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勇者です。やっぱり駄精霊は信じられません


 ひと眠りから目覚めたらもうすでに夜は耽っていた。

 作戦決行まであと少し。


 緊張気味の俺はサビた棒を磨いていた。

 特に意味はないけれど、なぜか落ち着く……。


 マリーに気づかれてはいけないため、派手な動きこそしないものの着々と作戦の準備は済みつつある。

 仲間の冒険者たちは目立たないようチームごとに街の外へ出てもうすでに待機中。


 あとは俺を含む主要なメンツが街の外へ出れば作戦決行だ。


「おにーさん。荷馬車の準備が整ったみたいや」

「お、悪いなリーシャ」


 俺たちは街を出るのにリーシャが所属しているタヌキ商会の力を借りていた。

 タヌキ商会はこの街に影響力を持つ大きな商会だ。


 その情報網は侮れないし、今回のように隠れて何かすることも可能である。

 一部の商人が街の権力者と癒着しているというウワサもあるほどで、全面協力を得られたのはでかい。


 今回は酒場がタヌキ商会から酒や食べ物を仕入れするタイミングに乗じて幌付きの荷馬車に乗り込み、そのまま街の外へ向かうという寸法だ。


 万が一でも作戦を失敗したくないので念のため、俺が行きつけている店全てにダミーの荷馬車も用意してたりもする。

 仮に荷馬車に隠れて脱出することが気づかれたとしても街道を抜ける時間くらいは稼げるだろう。


「ええよ、おにーさんはもう大事な顧客やからね。それにコレはそれなりにもらっとるから」


 そう言って指で丸を作るリーシャ。

 相変わらずそこはブレないんだな。


「よし、じゃあ。行くか」


 サビた棒といつも使っているカバンを持ち、いざ荷馬車へと向かう。






 月明りの下、首尾よく荷馬車に乗り込み街の門を突破した俺たちは予定どおりクマの悪魔族デーモンが待ち受ける街道へと向かっていた。

 バラバラに街を出た冒険者たちもすでに集結して荷馬車の護衛についている。


「そろそろだな……アレが出るのは」

「いいから待ってなさいよ。あんたは逃げるだけで十分なのよ」


 荷馬車から顔を出して周囲を確認しているとラピスに怒られた。


「いや、なんかさっきから緊張しててな」


 ひと眠りから目覚めてから緊張でソワソワしてしまっている。

 もう何度、荷馬車の中でサビた棒を磨いたことやら。


「あ、わかります。私もこういったとき、緊張してしまうんです」


 リザも俺と同じく緊張しているらしい。

 愛用の弓を握りしめる手はかすかに震えている。


「2人とも緊張するだけ無駄よ。こういう時はドンと構えておけばいいの」


 その図太い神経がうらやましいぜまったく。

 つうか、俺はこの作戦に失敗したらどうなるかわかったもんじゃない。

 マリーに捕まってそれから……二度と外に出られなくなるかもしれない。


「気にすんな。あんちゃん。契約どおり、お前らは俺らが守るからな」

「けけっ。兄貴のいうとおり、おいらたちに任せな。なんたっておいらたちは先輩冒険者なんだぜ」


 荷馬車を護衛しているらしいダモクたちも励ましにやってきてくれた。

 ホント、頼りになる先輩だ。


「おにーさんたち、おしゃべりはええけど。ホンマにそろそろやえ」


 御者側にいるリーシャがそう忠告する。

 そうだ。前はこの辺りで襲撃を受けたのだ。


 たしか、前は馬車に乗っていたら、ティンクルベアのレーザー光線が当たって進めなくなったのだ。

 今回は大丈夫だよな。


「今回は強化魔法掛けてあるわ。ティンクルベアの攻撃もひとつやふたつ。全然平気だわ」


 ラピスはそう言うが、なんだか不安になってきた。


「出た! ティンクルベアだ」


 冒険者の誰かがそう叫んだ。

 ティンクルベアは遠目でも分かりやすいシルエットをしている。


「いました! ティンクルベア2匹に悪魔族デーモンです」


 荷馬車から顔を出してリザも確認する。

 目の良いリザが言うなら間違いなくヤツらだ。


