私が私であるために
私は大きすぎる犬の首に抱き着いた。
「あぁ、ファーディア。」
「人前でその名前は言うな。」
「人前?ここは私の部屋で。え?」
部屋は金色に光りだしてその輪郭を失い、私までも輪郭を失っていく。
私の腕が、足が、所々に穴がぼこっと開いて、私という存在が砂になっていくような感じなのだ。
――魂が剥がれてしまえば、それは食欲だけの獣となる。
頭の名でサマエルの言葉がこだました。
私がこれからエイリアンになる兆しなのか?
「なるかああああ!」
「キャイン!」
私は藁をもつかむ者として、ファーディアの耳をぎゅうと掴んだらしい。
これはすごく痛いだろうな、と、すぐに手を離すと再びファーディアの首筋に抱き着きなおした。
「お前は解錠出来た。あとは自分を失うな。今のお前のままでいてくれ。」
私はピンク色っぽい金髪の人形のような外見を思い出し、げげっと声が出てしまっていた。
「あれこそエセルの趣味なの?」
「悪いか!俺は大好きなんだよ。あの妖精みたいな真っ黒い眼も、赤ん坊みたいな小さな鼻や口も、もさもさしていた真っ黒い髪の毛も、俺は大好きなんだ。再構築したんだろ、だったら、そのままでいてくれ!」
え?
私はエセルの言葉に自分の体を見下ろして、全裸だが、ピンクじゃない乳首に懐かしいものを感じながらも、ちぃっと舌打ちもしていた。
ここはピンクでも良かったな、と。
そして、下をも見下ろして、生えているって事にがっかりした。
どうしてムダ毛って無駄なのに生えるのだろう。
「あぁ、どうしよう。私は私に戻れたのに、足にムダ毛があるって嘆いている。」
私の腕の中の犬は笑い出し、そのうちにむくむくと大きな男の人型を取り、そして、私の愛したあの日のファーディアよりも大人びたエセルバート・グレインへと変化した。
私だってきっとあの日より大人になった私なのだ。
それは全く問題ない。
そして私と彼がいる場所は、何もない丸い空間の中心に電子機器が光り輝いているという、イギリスのご長寿番組の宇宙船のような内装だった。
私はサプライズパーティに呼ばれて騙されただけなのかと思う程だ。
ぐいっと全裸の男に抱きしめられ、彼は私にごめん、と言った。
「あのへんな趣味で召喚を間違えた事?」
私は彼に額をぱしっと叩かれた。
「あれは、違う。この船の女王だったティターニア・アンブレイズの外見だよ。君が何度も転生したその後の姿。俺は鍵となる彼女を召喚して彼女の魂をそこに入れるつもりが、大昔に死んだ君こそ入れてしまった。俺はこの世界に生まれさせられてから、ずっと君を探していたんだ。ようやく君を見つけたら、君の身体でないのに君の魂から手を離せなかった。そのせいで、あんなに痛い目にあって。可哀想に。本当に済まない。」
「うむ。」
それしか言えなかった。
彼の愛しあうため、が、本当に私が望む愛し合うの言葉であったのだ。
肉体だけでなく、心の愛し合う、だ。
あの日の私達が誓い合った、愛しているの実践だ。
私はあの日のように、恥じらいも無く、裸のままエセルに抱きついていた。
私の喜びを表わすように、私の背中だってブブブと羽を鳴らしているじゃないか。
え?
羽?
私は後ろを見返して、自分の背中の六枚の虫のような羽が開いて動いている様に、そのまま世界を暗転させた。
こんなの、気絶するしか無いじゃない。




