふぅ、田舎村暮らしだと文字に触れる機会が少ないから難しい文章は苦手なんだ
このことに関してはラピス様様だな。
一通り書類に目を通したラピスは親指を立てた。
問題なさそうだな……200万は大金だが、こんな親切な人からなら安心だろう。
金貸しは騙す人が多いから信じるなって母ちゃんが言ってたけどこんな可愛らしい女の子が人を騙すなんてわけない。
俺は書類にサインをした。
「うふふ、うふふふっ! 見てみてハヤト! 綺麗なブローチ買っちゃったわ!」
「おいおい、冒険に必要なもの買えよ」
「何言ってんのよ200万シルバよ。あんただって金ぴかの剣買ったじゃない。せっかく、私が聖剣あげたのに」
「いやいや、黄金の剣とか勇者にピッタリだろ。値段は50万シルバだったけど……剣とかこれからの冒険に必要だろ」
「まぁ、そうね。じゃ、私も高そうな杖とか買っちゃうんだから」
お金があるってマジで素晴らしい!
これだけ使ったのにまだまだ100万シルバ以上あるんだから。
鎧とかも買いたかったけど元農民の俺が着けても動きづらいだけだったのでマントとガントレットを買った。
これでモンスターとも戦えそうな気分だ。
「ねぇ、ハヤト! 今度はあっちの服屋、見に行くわよ。あんたもそんな野暮ったい服じゃ冒険に出れないでしょ」
「はいはい」
ラピスも物凄い勢いでいろいろ買ってる。
金がまだあるんだしまぁ、いいか。
俺も奮発して後で大人のお店とかに行っちゃおうかな。
そう、まだ金はあるんだ。
金はあるんだ。
「あ、れ……?」
チュンチュンと鳥たちのさえずりで俺は目を覚ました。
場所は酒場。
たしか昨日はラピスと買い物してたら、いつのまにかギルドの受付時間がすぎていてそれから豪遊したんだっけ。
「も、もう食べられないよ」
隣にはテンプレセリフを呟きながら、だらしない顔で寝ている大精霊様。
え、と……コイツが『ドンペリ入りまーす!』とか言って酒を注文し始めて、俺も無理やり飲まされて、それから……。
(※未成年の飲酒は禁止だよ。)
頭が痛い。思い出せない。
「おっ、起きたか兄ちゃん。昨日はありがとよ。たくさん頼んでくれて」
おっさんがそう俺の背中をバンバンたたく。
やめてくれ。めちゃくちゃ腹が気持ち悪いんだ。
それにしても食ったな。
俺の村にはなかった食べ物ばっかだったから色々頼んだし、ラピスもめちゃくちゃ飲んでた。
「ほいじゃあ、お勘定頼むよ。持ってんだろ金」
「ああ」
ふらつく頭を押さえつつお勘定が書かれた紙を受け取る。
結構、食ったからそれなりにかかってるだろうな。
そう思って数字を見る。
「え」
ゴシゴシ。
いかん、腹だけじゃなく目も悪くなってるかもな。
もう一度、紙に目を落とす。
これって……。
「ん、どうしたのー?」
「なくなっちまった」
「なにが……よ」
「金」
黄金の剣50万シルバ。
勇者印のマント5万シルバ
かっこいいガントレット8万シルバ。
宝石のついたブローチ15万シルバ。
魔法使いの杖13万シルバ。
俺の服2万シルバ。
ラピスの服12万シルバ。
食事代(ドンペリ数本含め)約85万シルバ。
残金約5万シルバ。
そう、あの200万シルバが一夜にして消えたのだった。
どうしてこうなった。




