強欲な嫌われ令嬢
「だって、酷いよ。私は何も悪いことしてないのに、いきなり追いかけられるなんて。お陰で、家も今までの生活も失っちゃった。だから、私がこの世界で一番偉い人になって、もうこんな事が起こらないようにするの」
「素晴らしいです、オーリア様!」
まるでピクニックの計画を話すように、オーリア様は言ってのける。
まるで自分にとって簡単なことだ、とでも言っているようだ。
僕は、ついに目の前の人間が分からなくなってきた。
「…それは、国家に反逆するってことですか?」
「うーん…?まぁ、そうなるね」
「そんなに、恨んでいるんですか?」
「ん?」
「…トージャー殿下のことを」
その名前を出すと、オーリア様はあっと声を上げた。
「そう!私、あの人嫌い。うるさいから」
「う、うるさい…?」
容姿端麗、文武両道、何より身分関係なく人々に慈しみを与える、あのみんな大好きトージャー殿下のことがうるさいから嫌い、と言ったのか、この人は。
予想外すぎて、言葉を失った。
「私が何をするにも、ああしろこうしろって、うるさいんだもん。せっかく寝ようって思ったら、少しは勉強したらどうだって言うし、散歩に行こうとしたら、令嬢がひとりで出歩くものじゃないって怒るし」
…殿下はお前の親か。
そう言いたくもなったが、僕はそれを飲み込んだ。
「…至極真っ当では?」
「このモブ!口を慎みなさい!!」
オタが口を挟んでくるが、僕は無視した。
どうしてこの石は僕に当たりが強いのだろう。
「たしかにそうかもしれないけれど、私はその時どうしても寝たかったし、どうしてもひとりで散歩がしたかったの。それだけは、絶対に譲れない…しかもこの間のせいで、私は居心地のいい大好きな家も奪われた」
その瞬間、オーリア様の声色が変わった。
「私は、私の大事な場所と時間を、もう誰にも奪われたくないの」
先程まで穏やかだったその声が、今では身震いするほど冷えきっている。
彼女は、本気で怒っていた。
オーリア・カインノーラという人間は、何事においても無なのだと思っていた。
恵まれた環境も、学校も、人間関係にも無関心。
生まれた時から歩む人生が決まっていた彼女にとって、夢も希望もないだろう。
何に向かって生きていけばいいのか、分からない。
だから彼女は特に何かを頑張ることはせず、人の言うことを最低限こなす生活をしている……しかし、それは間違いだった。
オーリア様は、自分自身の欲のままに生きているのだ。
周りのことに一切気を止めず、自分を思って貰った忠告も無視して、我がままに生きてきた。
だから、授業もサボるし成績は最下位だし、悪い噂も気にもとめないし、殿下に婚約破棄されてもそれで心の傷を負っている様子もない。
それが、オーリア・カインノーラという人物なのだろう。
「そのために、私はこの世界で一番力のある人になる」
凛と発せられるその声に、彼女は本気で言っているのだと思った。
こんな子供みたいな理由で、本気で世界を征服しようだなんて思う人が、オーリア様以外にいるだろうか。
いや、絶対にいない。
ああ、この世に、こんなに面白い人がいたなんて。
全財産を賭けるギャンブラーを目の前で見ているかのように、僕の心臓は激しく高鳴った。




