嫌われ令嬢は石に名前を付けるタイプ
「…こうして鳥は、愛しい人を、静かに見つめるのでした」
オーリア様がそれを最後に、口を閉ざすと、自然と拍手が沸き起こった。
中には涙をながしている人もいたが、それを大袈裟だと思わないくらいに、話はよくできていた。
オーリア様が語ったのは、人間に助けてもらった鳥が、その人に叶わぬ恋をする話だった。
鳥は助けてくれたお礼に、人間に密かに恩返しをする。
しかし、それを奇跡だとしか思わない人間と、何も報われない鳥。
また、種族の違いや、その人間にも好きな人がいたこと。
多くの障壁による痛々しく複雑な心理描写は繊細で、また、鳥視点から語られる空を飛ぶ描写は、目に浮かぶようだった。
特に、娯楽の少ないこの村の人々にとって、彼女の話は新鮮だっただろう。
…まあ、それはそれとして。
皆が感想を言いにオーリア様を取り囲む中に突っ込んで、僕はオーリア様の前に立った。
「おー…リオ様、少し、お時間をいただけますか?」
出来るだけ当たり障りのない笑顔を浮かべてそう言うと、オーリア様は表情を変えず、ただ首を縦に動かした。
相変わらず、何を考えているのか分からない人だ。
村から少し離れた場所に、僕と同じ背丈くらいの神をかたどった像がある。
村の人たちは、毎朝そこでお祈りをするのが日課だった。
そこには簡素な椅子もあり、それに座るよう促した。
地味なワンピースの上に、薄汚れたフードを被っているが、座る所作は綺麗で、とても旅人には見えない。
「…貴族の所作が滲み出ていますよ、オーリア様」
自分は気付いているぞ、という宣戦布告のようなものだった。
誤魔化すか、逃げるか、見逃すよう命乞いをするのか。
無意識に肩に力を入れて、オーリア様の言葉を待つ。
しかし思惑に反して、オーリア様は得意げな表情で言った。
「私が誰か、気付いたみたいだね」
最初から己の身分を隠すことなく、寧ろ誇らしげに言うものだから、ドン引きだ。
こちらとしては話が進めやすいだけなので有難いが、この先のこの人の人生が不安で仕方がない。
「…………少しは、誤魔化すとかしてくださいよ」
「だって、かっこいいじゃん」
同じセリフを、過去にも聞いたことがあった気がする。
彼女の美的感覚が一般よりずれていることは分かったが、今はそこを深堀りしている暇はない。
気になることが、多すぎる。
「数日前から、ここにいらっしゃるとの事だったんですけど、パーティー会場からどうやってここに?」
王都から遠く離れたところにあるここは、馬を使っても1週間はかかる。
しかし、追われている彼女が、馬を調達するなど難しいだろう。
…そもそも、この人は馬に乗れるのだろうか。
乗馬の授業で、オーリア様を見かけた記憶がない。
「風で、私をここまで運んでくれたの」
「…でも、貴女は魔力が無いはずでは?」
「うん、無いよ」
質問に答えるその顔は、嘘をついているようには見えない。
けれども、穏やかな声で告げられる言葉は、矛盾だらけだった。
「でも」
するとオーリア様は、自分の首元を漁った。
「オタがいる」
そう言いながら、彼女は僕にネックレスを見せつけた。
金で縁どられたイエローの石が、太陽の光に反射して、キラキラと輝いている。
…なるほど、この人は、石に名前をつけるタイプだったのか。
「…アンタ、もしかして今、オーリア様のこと、馬鹿にした?」
「いやいや、まさか…………は?」
普通に会話を続けてしまったが、すぐに違和感に気付いた。
オーリア様とは全く別の声が聞こえたのだ。
いやでも、そんなはず。
僕は恐る恐るオーリア様に問いかけた。
「…………さっきの、オーリア様が、言いました?」
「ううん。オタが言った」
「その、オタって…?」
「だから、アタシのことよ!この鈍感モブ!!」
キンキンとした高い声が、耳に響く。
今度はオーリア様が口を開いていないところを、しっかりと見た。
オーリア様が、落ち着いて、と石に語りかけているのを見て、僕は嫌でも悟ってしまった。
「石が、喋ってる…?」




