勇者です。戦いはまだまだ続きそうです
薄暗い夜の景色をティンクルベアのレーザー光線が切り裂く。
一筋のレーザー光線が俺たちを乗せていた荷馬車に直撃すると爆ぜる。
魔法で強化していた荷馬車もついに限界を迎えたのだろう。
「お前ら! ここは俺たちに任せて先に行け!」
「だけど、お前ら……」
「気にすんな。負けてもロスするだけだ。だから、さっさと街道を抜けちまえ!」
「ありがとう。お前の名前忘れちまったが、このことは決して忘れねぇ」
「いや、せめて名前だけ憶えてほしんだが……」
名前も知らない冒険者たちが突破口を開こうとしてくれている。
こんな俺のために戦ってくれるなんて、冒険者は良い奴ばっかだな。
街道を抜けるまでまだ距離がある。
荷馬車だったらすぐに走り抜けられる距離でも人の足ではきつい。
それにティンクルベアも健在でまだ、悪魔族も控えている。
前のときよりも足止めしてくれる人数が多く2匹のうち、1匹のティンクルベアの足止めは今のところできているが本当に成功するのだろうか。
いや、そんな考えは捨てよう。
俺が成功を考えないでどうする。
「ハヤト。ここは冒険者たちに任せて私たちは先へ行くわよ」
「ああ、頼むぜ。お前ら」
「おうよ!」
親指を立てる冒険者たちを背に、俺たちは街道を走る。
「ラピスさん、ここは迂回しましょう。あそこでダモクさんたちが足止めをしてくれています」
「そうね……ハヤト。遠回りになるけど、できる限りティンクルベアから離れるわよ」
「だけど、ラピス。迂回してもどのみち悪魔族がいるあの道を通らないと街から出られないぞ」
「おにーさんの言うとおりなんよ。足止めがいつまで続くんかわからんから迂回せずに直進したほうがええと思うんや」
直進すればティンクルベアを足止めしているダモクたちの中へ飛び込むことになる。
がしかし、ダモクたちの足止めがいつ終わるのかわからないため、最悪の場合は悪魔族と対峙したところでダモクたちを倒したティンクルベアに挟撃されてしまう。
それだけは避けたい
「わかったわ。じゃあ、直進するわよ!」
危険を承知で俺たちは直進する。
そこはダモクたちがティンクルベアを足止めしている場所。
本当なら荷馬車で突っ切るべき場所だったが、もうその頼みの綱はない。
「援護射撃しながら向かいます。ハヤトさんたちは突っ切ってください」
リザが弓に矢を番える。
冒険者ジョブ『狩人』の加護によってリザは弓の命中率が上がっている。
もともと持っている弓の才能と遠くを見通せる目も相まってリザの弓ははじまりの街においてはトップクラスといえよう。
「ははっ……リザのヤツ……ありがてぇ。お前ら、女神さまのお出ましだ。まだまだ踏ん張るぞ!」
『うおぉ!』
現金な奴ら。でもこいつらも良い奴らだ。
ティンクルベアのレーザー光線に当たってボロボロになりながらも足止めをしてくれている。
ロス寸前まで踏ん張るなんて普通じゃできない。
ホント、良い奴らだ。
「女神! じゃあ、私も参加するわ。さ――「お前はやめとけ」」
ラピスが魔法を放とうとしたので今度は全力で止めた。
こいつが参加するとロクなことにならないからな。
それに今、こいつなんの魔法放とうとした? 雷魔法だったら逆効果になるのわかってるだろ。
「なによケチ。私こそが大精霊なのに」
「ハブてんなよ。それにお前の力は今、ここで使うべきじゃねぇだろ」
「ハヤト……」
ふぅ……こうでも言っておかないと機嫌が悪くなるからな。
「ハヤトさん。戻りました。あれ、ラピスさん。顔が赤いですけどどうかしましたか」
「別になんでもないわ」
「あ、はい」
援護射撃を切り上げてリザが俺たちの下へ戻ってきた。
