私は
目を開けたら私は一人で、でも、私の体には彼のボロボロのローブが巻き付けてあった。
ローブしか持たない彼がどんな格好をしているのか考えない振りをして、私は取りあえず鞄から裁縫道具を取り出した。
ボタンが取れた男子の袖にボタンを縫い付けてやった時には、男に媚を売る的な嫌味をクラスの女子に言われたが、困っていた奴を助けてどこが悪い。
こんなものまで持っている私は女子力が高いのではなく、自分が壊し屋で破り魔だからでしかない。
破れた制服や体操着は自分で繕わねばならないし、ゼッケンなどがあれば忙しい母親に頼らずに自分で縫い付けなければならないのだ。
我が家はこれから私を東京の大学、それも私立に行かせるために、両親は日々ハードワークをこなし、家族全員質素に蓄えを重ねているのである。
頭が悪くてごめんね、お母さんとお父さん。
けれど、靴下の穴を刺繍みたいにして繕う方法を知ってからは、覚えると簡単だが意外と楽しく、少々趣味として嵌ってしまったのだ。
よって、太めの手縫い糸は無駄に色とりどりで揃えてある。
駅まで自転車でかっ飛ばせても、電車は一時間に一本だ。
帰りの電車に乗り遅れて駅で電車を待つ羽目になった時は、父や自分の靴下を繕って時間つぶしをしているので、日々裁縫の腕が上達している。
そして、カラフルで変な靴下が増える父は、増えるごとに上機嫌になっている。
「俺のローブ。」
穴倉の入り口には逆光を浴びた男が立っていた。
逆光による影が体の正面にできたお陰で、彼の秘密部分が私に秘密を開示することは無かったが、彼の表情がわからなかった事はとても残念だった。
家族以外の誰かが私のした事に対して、こんなにも嬉しそうな声を上げたのは初めてじゃないだろうか?
「え、ええと。破れた所だけ簡単に繕ったの。ほんと、簡単にだけど。」
「ありがとう!」
「わぁ!」
ほんの一瞬でファーディアは私の真ん前に座り込んでいて、私に彼の全身を余すことなく見せつけた。
赤く擦り切れた怪我だけじゃなく、皮を剥がされた後のような傷跡や、火傷のケロイド、切られたのか細長い蛇が潜り込んでいるみたいに盛り上がったままの怪我のあと、あと、あとだ。
薬を塗ってあげた時にも目にした傷跡たちだが、だけど、私が辛さに耐えられなかったのは、私を神様のように見つめる彼の笑顔の方だ。
胸がきゅうと、断言できるがこれは恋ではなく、人の不幸を知ってせつなくなる方の痛みでしかない。
私は勝手に流れて来た涙を止められない。
「ごめん、驚かせた。俺が怖いか?」
「あなたをだきしめていい?」
自分の言葉にも驚いたが、私は自分の言葉が終わる前に彼を抱きしめていた。
こんなにハンサムで、こんなに優しい男なのに、どうしてこんなに不幸なんだろう。
どうして彼は殺されるまで逃げ続け、生きるために逃げ続けなければいけないのだろう。
彼に温かい寝床と平安を与えるには、私に一体何ができるのだろう。
「ごめん。」
「どうしてあなたがあやまるの?」
「ミミを不幸にして、ごめん。」
「はい?」
私はファーディアの顔を見返そうと彼から体を離そうとして、再びがっちりと抱きしめられた。
「ちょっと。」
「ミミは気持ちがいい。絶対に君を妖精の国に帰す。それは約束する。だから、今は俺と一緒にいてくれ。」
約束をありがとうと返すべきなのだろうが、私は突如自分の頭の中で沸いた疑問によって、ファーディアの温かい腕の中で固まってしまっていた。
私は帰りたいって、ファーディアに会ってから、いや、この世界に来てから考えていなかったかもって。
私はファーディアを残して帰ることができるのだろうかって。




