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それから女は5回ばかり男の家に遊びにきます。小鳥の頭部が完成します。そして、今日にいたります。
男はぼんやりとした視界で、小鳥の姿をとらえます。そして小鳥のことをあわれに思います。
自分がすでに死んでいることに、小鳥がまだ気がついていないからです。女がまた遊びに来て自分を完成させる未来を、まだ無邪気に信じて疑ってないように見えたからでございます。
男はいたたまれない気持ちになります。そんなもんですから、男は小鳥を丁寧にティッシュペーパーで包み、ゴミ箱のなかにしまい込んでしまいます。
「あのね。もう終わったんだってさ。ごめんね」
男は小鳥のことを忘れようと、発泡酒をあおります。
テレビをつけると、深夜番組をやっています。しかしまるで頭に入ってきません。
男は小鳥のことが、やはりあわれに思えて仕方がありませんでした。小鳥はきっと、まだ自分が死んだことを理解していなくて、ただ暗い箱の中で不安に怯えている。そんな気がしたからです。
男は残りの発泡酒を一気に飲みほし、最後の発泡酒を冷蔵庫から取り出し、机の上に置きます。
それからゴミを開き、白いティッシュペーパーの塊から、小鳥の頭部を取り出します。それを机の上に置きます。それから発泡酒を一口飲みます。
男は小鳥を、自分一人で完成させることにしたのでした。
男はブロックに触れると、女のことを鮮明におもいだしました。
わくわくとした笑顔や、アルバイトのときにする営業用スマイルまで。悲しいときにしおれる三つ編みは、その編み目にいたるまで。黒い髪の毛の一本一本にいたるまで。
男は女のことを思い出しながら、小鳥を少しずつ完成させていきます。胴体までできあがります。
ブロックの無機質な冷たさが、女との思い出をまた火花のように散らします。
※
「ねえ、二人でやりたいこと、紙に書き合ってみせようよ!」
女の提案でした。
「いいね。たくさんありすぎて書ききれないかもだけど」
二人はそれぞれ紙に、それを書きなぐっていきます。
二人でお酒を飲みに行く。吉祥寺の井の頭公園で、ボートに乗る。メイド服を着せる。もちろん、小鳥を完成させるというものもありました。
「すごい……楽しそう!」
女は目を細めて、そう言いました。
「全部叶えようね」
「うん。でも……」
「でも?」
「そんな日って、本当に来るのかな?」
女が予言した通り、そこに書かれたことは何一つとして叶いませんでした。
※
小鳥はついに完成します。男は酔っ払ってふらふらになった手つきで、小鳥をブロックの台座にのせて、それをじっくりと眺めます。酔っ払って作り間違えたせいか、少しいびつな所もありました。でもまあ、一応の完成でした。
「ねえ、可愛くない?」
女の声がします。
「ほんとだ。かわいいね」
男はそれに返事をします。