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思念惟想憶

 文化祭の片付けに行った学校には、妙な高揚感がいまだ残っていたのであろう。


 実を言えば告白されたのだ。

 小菊さん、という。1つ上の学年の、確かフェンシング部。

 メフィストとも阪口くんとも違う、「まともそう」なひと。

 (二人がまともじゃないと言うのではない。二人共至極まとも、というか真面目だ。ただそれは次元の違う話なのだ)


 私の何が良かったかは聞かなかった。


「伏せがちな眼、とか」

と阪口くんは考え込んでいたっけ。

「或いは数ちゃんのシニカルで厭世的な裏側、など」

 そんな部分を垣間見せた覚えはないよ、と答えると、「誰かさんの影響なんじゃない?」と密やかに忠告されてしまった。




 心当りの相手にそれを打ち明けてみる。

 デートで他の人に告白された出来事を語るのも、時には一興、かしら。

「それはめでたいことで」

 眉をひそめつつ口の端を上げる独特の笑み方で、誰かさんは嫌味を言ってきた。


「別にめでたくはないでしょ。断ったんだし」

「何故だ? 妥協できない程つまらない男だったか」

「逃げたくなる程いい人だったわ。阪口くんが天使なら、あの人は仏様みたいなひと」


 犬で言うならゴールデンレトリバー。

 お知り合いになるタイプとして非常にレベルの高いジェントルマンだったが、

「だったらそいつの所に行けばどうだ」

 いかんせん私は、

「私が好きなのは、メフィスト兄さんだから」


 悪魔で、黒いムク犬で、誰も近寄らない彼が私の好きなひとなのである。



 これは恋であって愛ではないということに私は気付いている。

 憧れでも敬服でもなく、私がしているのは恋なのだ。

 メフィストと話がしたい。メフィストの傍にいたい。それは彼の幸せのためではない、実に身勝手で一方的な、ある意味で専横的な感情なのだ。


 恋は盲目とはよく言ったように、きっと私には何も見えていない。

 恐らくメフィストすら見えていない。

 メフィストに恋する自分しか見えていない。

 自分しか見えていないということは、その分打算を働かせ利己的になる。

 彼に好いて欲しいと願うから、私は何でもやるだろう。世界だって敵に回せる。


 いや、世界ぐらいならば敵に回せる。


 小菊さんは私に対してそんな思いは抱いていないだろう。きっと日を追うごとに忘れていくだろう。


「『そっか』、ってあっさりだった」

「お前も見習え、その男を」

 想い人は、うんざりした視線を寄せてくる。

「嫌なら来なければいいじゃない」

「おれがそうするのを、お前は見逃すのか。お前と阪口は」

「あはは、まさか」

「そうだろう」

 それ以上文句を言わないメフィストの隣で、次の話題を続けることにする。




 私は、きっと死ぬまで忘れられない。


思念惟想憶:おも(う)

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