 途端に周りの冒険者たちが騒がしくなる。

 こちらから見えるということはもうすでにティンクルベアの射程にも収まっているはずだ。

 すぐにでもレーザー光線が飛んでくるに違いない。


 少し覗いてみると予想通りピカッとレーザー光線が飛んできていた。


「大丈夫よ。まずは周囲のマト……いえ、冒険者が狙われるわ」

「全然、大丈夫じゃないし。せっかくお前の呼びかけで集まった冒険者をマトっていうなよ」


 ズゴン、ズゴンとレーザー光線が地面にぶち当たる音が聞こえる。


 それと共に揺れる荷馬車。

 いくら、魔法で強化されているとはいえ、レーザー光線が飛び交う中を走り抜けるなんて正気じゃない。


「だ、大丈夫みたいです。うまく、周りの冒険者さんたちが対処してくれてます」


 リザが言うには周りの冒険者がレーザー光線を弾いたり防いだりしてくれているおかげで今のところは荷馬車への直撃はないそうだ。


「おにーさんたち。しばらくしたらスピードあげるよ」


 これまでは護衛の冒険者たちと速度を合わせていたがこれからは違う。

 全速力でクマの悪魔族デーモンたちの脇を通り過ぎる。


 ここさえ乗り越えれば今回の作戦は成功。

 しかし、そうたやすくはいかないようだ。


「ぐわっ!」

「な、名もなき冒険者がやられた! 先行隊は全滅だ!」

悪魔族デーモンの足止めは俺たちがやる。ダモクたちは前進してあの厄介なクマどもを黙らしてきてくれ」

「ったくめんどーな役回りばっか押し付けやがって……いくぞお前ら!」


 もう何名かロスが出ている。

 ティンクルベアを足止めする隊も全滅したみたいでダモクたちが代わりに向かっていく。


「ハヤト、リザ。しっかり掴まってなさい! スピードが上がるわよ!」


 荷馬車は当初の予定どおり速度を上げるが、ティンクルベアを足止めする隊が全滅したせいかレーザー光線が何本か直撃する。

 大したダメージではないが当たるたびに荷馬車の耐久値は減っていく。

 

 先ほどラピスが言っていたように何回かは防げるようだが、こうも直撃が続けばいつかは壊れる。

 

「仕方ないわ。今回の作戦のために覚えた新魔法。ここで試させてもらうわ」

「おい、ラピス危ないぞ! ってか新魔法いつのまに覚えたんだ!」

「ついさっきよ。ふふん、この時を待っていたわ!」


 あれ、なんだか悪寒がする。

 止めようとする前に荷馬車から身を乗り出してラピスが魔法を放った。


「フレイムボール!」


 名前のとおり、炎の球がラピスの手のひらから撃ち出される。

 それはまっすぐに飛ぶとティンクルベアへと直撃した。


「よし、やったわ!」


 いや、それダメなフラグだから。

 モクモクと煙が晴れ、ティンクルベアの姿が再び現れる。


「ラピスさん。まだです!」

「うそ! 私の新魔法が効かないなんて」


 いや、ラピスの使った魔法って初級魔法だかんな。

 それくらいであのティンクルベアを倒せるわけがない。

 むしろ、弱点である炎をぶつけられて逆上するんじゃないか。


「ぐぉおおおおおお!」


 危惧したとおりティンクルべアは怒りの雄たけびを上げた。

 そして、そのまま特大レーザー光線を放ち、俺たちのいる荷馬車へと直撃した。


「お、おねーさん! もう、もう荷馬車が持たんよ!」


 かろうじて、荷馬車は壊れなかったがもうダメなようだ。


「ラピス。だから、お前は駄精霊なんだよ!」

「う、うっさいわね! 私だって本気だったんだから!」

「ハヤトさんにラピスさん。今はまず荷馬車から出ましょうよ」

「……そうだな」


 リザの言うとおり、ここは言い争っている場合じゃない。

 

 ラピスのせいで荷馬車を降りるハメになった。

 少しでもラピスのことやればできる子だと信じた俺がバカだった。

 

 小さくため息をつきながら俺は荷馬車を楯にしながら逃げ出すのであった。




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