勇者です。なんとか聖女様に勝てそうです
「鎧?」
シスター服の下。マリーが着込んでいるのは鎧のようなものだった。
金属のプレートとところどころに鎖帷子。いわゆる軽鎧だ。
「……ハヤト、逃げて。今のあんたではマリーに勝てないわ」
「どういうことだラピス。ラピスはマリーが何者なのかわかるのか?」
「ええ……マリー、彼女はあなたと同類なのよ」
同類?
俺と同類?
「ラピス。それはいったいどういうことだ!?」
何も言わず逃げろだなんて、納得できない。
「そう。私とハヤト君は同じなの。同じ運命の赤い糸でつながっているの」
「!?」
マリーが突っ込んでくる。
両手に短剣。
動きづらいシスター服を脱いだせいか、動きがさっきよりも速い。
「くっ」
サビた棒で応戦するが、マリーの速さは尋常じゃない。
あっという間に片方の短剣が俺めがけて飛んできた。
「少年。油断しない」
「ありがとう、ソニア」
「悪魔族ごときが私とハヤト君の愛の語らいを邪魔しないでください!」
ソニアが間に入ってくれたおかげでなんとかマリーの攻撃から逃れることができた。
もしも、あのままだったら確実にロスってた。
「ラピス教えてくれ! マリーはいったい何者なんだ!」
尋常じゃない身のこなし。
そして、俺と同類であるという言葉。
少しばかり、察しはつくが明確に教えてほしい。
マリーが何者なのかについて。
「ハヤト……そいつはあなたと同じ『勇者』よ」
「やっぱりか」
俺と同類なんて言われたらそれしかないと思っていた。
『勇者』が俺のほかにいるなんて信じられなかったが、ラピスがそう断言するのなら間違いないのだろう。
「うふふ……バレちゃった。そう、私はハヤト君と同じ『勇者』。大精霊シトリ様の『勇者』よ」
シトリ様の勇者。
……そういうことか。
『勇者』は大精霊ごとに1人ってことなのか。
ラピスめ、そんな大事なことはもっと早く言ってほしいぜ、まったく。
「マリーが着ているのは『古びた鎧』よ。あんたの持つ『バールのようなもの』と同じく聖なる装備よ」
あの鎧。『バールのようなもの』……サビた棒と同じなのか。
すくなくともサビた棒よりも役に立ちそうな装備だ。
「ラピス、どうやったらその『古びた鎧』に勝てるんだ!?」
「無理よ。その鎧は魔法を完全無効化。打撃、斬撃、刺突。ありとあらゆる物理攻撃に対しても耐性がある。いまのあんたじゃ無理よ」
「さいですか」
さっきの攻撃でダメージがなかったのはそのせいか。
すごく格差社会を見せつけられた気分だ。
あの鎧は俺の持つサビた棒と比べてとんでもない能力を持っている。
そりゃあ勝ち目なんてないな。
「おしゃべりはそこまでですよハヤト君」
「……少年はやらせない」
ソニアがまだ粘ってくれている。
逃げるにせよ反撃するにせよ、今が一番の好機。
逃げたって、どうせ追いつかれてやられるだけだ。
だったらここで完膚なきまで倒す。
俺はマリーと戦うことを選んだ。
「てりゃあ!」
ソニアとマリーの間に入り込み、ソニアを援護する。
サビた棒があの鎧と同じ聖なる装備なら何か特殊能力があるはずだ。
「ラピス! 本当にこの棒はただの棒なのか!? 何か、特殊能力とかないのか。聖剣なんだろ!」
「……ないわ。たしかに『バールのようなもの』は聖剣よ。でも、付与している能力は『発信』『不滅』だけなのよ」
『発信』は以前あったな。『不滅』ってのは初耳だったけど、戦闘に役立つ能力じゃないな。
「うふふ……無駄よハヤト君。いくら私たちが同類でも格は私のほうが上なの」
そうだ。無駄なんだ。
俺じゃマリーに勝てないし、他の奴らも同じだろう。
魔法が効かなければ、物理攻撃も耐性があるなんて。
ん? 魔法は効かない?
「ラピス! 『古びた鎧』は物理攻撃全部に耐性があるのか?」
「打撃、斬撃、刺突は確実よ。でも、普通の武器じゃ傷つかないって聞いているわ」
……なるほど。
魔法と物理はほぼ効かない。
なら、一つだけ試してみるのも悪くない。
「ラピス。雷魔法だ!」
「なに言ってんのよ! 私の話聞いていなかったの!?」
「つべこべ言わずにやってくれ! 無差別だ。雷魔法でこの辺り全体を攻撃してくれ!」
「それじゃあ、あんたもみんなも食らうわよ」
「大丈夫だ。勝算はある。けど、ロスらない程度にな」
「もう! わかったわよ!」
良かった。なんとか納得してくれた。
これで試せる。
「サンダー!」
ラピスの魔法が発動して、身体を電流が走る。
俺もソニアも雷魔法で少しだけ攻撃の手を止めてしまう。
「隙だらけよ」
一人だけダメージを一切受けていないマリーだけが動いていた。
ソニアを押しのけて俺がマリーの前へ立つ。
雷魔法のせいでうまく身体を動かすことはできないが、壁くらいにはなる。
「ハヤト!」
「くそっ……」
短剣が俺の身体を切り裂いた。
かろうじて致命傷ではない。でも、このまま戦えばじり貧だろう。
「うふふ、ハヤト君。早く帰りましょう。私たちのおうちへ」
「ヤダね。マリー……俺はお前から逃れる。この街から出て、ラピスたちと冒険するんだ」
「冒険? 冒険なら私としましょう。あんな悪いお友達とじゃあハヤト君も悪い子になるのよ」
「悪友。別にいいじゃねぇか。俺はあいつらを選ぶ。お前じゃない。」
「どうして、ハヤト君……やっぱり、あの子たちにそそのかされたのね」
ダメだ。
マリーは話が通じない。何を言っても自分の都合がいいように解釈しやがる。
「……わかった。べアート。やってくれよ」
『小僧。貴様に指図されるまでもない』
「え」
べアート……ティンクルベアの声と共に光が走り抜ける。
レーザー光線だ。
以前、ティンクルベアについて調べていた時に偶然知ったことだが、あのレーザー光線は魔法ではない。
体内に貯めた雷エネルギーを放出しているのだ。
雷エネルギーは物理でも魔法でもない。
『古びた鎧』の弱点だと思った俺はコレに賭けたのだ。
ティンクルベアは雷魔法を食らうとエネルギーのチャージが早まり、特大レーザー光線を放ったりレーザー光線を連射したりすることができる。
そう、さっきのラピスが放った雷魔法の目的は俺たちでもマリーでもないべアートだ。
マリーの攻撃で倒れたべアートを起こし、なおかつレーザーのエネルギーをチャージさせるためだったのだ。
「ハヤト……君」
レーザー光線で焼かれマリーは倒れた。
そして、粉となって消えていく。ロスだ。
「勝った……勝ったのよ!」
間髪入れずにラピスが叫ぶ。
そう、俺たちはマリーに勝利したのだ。




