私達はどこに行こう?
「東に行こう。」
ファーディアは簡単に言い切った。
「ミミの国があるところに行く。」
パクスロマーナ時代では、日本はどこ?なのだが黙っていた。
弥生時代なら辿り着いても安全そうだし。
それに、取りあえず、私としてもローマの勢力から彼を逃す事が最適だと思うので、彼が自分の故郷でもあるこの島を捨てる事には異存は無かったのである。
でも、ローマ支配の及ばないアジア圏に行く前に、ユーラシア大陸の西は完全にローマ勢力というか本拠地があり、危険度がこの島にいるよりも高そうなのは確実だ。
この島の北へと向かう事で、彼は生き延びられないだろうか。
深い雪や寒さは、追ってくる地中海出身者にはきついのでは?
「ねぇ。私がここにいないとして、あなたが一人だったら、あなたはどこに向かっていたの?ただ逃げ回っていただけ?」
ぷつっと電源が切れたスマートフォンのように、彼は無言になって無表情にもなってしまった。
何が気に入らないんだろう。
そして、何を言いたくないのだろう。
「エセル。ねぇ、ファーディアさん。」
今度はあからさまにむっとした顔をした彼は、私からぷいっと顔まで背けた。
「ねぇ、ねぇったら。」
彼の肩を揺すったが、彼は拗ねたような顔をするだけで一切答えようとしない。
「ねぇ。私は出来うる限り安全で、距離も短く、日数も少なくすむ、安近短な策があればそっちがいいの。ファーディアが怪我をするのはとても嫌だもの。」
彼の口元は少しにやっとし、すぐに真一文字にしたが、私は見逃さなかった。
よし、こっち方向で行けばいいのか。
「さっさと落ち着いてね、一緒にご飯食べたり、一緒にゆっくりとお話ができるところに早く行きたいなって、私は思ったの。」
「俺が安全になっても、ミミは俺と一緒?」
彼は私と長くいたいから、長く危険な旅を選択したのか?
私の頭はそこから先は考えるのを止めた。
なんか、頭の中でポンっとお花が咲いた気がするからだ。
「あ、当り前じゃない。ず、ずっと、うん、ずっと一緒。」
「北上しよう!」
「わぁ!」
彼は飛び跳ねる感じで私に振り向いて来ただけでなく、いつの間にか私の両手さえ彼の両手で包んでいるのだ。
もう、ファーディアの眼は煌くどころかギラギラだ。
「ずっと北に師匠の師匠が住んでいる村がある。そこに行こう。そこで一緒に住もう。ずっと一緒だ。俺達はずっと一緒だな。」
これは結婚の約束のようなものかもしれず、そして、完全に誓いのようなものだと頭の片隅で私に警告する声が聞こえてもいた。
だけど、ファーディアの嬉しそうなこの顔と、希望やら憧憬やら素晴らしいものを輝かせたその瞳が、私にしか向けられていないのだ。
私の頭には花畑が地平線の彼方まで広がり、心の中は心臓がヘビーメタルバンドのライブのように、ガンガンガンガン鼓動を打っている。
「ミミ?」
「約束する。ずっと一緒。」
私は彼に引き寄せられ、キスされた。
唇ではなく顔じゅうに、ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ、だ。
先程迄のキラキラ感が消えて、自分が猫か犬になった気分になってしまった。
もう!
ここは唇にチュウ、じゃないのか?
私が結婚の約束のようなものだと思っただけで、彼が差し出したのは友の約束だったのか?
そうなのかな。




