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勇者です。ヤンデレ聖女様が強すぎてつらいです


「ハヤト君。お迎えに上がりましたよ。夜遊びはこれくらいにして帰りましょう」

 

 嫌だ。

 もう、あんなところに監禁されたくない。

 俺はこの街から……マリーから逃げ出したいのだ。


 サビた棒を構えてマリーへと棒先を向ける。

 マリーはあのティンクルベアを一撃で黙らせるほどの実力。

 俺が勝てるわけない。


 不思議と手が震える。

 

「あんたなんかにハヤトは渡さないわよ!」

「ハヤトさん。今助けますから、待っててください!」

「ウ、ウチも協力する!」


 いつのまにか地上に降りてきたラピスたちが俺を庇うように武器を構える。

 頼もしい。


 リーシャだけは恰好のみだけど、それでもうれしいことには変わりがない。


「あら、ラピス様にリザさんたち……悪いお友達ね。ハヤト君、悪いお友達とはもう遊ばないようにしましょう」

「誰が悪いお友達よ! ハヤトは私たちの仲間なのよ!」

「仲間……うふふ! やっぱり、悪いお友達のようですね」


 そう言ったのち、マリーは俺たちに短剣を向けると走り出した。


「ファイアボール!」

「行きます!」


 ラピスの魔法とリザの放った矢。

 それぞれマリーに向かっていったが魔法はマリーに当たった瞬間に霧散、矢は短剣によって弾かれた。

 やはり、というべきか。


 以前もラピスの魔法はマリーには効かなかった。

 魔法に耐性でもあるのだろうか。

 それともマリーが身に着けているシスター服が特別なのか。


「なんで! どうして私の魔法が効かないのよ!」

「ハヤト君。ハヤト君に言い寄る悪いお友達は私が倒すからね」

「おにーさん、ボーッしないで! うちらは逃げるんよ」


 そうだ。逃げないと。

 マリーが執着しているのは俺だ。

 俺さえ逃げてしまえばおそらくラピスたちは大丈夫なはずだ。


 足を動かそうとしたとき、目の前を短剣が横切った。


「うふふ、どこへ行くんですか、ハヤト君。もう、おうちに帰らないといけない時間よ」

「く、逃げられない」

 

 簡単に逃げられるとは思ってはいないが、マリーは思った以上に怪物だ。

 今だって、こちらを一切見ずに短剣を投げてきたのだ。


 こんなヤツに勝ち目なんてない。


「どいて少年、あの魔女は私がやる」

「おまえ助けてくれるのか」

「あなたには助けられた恩がある……それにこれはべアートの仇」


 大鎌を携えてソニアが参戦する。

 ソニアが仲間になってくれるなら形勢はこちらのほうが有利。

 3対1。俺が参加しなくても勝てそうだ。


「あら、役立たずの悪魔族デーモン風情が私に楯突くのですか?」

「魔女……あなたは私が倒す。何度でも私が倒す」


 引きずっていた鎌を大きく振り上げるとソニアはマリーへと直進した。


「お邪魔虫さん」


 新たに取り出した短剣で素早く動く鎌を弾く。

 とんでもない速さなのに2人とも次々と攻防戦を織りなした。


「援護するわ。サンダー」


 ラピスがタイミングを見計らって魔法を発動する。

 もう何度も冒険者として戦ってきているので攻撃タイミングはバッチリ。

 マリーに休み隙を与えないよう嫌がらせ攻撃を繰り返す。


「ラピスさん。炎を!」

「わかったわ」


 リザはラピスの魔法に乗じて矢を放つ。

 さすがに超接近戦を行っているソニアたちの間に撃ち込むことはしないもののマリーの逃げ道を塞ぐように矢を射る。


「おにーさん。今度こそ」

「ああ」


 今度こそ、逃げよう。

 情けない話だけど、今の俺には逃げることしかできないのだ。


「ダメよ」


 再び眼前を短剣が飛び去った。

 あれだけの攻防戦を行いながら短剣を投げつけるなんて、マリーはやっぱりただモノではない。


「逃げるのが無理なら……もう、戦うしかないってことか」


 ソニアの速度についていけるかどうかはわからないが1人より2人で接近戦をした方が良いだろう。


 俺も飛び出そうとしたとき、リーシャに服の裾を引っ張られた。

 どうしたんだ一体。

 

