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 男は家に帰って風呂に入ります。


 寝室のベッドにばたんと倒れ込みます。頭の中は女のことで一杯です。寂しくて寂しくて、仕方がありません。


 まあそんな具合なもんですから、頭の方も少しずつおかしくなっていきます。男は携帯電話を開いては、なにやら懸命に指を動かしております。何をしていたかっていいますと、女のTwitterを、狂ったようにひたすらチェックしてたんです。


 自分に宛てたメッセージがないか、新しい彼氏に宛てたメッセージはないか。そんなことをひたすらチェックしているわけでございます。


 そのチェックの頻度が、まあ尋常ではございません。5秒おきくらいにリロードしてるんです。異常な光景です。


 もちろん、男も自分がやっていることが異常だとは分かっています。でもリロードする指は、どうしても止めることができません。「もういい、やめろ」と、そんなことを頭の中で思っても、それとは無関係に指が動いてしまうんです。


 まあ仕方のないことかもしれません。女との繋がりが突然失われたわけですから。男には女のtwitterが、最後の蜘蛛の糸に見えたのかもしれません。


 しかし男が何度リロードしても、自分に向けられたと思えるようなツイートはありません。なんでもないようなツイートが、時折流れていくだけです。深夜3時を過ぎた頃には、ツイートそのものが完全になくなってしまいました。


……まあ、夜中の3時ですからね。


 女も寝たんでしょうな。男とのケジメもひとまずつきましたんで、もう男のことを気にする必要なんかありません。新しい彼氏とのデートのことでも考えながら、すやすや寝ていたに違いありません。


 男もそのことは、頭の中では分かっておりました。

 しかし男はそれでも、どうしてもリロードをやめることができません。リロードすることをやめようとすると、息が苦しくなるんです。


「いかん。これでは完全にストーカーだ」


 男はそうつぶやくと、思いきって携帯電話を充電器にセットします。寝室から出てふらふらする頭をおさえながら、冷蔵庫に向かいます。冷蔵庫には冷えた500mlの発泡酒が3本ほど転がっています。男が帰り際に買って帰ったんですな。


 男はそれを取り出し缶を開け、一気に飲みほします。続いてもう一本はテーブルに置いて、ゆっくりと飲むことにしたようです。


 さて、男がそのテーブルに視線をうつしますと。

 そこには「鳥の頭部」が無造作に置かれておりました。


 鳥の頭部……といいましても、それは小さなブロックで出来た鳥の頭部でございます。小さなブロックを設計図通りに組み合わせると、小鳥が完成するっていう。そういうオモチャが、東急ハンズなんかのホームショップで売っているわけですね。


 このオモチャは女がある日、男の家に持ってきたものでございます。その時二人の間には、こんな会話がありました。



「ねえねえ、これ見て!」

「なにこれ?ブロック?」

「そう。ブロックを組み立てると、小鳥ができるの。完成図見てみて。ねえ、可愛くない?」

「ほんとだ。かわいいね」

「ねえ。お願いがあるんだけど……」

「なに?」

「一緒に作ろうよ」

「いいよ」

「やった!」


 そうして二人は小鳥を作りはじめます。小鳥は頭の方から作り始め、最後に足ができて完成するようでした。


 二人がブロックをいくつか組み立てたとき、女の方からある提案をします。


「ねえ。これ作るのやめよ?」

「え、最後まで作らないの?」

「作るよ。でも、今日はこれでおしまい。後は、1回この家に私がくるたびに、1つずつブロックを組み立てていくの」

「なるほど。あと20回くらい家に来たら完成するね」

「うん。絶対、完成させようね」

「約束だね」


 そうして二人は、小鳥を作る約束をしたわけでございます。

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