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勇者です。最近、なぜかロス率が高いです


 朝起きて、朝食もほどほどにスライム狩へ向かう。

 昼食はなく、ぶっ続けてで夕方ごろまで戦って手に入る魔核は約100個。

 それを換金していきつけの酒場で夕食を済ませた後、安宿で就寝。


 そんな生活を始めて早2週間。

 トホホなスタートだったけど、なんとか借金を返済しながら生活できている。

 今のところは。





「あ、ハヤト君。おかえりなさい」


 目を開けるともう見慣れた可愛らしい顔が俺をのぞき込んできた。

 見とれるような銀髪の聖女マリーは俺が大聖堂で復活するたびに担当してくれている少女だ。


「あちらのテーブルでお茶でもいかがですか。今日はおいしいハーブをもらってきたので」

「ああ、ありがとう」


 冒険者になって何度かロス(死亡)を体験したけど、マリーのサービスが一番だ。

 こうやって復活した後もお茶をサービスしてもらったり他にも色々やってくれている。


 そういえば、始めてラピスがロスったときもマリーが担当だったな。

 あのときは気が動転していてサービスもロクロク受けなかったような気がする。


「ハヤト! やっと起きた! 今日何度目のロスよ!」


 既にテーブルでお茶を楽しみつつプンスカ起こるラピス。

 お前もまったりしてるじゃねーか。


「いいじゃないか、お前だってロスくらい何度もしてるだろ」

「わかってるわよ。でも、あんたはロスしすぎよ」

「つっても、今日も不可抗力なものばかりだろ。初見殺しトラップなんて盗賊でもないのに見切れるかよ」


 俺たちは今、草原にあるスライムの洞窟という小さなダンジョンに挑戦しているのだが、初見殺しトラップが多すぎていちいちロスっちまうんだ。

 しかも、ラピスの奴は『魔法使い』は後衛で『農民』は前衛よって言って俺を先に行かすから余計ロスする。


「勇者のクセにトラップくらい躱しなさいよ。その腰に差している聖剣は飾りなの!?」

「いや、これ聖剣じゃなくてサビた棒だからな。しかも、武器が買えなくて仕方なく使っているだけのサビた棒だからな!」

「サビても聖剣は聖剣よ。ほら、腐ってもブリっていうじゃない」

「それを言うなら腐ってもタイだよ……まぁ、性能自体に文句はないがな」


 そう、このサビた棒はなんとスライムを数百匹以上あの世に送った名器なのだ。

 ただの金属?製だから軽くて振りやすく、サビてはいても金属?だから堅く、鈍器として優秀。


「もっと褒めなさい。その聖剣『バールのようなもの』は唯一無二、伝説の聖剣なのよ」

「こいつの名前『バールのようなもの』だったのか……」


 言われてみればバールに見えなくも……いや、ただの棒だろコレ。

 

「にしてもさっきのトラップは初見殺しすぎて無理だわ」

「なによ、頼りない農民ね。いっそ、農民らしく肉の壁くらいにならないかしら」

「いや、もう肉の壁になってるから。お前の代わりにトラップにかかってるから! あと、勇者だとか農民だとか、どっちかに統一しろよ」

「うるさいわね、どっちでもいいでしょそんなもの」


 はぁ、もう疲れた。

 こんな駄精霊と相手したくない。


「ふふ、二人とも仲良しですね」

『どこが(よ)!』


 こいつと仲良しだなんて心外だ。


「でも、うらやましいです」

「うらやましい?」

「はい、私は聖女としてこちらの大聖堂で働いておりますので中々、外に出ることができないのですよ、だから、ハヤト君たちが少しうらやましかったりするのです」

「そうだよな。マリーは俺たちみたいな冒険者を復活させる仕事があるもんな。ちゃんと休んでるのか?」


 大聖堂は忙しい。

 冒険者を復活させるために24時間365日働いているといっても過言ではない。

 むろんその分利用料はむしり取られるのだが。


「ありがとうございます。ですが、こうしてハヤト君たちとお話できるだけで私は十分ですよ」


 さすが大精霊シトリ様の聖女。どこかの駄精霊と違って言うことがなんというか清い。

 手を合わせて拝みたいくらいだ。 

 

