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勇者です。ウチの駄精霊はやればできる子なんです


 いつもの酒場の奥。秘密の部屋で俺たちは集った。


 メンバーはいつもより多い。

 俺とラピス、リザにリーシャと酒場の主人は当然として、それ以外にもダモクやその配下や他の冒険者も幾人か顔を見せていた。


 そう、これからラピスのいう作戦とやらをここで披露するのだ。

 

「みんな、良く集まってくれたわね!」

『おー!』


 やけにみんなの指揮が高いな……。

 デレデレした顔の奴もいるし、ラピス人気は意外と高いとみえる。


「今日は私のゆう――私のパーティメンバーであるハヤトのために集まってくれてありがとう。感謝するわ」

『おー!』


 なんか改まってラピスが感謝している姿を見るとむず痒いな。

 いつもは飲んだくれでコカトリスの焼き鳥をむさぼってる姿ばかりなのに……まさかこんなに立派になるとは。

 なんだか涙がでてきそうだ。ぐすん。


「ちょっとそこ! せっかく私が音頭とってるのに水差さないでよ!」

『そーだそーだ。ぶー』

「わかったわかったから、全員でブーイングはやめてくれ!」


 なんで俺、主賓なはずなのにアウェーなの。

 ここにはラピス信者しかいないのか。


 うろたえていると誰かが俺の手を取った。


「ハヤトさん」

「え、リザ……」

「この街から出るために一緒に頑張りましょう」

「あ、うん。ありがとう」


 リザもやる気満々のようだ。

 ちょっと空回りしているような気もするが、気にしないでおく。


「で、話を戻すわよ」

「私たちの目的はハヤトをこの街から逃すことよ。異論は受け付けないわ」


 あくまで理由は伏せておくってことか。

 まぁ、他の奴らは知らない方が良いだろう。


 まさか、大聖堂の聖女様があんな奴だなんて……うん、知らない方が幸せだ。

 俺もできれば知らないほうがよかった。


「街を出るのに最大の障害がみんなも知ってのとおり、クマの悪魔族デーモンよ」


 バンッと壁にクエスト用紙を貼り付ける。

 そこにはギルドが公開しているクマの悪魔族デーモンに関する情報がつらつらと書かれている。


「知ってのとおり、あの悪魔族デーモンは2匹のティンクルベアを従えていて、街道を塞いでいるわ。ここをなんとか突破しないとこの街から出ることはできないわ」


 街道以外にもこの街を出る手段はあるが危険度が違う。

 山に囲まれており、街から離れるごとに出没するモンスターが強くなる。

 そのほとんどがスライムではあるが、少なくとも駆け出し冒険者が戦えるような相手ではない。


 よってもっとも安全な道が街道になるわけだが、それが一つしかない。

 そこをクマの悪魔族デーモンに抑えられているため、俺も逃げ出すことができないし、この街も物資の補給が滞っているそうだ。


「ラピスさん。質問いいっすか?」

「いいわよ。名もなき冒険者」

「名もなき冒険者って俺にも名前あんだけど……まぁいいか。質問っすけど、待てばいずれ討伐隊が来るんじゃないですか? ハヤトもそれまで待つってできないのか?」

「待てないわ」


 そう、待てない。主に金額面の意味で。

 たしかに待てばいつかはクマの悪魔族デーモンも討伐されるだろう。

 それまでマリーに見つからずにこの街で生き残るためにはどうしても金が必要だ。


 マリーに見つかるから冒険に出ることはできないし、食事もおおっぴろげにはできない。

 そして、肝心の討伐がいつになるのか今の段階では定かではない。


 だから、待てない。というのが結論だ。


「わかったっす」


 説明も聞かずに名もなき冒険者はスゴスゴと引き下がる。

 ホント、ラピスの言うことには素直なんだな。


「わかったなら。肝心の作戦を伝えるわ」


 ゴクリ。

 ここからがラピスの大舞台。ラピスの考えている作戦とはなんなのか。

 俺たちよりもはるかに強い相手を出し抜く作戦。

 それが今、明かされる。


「題して『物量作戦』よ!」

『うぉおお!』


「え」


 いやいやいや。

 物量作戦って、いくらなんでも単純すぎやしないか。


「単純だと思ってるわね。でも、この作戦が一番有効なのよ」

「物量で押し切れる相手じゃないだろ!」

「甘いわねハヤト。この酒場のコカトリスよりも甘いわ」


 その例え、微妙だから。

 たしかにこの酒場のコカトリスは砂糖に漬けてるから甘いけど、そんな例えじゃ伝わらないから。


「物量で押し切ろうって話じゃないわ。物量で足止めしてあんたは優雅に街を出ていくのよ」

「な、なるほど」


 つまりは大量の冒険者で時間稼ぎしている間に俺が逃げればいいのか。

 あれ、思った以上に冴えた作戦じゃないか。


「ふふ……どうやら、私の賢さがようやくわかったみたいわね」

「ああ、お前にもこんな特技があったんだな」

「なによ、その可哀そうな人を見るような目は。これでも私は大精――いえ、大天才なのよ!」


 大天才ってなんだよ。


「とにかく。『物量作戦』なら確実にあんたは脱出できるわ。あとはアイツにバレないように抜け出すだけよ」


 それが一番、厄介じゃないのかな。

 最近、大聖堂の関係者が俺の居場所を探っているというウワサが流れている。

 ここにいる冒険者には口止めしているから大丈夫だが、他の冒険者や大聖堂の関係者に見つかればマリーにバレる可能性が高くなる。


「じゃあ、作戦の決行日についてだけど……」


 決行日時は今夜。お金の件もあるが、マリーに見つかる前に逃げださないと。


 そのほかにいくつか注意事項を話した後、ラピスによる作戦説明会は終わりを告げた。

 冒険者たちは各々準備を始め、俺もまた逃げ出す用意を整える。

 整えると言っても荷物はすでに宿屋から取ってきている上に整備しておく装備もない。


 決行時間まで待機するだけだ。


「そういえば、ラピス」

「なによ。あんたと違って指揮官は忙しいのよ」

「お前は悪魔族デーモンと出会ったのか?」

「見てないわよ。だって、私たちだけでティンクルベアに勝てるわけないでしょ」

「ああ。たしかにそうだな」

「でも、どうしたのよ。なにか気になることであるの」

「いや……あのとき、悪魔族デーモンにロスされたとき……何か言われたんだ」

「なによそれ。どーせ『弱っちい人間!』とか言ってたんでしょ」

「いや、どーもそんな感じじゃなかったんだ。なんていうかその……呟いていたみたいなんだ」

「意味わかんないわ。倒した敵の数でも数えているんじゃないの」

「うーん」


 どうも、あの悪魔族デーモンの少女が呟いていた言葉が気になるのだ。

 よく聞き取れなかったから余計に気になる。


 一体、なんて呟いたんだって。


「そんなことより、あんたも準備しなさい。ほら、あんたの獲物だってサビてるでしょ」

「これはデフォルトだろ! どんなに磨いても取れないし!」

「なら、少しでも食事とか睡眠とか体調を整えておきなさい。今日は正念場よ」

「そうだな」


 ラピスは本当に忙しいのかそのままリーシャの下へと行き、何か話し込む。


 今夜は正念場なんだ。

 今夜、この街から逃げれれば終わりなんだ。


 ラピスに言われたように俺は少し休むことにした。

 今夜、この街から逃げるために。

 俺はゆっくりと目を閉じた。

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