嫌われ令嬢、値段をつけられる
その数日後。
オーリア様に懸賞金がかけられた。
王都のど真ん中に、屋敷をひとつ建てられるくらいの膨大な金だった。
懸賞金をかけられる元令嬢って、何なのだろう。
どうやら、オーリア様もある意味、遠いところへ行ってしまったらしい。
その日、僕は父に連れられて領地の視察に行った。
我らが領地は王都から離れた場所にあるが、とても広く、自然が豊かな場所だ。
そこに住む人達は皆、農業を中心に生計を立てており、天候に左右されつつも蓄えも十分にあるため、食べ物には困らない。国の中では、非常に豊かな土地だ。
地図には載っていない、本当に小さな村だけれど。
その村の村長と父が話している間、僕は村の人達と話をしたり、子供たちの遊び相手になったりして過ごしている。
父は民を守る貴族として、人々に寄り添い声を聞くことが何よりも大切だと言っていた。
僕もそれには同感だったので、素直に実行している。
「あ、もうすぐ、リオ様が起きる時間だ!ケト様も、リオ様のお話、聞いていきませんか?」
昼時に近付いて来た頃、一緒にかくれんぼをしていた子供たちのうちの一人の女の子が、そう言ってきた。
聞き覚えのない名前に、僕は首を傾げて問いかける。
「リオ様って、誰?」
「えっとね、最近、ここに来た旅人さん!毎日、面白いお話を聞かせてくれるんです!」
「へぇ」
旅人、お話。
そのふたつの単語だけで、旅商人を夢見る僕が興味を抱くのには十分だった。
「ぜひ、聞かせてもらおうかな」
そう言うと、女の子は嬉しそうに目を輝かせて、僕の手を引いた。
そのリオ、という旅人は魔法が使えるらしい。
木々を風でなぎ倒しては運び、1日もかけずに小さな家を建てたそうだ。
どうやら相当な実力者らしい。僕には到底できない芸当だ。
そんな話を聞きながら、僕はある事を思い出した。
パーティ会場で、オーリア様が消える直前に吹いた、不自然な突風のことだ。
誰かが意図的に魔法で突風を起こさなければ、会場全体のロウソクの火が一斉に消えることは、まずありえない。
あんなタイミングで突風を起こすのは、オーリア様しか考えられない。
しかし、オーリア様は魔力が無いはずだ。
だから、突風も起こせないはず。
ならば、協力者がいたのだろうか。
あの規模の突風を起こせるのならば、相当な魔力の持ち主なのだろう。
もしかして、あの場で誰よりもオーリア様を庇っていた、ヒエナ様だろうか。
しかし、突風が起きたのは、ヒエナ様が叫んだ直後だ。
いくら魔力の多いヒエナ様でも、広いパーティー会場全体を巻き込んでしまうような規模の突風を、瞬時に生み出すのは難しいだろう。
では、一体誰が…。
「あら、ケト様、いらしてたのですね」
「ママ!」
その時、女の子の母親に声をかけられた。
女の子はパッと僕の手を離し、母親に抱きつく。
微笑ましいその光景に、自然と頬が緩んだ。
「あのね、ケト様も、リオ様のお話聞くって」
「そうなのですか?申し訳ありません…この子が無理に誘ってしまったのではないですか?」
「いえ。僕も旅の方の話には興味があるので」
「それなら、良かったです。私もこれからリオ様のところに行こうと思っていたので、ご案内いたします」
「ありがとうございます」
リオがいつも話を聞かせるのは、彼女の家の近くだそうで、その道中、母親はリオについて、掻い摘んで教えてくれた。
リオは、僕とほぼ変わらないくらいの年頃の女性らしい。
彼女は魔法で生み出した風で作物の収穫を手伝ったり、村の人々に話を聞かせてくれたりして、日々を過ごしているそうだ。
たまに誰も連れず、ひとりでふらっと森に入ることがあるそうで、村の皆はそれを少し心配しつつ、見守っていた。
どうやらリオは、既に村の人々に慕われているようだ。
たどり着くと、もう既に多くの人が小さな小屋の前に集まっていた。
その中心には、フードを被った小柄の女性がおり、その人が、リオなのだろうと悟る。
「リオ様、みんな集まりました」
誰かがそう声をかけると、リオはゆっくりと顔を上げた。
「…うん、じゃあ、始めるね」
僕は、その瞬間、時が止まったように感じた。
聞いたことがあるのは、一度だけだが、すぐに分かった。
穏やかで、気の抜けるようなあの声を、間違えるはずがない。
「………………は?」
呆然とする僕を前に、オーリア様は、ゆっくりと語り始めたのだった。