ラピスの様子がおかしいことに気づいたものの次なる障害が目の前に迫っていることに気づき言葉を止める。
俺も目の前に登場した彼女に足を止める。
ガンッと金属製の鎌を石畳に打ち付ける音が聞こえる。
「こいつが悪魔族なのね」
俺たちの前に山羊の角を持った悪魔族の少女が立ちふさがっていた。
「……ここから先は行かせない」
「うそ、しゃべったわ! 見てみてハヤト! しゃべったわよ!」
「いや、驚くか普通」
という俺も悪魔族って奴らが俺たちと同じ言葉を使ってるなんて前まで信じてなかったけどな。
「ハヤトさん、ラピスさん……あの人。隙がないです」
どうやら簡単には行かせてもらえそうにはないな。
「おい、リーシャ。お前も冒険者だけど戦えるのか」
「おにーさん。うちは『商人』なんよ。戦うのはできないんよ」
リーシャはアテにならない。
戦えるのは俺とラピスとリザ。
このメンツでどうにか切り抜けることなんてできるのだろうか。
そう、出方をうかがっていると悪魔族の少女が口を開いた。
「……あなたたち、この先へ行く気がないなら帰ってちょうだい」
どういうことだ。
あの子には敵意がないのか?
「ふんっ! もちろん、ここから先へ行くわ! あんたなんか蹴散らしてね!」
「そう……なら、倒れなさい」
動いた。
大きな鎌を掲げて少女がこちらへと向かってくる!
「ハヤト、わかってるとは思うけどあんたは逃げなさい」
「ああ」
情けにないことだが、ここはラピスたちに任せて先へ進むことが先決だ。
「サンダー!」
「援護します!」
ラピスの雷魔法とリザの矢が少女へと向かう。
しかし、雷はなぜか少女に吸収され、矢は大鎌で弾かれる。
「私には効かない……それと」
「!」
隙をついて逃げようとしたものの、少女はとんでもない跳躍力で俺の前に立ちふさがった。
「あなたは逃がさない」
鎌が襲ってくる。
前と違って動きが素早いことは知っていたので咄嗟にサビた棒で受け止める。
「残念だったな」
「……」
数秒のつばぜり合いの後、少女がバックステップで距離を取る。
「ファイアボール!」
雷魔法は効果がないと悟ったラピスが着地の瞬間を狙う。
しかし、鎌で弾かれる。
「つ、強い……」
明らかに俺たちよりも強い。
魔法も効かなければ、隙を見て通り抜けようとしても速さでも負けているため、封鎖される。
ティンクルベアと違ってこの少女に足止めなんて通用しない。
どうする?
ここで退いてもマリーに捕まる。
かといってあの少女を突破は不可能に近い。
もうどうしようもない。
「おにーさん! ダモクはんたちが!」
「え?」
考えているうちにダモクたちの足止めが終わっていた。
全ロス。最悪だ。
そして、1匹のティンクルベアがやってきた。
『何をしているソニア! さっさとそいつらを倒さんか!』
「ま、またしゃべったわよ!」
モンスターがしゃべるなんて古のドラゴンくらいしか聞いたことがない。
「でもベアート。この人たちは……」
『馬鹿か! じゃないとお前があの魔女にやられるんだぞ!』
魔女。
それが誰なのかわからないが、本当にどういうことだ。
この少女は何か目的があってこの場所を塞いでいるということなのか。
それも半ば強制的に。
『もういい! そこの人間はワシがやる!』
ティンクルベアが光る。
これは特大レーザー光線の予兆。狙われたら最後、ロスしかない。
「ハヤト、あの子の首を見て」
「首? こんな時に何を言っているんだよ!」
そうは言うものの俺の視線は少女の首へ向かっていた。
「首輪?」
「そうよ、ハヤト。あれは隷属の首輪よ。昔、ある大精霊が遊びで作った『命令に従わなければ存在が消えてしまう首輪』なのよ!」
存在が消えてしまう首輪。
つまり、少女は自分の意思でここにいるわけではないということなのか?