「でも、あんたロスりすぎよ。何か変な呪いでもかかってんじゃないの」

「呪いじゃなくて、変なヤツなら憑りついてるけどな」

「そうなの? じゃあ、せっかくだしここで祓ってもらいましょう」

「いや、お前のことだからな」

「な、なな……よりにもよって私が憑りついているとか。あんた後でロスらせるわよ」

「お前のせいじゃないか」

「ふふっ……やっぱり、二人とも仲良しなんですね」


『どこが(よ)!』


 ふぅヤレヤレ。

 こんなジョーダンとジョークの通じない駄精霊と仲良しだなんて失礼にもほどがある。


「私だって、あんたなんかへっぽこと仲良しなんて心外よ!」

「はいはい」


 もうこいつの話なんていちいち聞くだけ無駄だな。

 マリーからもらったお茶もなくなり、そろそろ冒険に出ないとな。


「おい、ラピス。そろそろ行くぞ」

「わかってるわよ。今日の分のノルマ全然達成できてないもん」

「いってらっしゃいませ。ハヤト君たちの冒険に幸運が訪れますように」


 聖女様特有の別れの挨拶をありがたく拝聴し、再びダンジョンへともぐった。




「ちょっと、そこはさっきロスった場所でしょ」

「わかってるさ。今度は大丈夫。ったく、ボタン押しただけで床が開くとかどんなトラップだよ」


 だって、宝箱の前にボタンがあったら押しちゃうでしょ。


「よし、今度はボタンを押さずに宝箱あけるぜ」


 目の前にトラップがあるってことはこの宝箱は本物だろう。

 カギはついていないみたいだし、とっとと中身をもらっちまおう。


 宝箱を開けようとするとカチッと奇妙な音が聞こえた。

 なんの音だろう。

 ま、気にしない気にしない。多分、スライムが何か物にぶつかったんだろう。


「よし、これで――うぎゃあっ!」


 天井からタライが降ってきた。

 幸いにも軽傷。ちょっと頭が痛い。


 さっきは落とし穴で今度はタライ。

 やっぱりこのダンジョン少しおかしいような気がする。


「気を取り直して宝箱を……」


 宝箱の中身を見ると『ハズレ』という紙切れが一枚だけ入っていた。

 少し悲しい。


「ハヤト……気にしないのよ」


 まさか、ラピスに慰められる時が来るとは……。

 こんなこと冒険にはつきものだ。いちいちクヨクヨしてたら埒が明かない。


 改めて探索を続ける。


「こんなことなら地図買っておくべきだったわね」

「いやいや、金ねぇーだろ俺たち」


 このダンジョンは既に他の冒険者が踏破しており、ギルドでは地図も販売しているのだが、地図を買う余裕なんて今の俺たちにはない。

 しかし、地図なんてなくとも大体、ダンジョンのことがわかってきた。

 

 敵は各種スライム。

 草原にもいるノーマルなスライムから、毒を持っているようなスライムまでありとあらゆるスライムが登場する。

 はじめは色々と苦戦して何度かロスってしまったが今はもう大丈夫。

 スライムの攻撃パターンって案外、単純なんだ。

 