「おにーさん。少しだけ……少しだけうちの話聞いてくれる」

「なんだよ。手短にな」

「うちのジョブが『商人』なのは知ってるやよね」

「戦えないジョブなんだろ」

「そうなんやえ。でも『商人』には『商人』の戦い方があるんよ」

「『商人』の戦い方?」

「うち自身は戦えんけど、一時的にお金を能力に代えることができるんよ」

「お金を能力に?」


 疑問と思っている俺に向けて頷くリーシャ。

 リーシャは軽くその話について教えてくれた。


 どうやら、『商人』の加護でお金を対価に一定時間だけ身体能力を向上させたりすることができるらしい。


「やから、もしおにーさんがその気ならこの契約書にサインを……」

「なるほどな。リーシャらしい提案だよ。わかった、契約だ。それでどれくらいかかるんだ?」

「一番お得なセットで10分1万シルバやえ」

「高い……でも、頼む」


 契約書にサインする。これで俺もソニアたちの戦いに参戦することができるだろう。

 契約は契約書にサインをしてから戦闘が終了する、あるいは俺が戦闘不能になる条件で自動的に停止するらしい。


「おにーさん。ご武運を」

「ありがとう」


 契約をしたのち、俺はそのままソニアたちの戦いへと参戦する。


「すごい」


 契約してからというもの身体に力があふれる。

 これならあの戦いに参加しても問題ないだろう。


「てりゃああ!」


 ソニアの鎌切り裂きの合間を縫ってマリーへサビた棒を振り下ろす。


「ハヤト君!?」


 俺の登場にマリーは一瞬だけたじろいだがすぐに態勢を立て直す。


「もしかして悪いお友達に毒されましたか。でしたら、力づくでもおうちに帰すまでですよ」

「おいおい、マリー。勘違いすんな。俺は元からお前の彼氏になったつもりなんてない」

「もう、ハヤト君ったら照れ屋さんですね。同じこと何度も言わせないくださいよ」

「少年。戦闘中に無駄話しているヒマはない。邪魔をするくらいなら横でみていて」

「はいはい。戦いに集中しますよ」


 とはいうものの、俺が参戦してもマリーにはまだ余裕の表情が浮かんでいる。

 息切れどころか笑みさえ浮かべている。


「くそ。どうすればいいんだ」


 このままやってもお金がかかるだけ、マリーには勝てない。


「ハヤト! あれ、あれをするのよ!」


 魔法で援護しつつラピスはそんなことを叫んだ。

 アレってなんだよ。俺にはこの状況を打破する必殺技なんてない。

 あいつはただの『農民』に何を求めているんだよ。


 いや、あいつからすれば俺は『農民』じゃなくて『勇者』なのか。

 なんて思っても俺に不思議な力が目覚めるなんてことはない。


 やっぱり、ラピスの言葉は信じられないな。


「少年。もう……」

 

 ソニアはそろそろ限界のようだ。

 鎌の動きが鈍っている。

 悪魔族デーモンでも全然、歯が立たないなんて……。


「ソニア。少し下がれ。俺が前に出る」


 ソニアの代わりは務まらないと思うがこのままやったってソニアがマリーにやられるだけだ。


「ハヤト君。やっぱり、ハヤト君は私のこと好きなんですね」

「何言ってんだ……お前は」

「だって、私とこうして刃を交じらせたいだなんて……言ってくれたら私」

「そんな余裕見せているののも今のうちだぜ!」


 隙。

 わずかに見せた隙めがけてサビた棒を叩きつける。

 

「残念です」


 あ……れ……。気づいたら勢いよく叩きつけたはずのサビた棒は空を切っていた。

 まさか、フェイントをかけられた?


「じゃあ、ハヤト君。先におうちへ戻っていてくださいね」


 短剣が落ちてくる。避けられない。


 ああ、やっぱりダメだったんだな。

 これでまた、あの生活に逆戻りなんだ。


 あきらめたその時、頭上で金属が弾かれる音が聞こえた。


「!?」


 見上げるとマリーの持っていた短剣が明後日の方向へと放たれていた。


「ハヤトさん! 大丈夫ですか!?」


 リザだ。

 リザが精密射撃でマリーの短剣を矢で射ったのだ。


 そうか……さっきまではソニアが前進していたからリザも援護にとどめていたけれど、俺が前進したから直接攻撃に変えたんだ。

 ソニアと違って俺は何度もリザとコンビを組んでモンスターと戦っているからクセとかタイミングとか合わせやすいんだろう。


「今だぁ!」


 驚いた表情のマリーへサビた棒を振り上げる。


「ひゃっ!」


 クリーンヒット。

 マリーはサビた棒で吹き飛ばされる。


 はじめてマリーに直撃を食らわすことができた。

 それもこれもリザのおかげだ。


 俺が親指を立てるとリザもにっこりと笑った。


 確かな手ごたえ。これで勝負はあったはずだ。

 そう思っていたのだが、そうは問屋が卸さない。


「やりますね。ハヤト君」


 ゆらりとマリーが立ち上がった。


「そろそろ本気を出しましょうか」


 なんだって。本気を出す?

 つまり、これまでは本気じゃなかったってことか。


「アレは……ハヤト! 逃げるのよ!」

「?」


 逃げる?

 どういうことだ。

 今のうちにマリーから逃げろってことか?


「やっぱりマリーは……ハヤト早く逃げなさい!」


 ラピスはわめいているが逃げるにはもう遅い。

 マリーは既に復活済み。今、逃げても短剣にやられるだけだ。


「うふふ……ラピス様は気づいているみたいですね。私が何者なのか」


 何者なのか?

 単なる聖女様じゃないってことはなんとなくわかっていたが、マリーは何か特別なのか?

 それもラピスが警戒するほどの特別。


「さぁ、戦いましょう。ハヤト君。そして、おうちに帰りましょう」


 にっこり。

 背筋も凍るほどの恐ろしい笑みを浮かべてマリーはシスター服を脱いだ。

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