そうだ。そういえば、前にロスったとき。少女が何か呟いたよな。
あの言葉……思い出した……今の話であの言葉がつながった。
「おい、ソニア!」
俺の言葉に少女……ソニアが反応する。
「お前なんであのとき、『ごめんなさい』って謝ったんだよ! お前、本当はやりたくないんだろ!」
「……」
ソニアが静止する。
口をワナワナと振るわせてこらえきれない言葉を絞り出そうとする。
「私は……もう、人と戦いたくない。だから……もう来ないで」
『ソニア……だが、もう遅い。人間どもよ。ワシは何度でも貴様らを倒そう。それこそ、貴様らが二度と逆らわなくなるまで何度でも倒そう。ワシらに挑んだことを後悔するが良い!』
特大レーザーが発射される。
普通なら逃げ場なんてない。何度かティンクルベアと戦ったからわかるが、狙われたら最後なんだ。
だから、俺はラピスへ告げた。
「ラピス! 空だ!」
「っ……了解よ!」
『ぐぉおおおお!』
特大レーザー光線が発射されるや否や俺たちはラピスの力によって空を舞っていた。
奴の意識の外である空なら避けられる。
おそらく、これは一回きりの方法だが、一回だけでも十分だ。
「ラ、ラピスさん! そ、空に浮いてます。これはどういうことなんでしょうか!」
「おねーさん! う、うち高いとこ苦手なんよ。手、離さんといて!」
各々驚いているようだ。
俺も初めてラピスに出会ったときにやってもらったが意外と怖いんだなこれが。
「う、ぐ……ハヤト知ってるわよね。空を飛べるのは1日1回1分が限界よ」
以前に聞いていたから知っていたが、飛べるのは1分が限界、それも今回は4人同時に浮かべているから前みたいにアクロバティックな動きは無理だろう。
「ラピス。そのまま俺をあの子の下へ降ろしてくれ」
「だけど、あんた……」
「頼む。一度だけならたぶん、大丈夫だ」
チャンスは一度きり。
突然、俺たちが消えて油断しているうちにサビた棒でソニアを……。
「行くわよ! せーのっ!」
ラピスの合図に合わせて急降下。
サビた棒を握りしめてソニアの背後に着地する。
「え――」
気づかれた。でも、もう俺の間合いだ。
俺はソニアへ向けてサビた棒を振るった。
『ソニアッ!』
ガキンッ。
金属が砕ける音。さすが、サビていても聖剣。狙い通りだ。
だが、ソニアは軽傷を負ってしまった。
「……大丈夫」
『貴様らっ! よくもソニアをっ!』
「落ち着け、うまく行ったから」
『なにを落ち着けと言うのだ!』
「ほら」
俺はソニアの首筋へ向けて指を差した。
そこには俺が想定したどおり、壊れた首輪。この状態なら外せるようになっただろう。
失敗したのはソニアに傷を負わせてしまったこと。
仕方がないとはいえ、できれば無傷で終わらせたかった。
『首輪がっ! ソニア! お前の首輪が取れるぞ!』
その言葉を聞いたソニアは鎌をその場に放り捨てた。
良かった。
これでもうソニアがこの街道を塞ぐことなんてしないだろう。
「ホント、使えない悪魔族ですね」
「……え」
聞き覚えのある声。というか今、一番聞きたくなかった声だ。
「マリー!」
マリーだ。マリーが現れた。ということはティンクルベアの言った魔女って。
『魔女め、よくワシの前に姿を現せたな! 今日こそ引導を渡してくれよう!』
「邪魔ですね」
『ぐ、ぐがああああ』
持っていた短剣を一閃。ティンクルベアが倒れる。
あの凶悪モンスターを一撃で?
マリーってめちゃくちゃ強いのか。
「ハヤト君。お迎えに上がりましたよ。夜遊びはこれくらいにして帰りましょう」
月明かりの下。
マリーは不敵にほほ笑んだ。