 ぐちゅぐちゅって平べったくなったらおおいかぶさり攻撃だったり。

 ぐよぐよとゆらゆら揺れてたら体当たりだったり。


 とにかくパターンさえ覚えればスライムは楽勝だった。


 問題なのはトラップだ。

 『盗賊』がいない俺たちのパーティにはトラップを回避する手段がほとんどないといっても過言ではない。

 特に俺はラピスによって、前を歩かされているから被弾率が高く、何度もロスしてしまった。

 俺たちなりに慎重に進んでいるつもりなのだが。

 なんというか、石橋を叩いて渡っていたら、叩くことに反応してトラップが発動してロス。

 みたいな状況だ。


 今日も20回はロスった。

 一回の復活で大聖堂に収める金額は10シルバだから今日だけで200シルバもかかってしまったのだ。


 冒険者ってこんなにハードな職業だったのか……。


 夕方になったので今日の収穫をギルドで換金したのち、いつもの酒場へとやってきた。

 さすがに豪遊はもうしない。

 ラピスには安酒を与えて俺も一番安い食事を選ぶ。

 この酒場は安くてうまいからすっかり常連客になってしまったのだが、一つだけ難点がある。


「おにーさんたち。もうかりまっか」

「げ。リーシャ」


 タヌキ商会のリーシャ。彼女もここの常連客なのだ。

 何度か酒場で顔を合わせているうちに俺とラピスの慎ましい夕食に参戦するようになったのだ。


「おまえ、今日も天丼なのかよ」

「おにーさん、天丼あめたらあかんよ。この世で一番うまい食べ物やから」


 この酒場の名物の一つだ。

 彼女の周りには天丼以外にもいくつか小皿が置かれている。

 さすがは金貸し商人。俺たちのようなしょぼい冒険者とは稼ぎが段違いだ。


「ちょっと、リーシャ。今日こそ、私にも一口渡しなさいよ」

「おねーさん。これはウチの分やんな。欲しいなら自分で頼むんがジョーシキなんやで」

「ぐぬぬ……」


 おいしそうにパクパクと天丼をむさぼるリーシャ。

 目の前でそんな豪華なもの食べられたらおなかがすいてしまいそうだ。


「ところでおにーさんたち。まだスライムの洞窟いっとん?」

「ん、ああ。まだ、ビックスライムってやつにはあってないな」


 俺たちが行っているダンジョンの最奥にはビックスライムという大きなスライムがいるらしい。

 そいつを倒せばひとつ数百シルバもする大きな魔核が手に入るらしい。

 とりあえず俺たちはそのビックスライムの討伐を目標にダンジョンへ潜っている。


「ほんまに? 今日でもう3日やない? 普通の冒険者ならもうクリアしとーてもおかしくないんと思うんやけど」

「え? あの洞窟を3日でクリア? 無理無理トラップだらけでロスりまくって全然進まないんだよ」


 ロスったら大聖堂からやり直しなので小さいダンジョンでもすごく時間がかかるのだ。


「トラップ? あのダンジョンにトラップなんてないはずやけど」

「え? でも、今日も落とし穴に落ちたり、タライが降ってきたり、坂道の上から大きな石が転がってきたりしたんだが」

「それはおにーさんの日ごろの行いが悪いんとちゃう?」

「俺そんな悪い事なんてしてねーよ」


 この街に来てからというものの来る日も来る日もスライム狩だ。


「ほんなら、パーティに『盗賊』がいるんとちゃうかな?」

「紹介は不要だぞ。どうせ、紹介料取るつもりだろ」

「おにーさんには敵わんなぁー。うちも商売やから仕方ないと」


 そう言って出しかけていたそろばんを収めるリーシャ。

 リーシャはことあるごとに商売の話をしだすので要注意だ。

 特にそろばんを出そうとしたタイミングだとほぼ確実に儲けを狙っている。

 まぁ、可愛い顔に免じて毎度許しているが。


「にしても、トラップ多いのは少し気になるわなぁ」

「んー、そんなものなのかなって思ってたんだが違うのか?」


 トラップ多いのが異常ならもっと早く知りたかったんだけど。


「うちも昔行ったときはトラップなんてなかったんやけどなー。うちからの忠告やけど異常があるダンジョンの攻略はやめといたほうがええでー」

「そ、そうか……だが、草原よりもあそこの方が稼ぎがな……」

「だったらクエストは?」

「クエストって、ギルドのか?」

「そや、クエストならいろいろ保障されとるから安心なんよ」


 いろいろねぇ……。

 まぁ、トラップばかりが異常ならダンジョン攻略はあきらめた方が良さそうだな。

 リーシャは金にがめついけど嘘は言わないんだ。嘘は。


 明日はそのクエストってやつを確認しよう。


 もうロスりたくないしな。

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