嫌われ令嬢の石、自我がすごい
「石って言わないで。アタシには、オタっていうオーリア様がつけてくれた、世界一素敵な名前があるんだから」
その声は僕の言葉を否定することなく、要求だけ突きつけてきた。
オーリア様が持つ、ネックレスの装飾である石は、オタという名前らしい。
この世には、喋る石があるんだ…。
まぁ、そうだよな。魔法だってあるんだし。
「それと同時に、この世界の全てを操ることができる。さぁ、ひれ伏しなさい!」
「オーリア様、この石、やっぱりやばいんじゃ…」
「オーリア様をそそのかさないで!」
「2人とも、仲がいいんだね」
オーリア様に向かって声を潜める僕と、喚く石と、トンチンカンなことを言うオーリア様。
場の収集がつかなくなってきたので、一旦リセットするために、僕は咳払いをした。
「で、この、オタが、オーリア様をここまで連れてきた、ということですか?」
「そう。オタはすごいんだよ。お義姉ちゃんよりも強い魔法が使えるの」
「…へぇ」
オーリア様の言う、お義姉ちゃん、とは、ヒエナ様のことだろう。
…前世でいくら徳を積めば、僕はヒエナ様の弟になれたのだろうか。
しかし、そんなこといくら考えても意味が無い。
僕は気持ちを入れ替えて、オーリア様の話に集中することにした。
「私が捕まりそうになった時、風でロウソクの火を消してくれたのも、風でここまで私を運んでくれたのも、家を建ててくれたのも、全部オタ」
「そうだったんですね…」
オーリア様の不自然な現象は、全てこの石、オタの仕業だったらしい。
誰もオーリア様がこんなチート級の石を持っているなんて思わなかったのだから、見つからないのも納得である。
何より、この村は地図には載っていない。
オタはそれを知った上で、オーリア様をここに連れてきたのだろうか。
しかし、現在お尋ね者である、オーリア様が今ここにいるという状況は、この村を守る身としてはいただけない。
「…オーリア様、これからずっとここに住むおつもりですか?」
「ううん。旅人がここにずっと住んだら、変じゃん」
「たしかに…」
そう言えば、ここでの彼女はお尋ね者の元令嬢ではなく、旅人のリオだった。
その言葉を聞けてホッとした僕は、酷いやつだろうか。
少し罪悪感を覚えた僕は、少しだけ考えて、口を開いた。
「あの、何か必要なものや助けて欲しいがあれば、手助けしますよ」
「大丈夫。オタがいるし」
「そうよ!私がオーリア様に不自由な思いもさせないし、オーリア様のお望みも叶えてさしあげるわ。だから、貴方の助けは必要ない」
後半にかけて、オタは僕を牽制するように声を低くして言った。
この石っころ、オーリア様への執着がすごい。
どうしてそこまで、彼女に心酔しているのか分からないが、それは特に興味はなかった。
謎も粗方解けたし、この村に長く滞在するつもりもないのなら、もう聞くこともないだろう。
話をひと段落させるために、僕はまとめるように言った。
「本当に、旅人になるおつもりなんですね」
「ううん」
「え?」
否定されるとは思わず、思わず聞き返した。
今までの話をまとめると、そういうことだったではないか。
それとも、僕は何か大切なことを聞き逃したのだろうか。
「じゃあ、これからどうするおつもりで?」
目を瞬かせる僕を、オーリア様は真っ直ぐに見た。
「世界征服」
それは、夢を見る子供のように、純粋で、迷いのない瞳だった。
どうしてだか、僕はその瞳に、ゾクリと体の内側が震えた気がした。




